幕開け
開門通り 門前
三原から、杉並町でお祭りやってるからそこで待ち合わせしようと俺にメールが届いていた。杉並町に向かう途中、浴衣姿の人達が俺と同じ方向歩いていたのはそのせいか……と納得。
祭りといえば、俺が中学3年生の時に父親に神輿の上に乗せてもらったことがあった。神輿の下で担ぐ人たちの掛け声と激しい動きがすごくて、今でも忘れられない貴重な体験だった。
父親はお祭りが大好きなのに影響して俺もよくお祭りに参加してたな。祭り独特の空気。響く太鼓の音。やり直せるなら、父ちゃんと母ちゃんで過ごしていた頃に戻ってちゃんと高校に通いたかった。
門の前で待つこと数分。俺は、三原が開門通りの人混みの中からこちらへ向かっているのが見えた。三原の後ろには、初めてみる女の人が一緒についてきていた。
咲「ごめんー、待ったー?」
零「ほんのちょっとだけね」
三原は、手に持っていた袋から透明なパックを手に取り、宮澤に差し出した。
咲「人混みすごかった。焼きそば買ったんだけど食べる?」
零「いや、後でもらうよ」
零「それより、後ろにいる人は?友達の人?」
咲「あ、さっき友達になったんだけど」
咲「なんというか……」
三原が説明しようとしている所に、水野はそれを止めて先に話し出した。
優香「あんたが咲のいう友達?」
零「あぁ、まぁ」
優香「ふーん。じゃあ、"能力"使えるってことだよね」
優香「ちょっとここでやってみてよ」
零「え!?なんで知ってんの。三原、お前勝手に言ったのか?」
咲「あー……ハハ。ちょっとね」
咲「優香ちゃんはさっきそこで初めて会ったんだけど、同じ高校の子で、ものすごく喧嘩強いんだよー。ね?」
優香「んなことはない」
零「へ、へぇ……」
零「(初めて会ったにしては仲良いな……)」
優香「……どうでもいいから早くやって見せて」
零「いやいや、流石にここでは無理だよ。もっと人がいない所なら……」
三原は、交差点の方向に指を指し、ある提案を出した。
咲「昼に宮澤くんと行ったあの公園はどう?今だったら人も少ないと思うの」
零「まあ、あそこなら」
優香「決定だな。あたしは場所わかんないから案内して」
零「初対面から馴れ馴れしすぎないか……」
優香「なんか言ったか?」
零「あ、いやなんでもないよ」
咲「ほらほら二人とも早くー」
三原は水野の手を取り、二人仲良く人 混みの中進んでいった。宮澤は、質問したいことがいくつかあった。
しかし、三原が親しくしているところを見ているをみて、悪いヤツではないことは分かって安堵していた。
公園に向かっている途中、宮澤は気になっていた質問を投げかけた。
零「俺のこと知ってどうすんの?NASAにでも突き出すつもりか?」
優香「んなことはしないさ。」
水野は少し考えている様子を見せて話し始めた。
優香「最初の頃は、あたしの持っている能力を使ってると楽しくて仕方なかった。見せびらかしたりはしなかったけどね。でも、慣れていくうちに歯止めが効かなくなって、あたしがなんでこんな能力をもっているのか自分がなんなのか分からなくなって、怖くなってたんだ」
宮澤は、水野が俺らと同じような力を持っていることに驚きを隠せなかった。まだ一日も経っていないにも関わらず、三原に続いてもう一人の能力者に会うなんてことは予想もしていなかった事態だった。
水野は、間を挟むことなく語り始める。
優香「あたしは昔から喧嘩することしか脳がなくてさ。勉強なんて全然出来なかったんだ。」
優香「中学に上がった頃かな、友達が他校の連中に絡まれてるのを見かけて。そんで、助けなきゃ!と思って割り込んだんだけど、相手の人数が多くて勝ち目はなかったんだよ」
優香「んで、その友達がボコられそうになった時、あたしは咄嗟に頭の中でバットが浮かんできたんだ。あたしは血が登ると頭真っ白になって細かいことは忘れちゃうんだけど、自然な感じでバットを振り回しててその時は気が付かなかった。その後は気づいたらあたしはバットを片手に、他校の奴らは地面に倒れてたよ」
零「頭で考えたことを具現化する力……」
優香「うん」
零「それはその時からってことか?」
優香「わからない。生まれつきなのかもしれないし、その時にってこともあるかもしれない」
零「そうなのか……」
優香「だから、あたしは同じ能力を持っている人と会えたのがすごく嬉しかったんだ。しかも二人も」
水野は少し安心した顔を浮かべた。
咲「最初は全然認めてくれなかったから、結構苦労したよ〜……」
優香「咲はやり方がせこいんだよ」
咲「そうかなぁ〜?」
零「?」
何の話かわからず困る宮澤を横目に、三原は前方に指を指した。
咲「ついたよ〜。ここが城址公園!」
3人は雑談をしているうちに予想よりも早く公園へ到着した。
時刻は21時を周り、城址公園の周囲には祭りの帰りと思われる人が何人か歩いていた。
街灯の小さな灯りには小さな虫が飛び回り、夜の空気はとても澄んでいる。宮澤を含める3人は、公園の中央にある噴水の前に集まっていた。
優香「……ここら辺でいいっしょ」
咲「宮澤くん大丈夫?」
零「あ、あぁ問題ない」
宮澤は周りを見渡して、周囲に人がいないか確認した。
零「じゃあ、とりあえず」
零「ここからあそこのトイレの上に移動するから見てて」
