戸惑い
零「やはり君のその力は、妖精と何か関係がありそうだね……。でも、天気まで変えられるとなると俺にもできるかわからないし、君と俺の力は違うものっていうのはわかってきたね」
咲「もしかしたら、こういうことが出来る人は私たち以外にもいるのかもしれないですね」
零「うーん。するともっと調べる必要があるな……」
咲「公園に向かってる途中で携帯で色々調べてたんですけど、あんまり出てこなくて」
零「俺もだった」
零「……三原、良かったら敬語なしで話そう。堅苦しいのはあんまり好きじゃないんだ」
咲「あ、うん……そうしようかな」
咲「宮澤くん」
零「三原、」
その時だった。地面が小刻みに揺れたのを感じ、周囲の木々に止まっていた鳥たちが騒がしく空へ羽ばたいた。重苦しい重機音が木々を挟んだ公園向かいの道路から伝わってくる。
黒く塗りたくられた重機が道路を占領し、歩いていた人たちは道脇へ逃げてその様子を伺っていた。その頑丈そうな黒い重機は地響きを立てながら、真っ直ぐ交差点の方へ向かって進んでいく。
咲「自衛隊、の人達なのかな……」
零「あんなタイプの戦闘車両は見たことがないぞ……デカすぎる」
咲「昼間にあんな大胆に動くものなの?人通りも多いのに」
零「俺も全然詳しくないんだけど、何かあったんだろう。まぁ、一般庶民の僕らには関係のないことだけど」
咲「そうだといいけど…」
零「とりあえず今日は一旦家に帰ろう。メールアドレス教えてくれる?また連絡するから」
咲「あ、うん。わかった」
零「家まで送るよ」
咲「ありがとう」
家に向かっている途中、俺は考えた。なぜ一晩経っただけでこんなに街は変わってしまったのだろうか。街だけじゃない、人々の様子もおかしかった。
ずっとなにかに怯えていて、商店街も賑わっていたとはいえ、前に来たときより人は少なかった気もする。しかもあの自衛隊はなんなんだ……街を守るのが自衛隊だろ。街の人たちを脅かしてどうすんだ。国をあげてのドッキリなのか!?こんな大掛かりのドッキリだったらもう大成功だよ。もうさっさと終わらせてくれ……。
咲「宮澤くん、大丈夫?」
零「あ、ああ何でもないよ。どうした?」
咲「ちょっと気になることがあって」
零「なに?」
咲「さっきから私の家を探しているはずなのにないんだよね」
零「ははは……まさか」
三原はとても焦った様子だった。住宅街にある、スーパーの手前の高層マンションに住んでるらしい。厳密には、"住んでいた"と言うべきか。
三原が指を指した先には、だだっ広い空き地しかなかった。まるでここだけくり抜かれたように。
咲「…………嘘。なんでどうしてないの。私の家……どこに…………」
咲「そんなことが……」
マンションはなくなっていた。それどころか建てられてすらなかったような感じにも見える。マンションがあったと思われるそこの空き地には、背丈が腰ぐらいまで伸びた雑草が、これでもかと言うように風に揺られこちらを見つめていた。
悲痛な泣き声が隣から聞こえる。
思わず俺も意味がわからないこの状況に困惑していた。この国は、ドッキリのためなら1晩で高層マンションすら消し去ることが出来るのか!?いや、そんなことよりこれから先どうすればいいか、特にこの子なんか一番辛いはずだ。俺の家に泊まらせるわけにも_______
零「ちょっとまて」
咲「…………え?」
零「俺んちももしかしたら……」
零「無くなってるかもしれないってことだよな」
咲「ありえるかも」
零「こうなったらどんな事が起きても俺は驚かない」
零「一つ後