公園の入口のそばにある公衆便所の上に向けて指を指した。
その瞬間、目の前にいた宮澤が消え、公衆便所の屋上には宮澤が手を振ってこちらを見ている。
一瞬の出来事により、三原と水野は目をぱちくりさせて唖然としていた。
優香「………まじか」
咲「私も今初めて見たけど、すごいね」
優香「え?今初めてあいつの力見たの?」
咲「まあ、ね?えへへ」
優香「まじかよ……」
優香「とりあえず本物、ってことはわかったよ」
咲「瞬間移動かぁ……」
零「あー、それだけじゃないよ」
いつの間にか三原の横に立っている宮澤に驚いた三原が、小さな悲鳴を上げる。
優香「まだあんのか?」
零「まだ、というか多分なんでもできるような気もする」
零「そうだなー、例えばあの木とか見てて」
道路側に並んでいる木の一つに向けて右手を差し伸べて、手のひらで掴む動きを見せる。
そして、宮澤はそれを左側へ流す動きをしたと同時に、対象となっていた木が激しい音と同時に左側へ曲がった。メキメキと木が傾く大きい音がなり、衝撃によって葉っぱが滝のように落ちていく。
零「あ、やべやりすぎた」
宮澤は急いで手を放すと、曲がった木は少しずつ元に戻り、木の下には大量の小枝と葉っぱが残されていた。
木の向こう側にある歩道を歩いていた通行人が、急に木が曲がったことに驚いて逃げるようにその場を離れていった。
優香「うわ」
咲「木が……」
零「ごめん、まだ加減がわからなくて……」
優香「…………」
優香「………………すっっげぇな!お前!!」
零&咲「「え?」」
優香「いやぁ、あたしの能力もそこそこすげぇとは思ってたんだけど、やっぱそういう、なんていうの何か操る〜、みたいな力は本当にかっこいいと思っててさ!ほら漫画とかでよくあるじゃん"サイコキネシス"!」
咲「サイコキネシス……?」
零「名前なんてあったのか」
優香「いいよなぁ………」
零「こんな力あったって移動したりもの動かしたりするぐらいしかしないんだけどね」
優香「勿体ないよ。あたしだったら戦争に参加して、バンバン暴れるけどなぁ」
咲「今時戦争なんてそうそう無いし、あったとしても私は怖くていけないや」
優香「は?何言ってるの咲。もうそろ日本も戦争するんだからそんな弱気じゃやっていけないよ」
宮澤と三原は不思議そうな顔で水野を見つめる。
零「え?戦争って?」
咲「いつの時代の話だよ〜。もう戦争は何十年も前に終わってるってば〜」
優香「二人とも何寝ぼけてるの。戦争だったらもう300年は続いてるじゃん。ここ何年かは日本は静かだけど、あと何日かしたらまた始まるってニュースでやってたよ」
咲「また嘘ばっかり〜。ニュースだったら私今日見たばっかなんだよ」
零「俺も携帯で確認したけど、そんなニュースは見てない」
優香「そんなわけあるかよ……。あたしの携帯見ればわかることだけど」
水野は胸のポケットから携帯電話を取り出し、最近のニュースを検索して2人に見せた。
携帯を見た二人は目を疑う。二人の見ていたニュースとは全く異なるものだった。
日本は太平洋戦争終結後、連合国との平和条約を結び戦争の起こらない国へと発展を遂げた。しかし、水野が見せたニュースに書かれていたのは現実は思えない恐ろしい内容だった。
(日本王国は、第六次太平洋・大西洋戦争の準備に取り掛かるため兵士の増員、核兵器・軍事車両の開発を急ぐ。王の判断により、6月2日に日本に存在する能力者の招集を始めることを公表した。日本王国に反発する他勢力国に対抗するべく、能力者は戦争に強制出兵とする。王家直属の配下と使者は六月十三日に全国へ配置、国民は、六月十五日から一ヶ月間にかけて役場にて能力検診を開始された。全国から収容された数十名の能力者達は、Dr.黎明氏が率いる研究員らに引き取られ、能力解明ののち能力者らは万全の状態で出兵するとのこと。尚、先週も公表した通り国王は八月の初めに中国に攻撃を始める予定を変更しない様子)
零「国王……?能力者の収容……?戦争……?」
零「こんなことがありえるのか……。冗談だろ………」
優香「冗談なわけねぇだろ。お前ら検診行かなかったの?まぁ、行ってたら今頃研究所に連れてかれてるわな」
咲「優香ちゃん行かなかったの?」
優香「あたしはなんとなく嫌な予感がしてたからずっと逃げてたよ。ただ、一つ厄介なことがあってね」
零「厄介なこと?」
優香「うん。検診を受けた人は左手首に変な"リング"を付けさせられるんだ。あたしはそれを付けてないせいで街の警備員に何回か追いかけられたりしたんだけど」
水野は、自身の左手首に付いている黄緑のプラスチック製と思われる、両側に縦線の入ったリングを2人に見せる。
優香「あたしの持ってる能力で街の人たちが付けてるものそっくりに作って手首につけてたら、案外バレなくてさ。二人もどう?」
零「便利だなその能力」
咲「さすが優香ちゃん!一瞬これからどうしようかと思ったけど、これなら何とかなりそう」
安堵する三原に対して、宮澤は違和感を感じて呟く。
零「それもそうなんだが」
零「三原、俺たちさ」
咲「うん」
零「違う世界から来たんじゃないかと思うんだ」
藍空で君は舞う 李宮さん @2036__
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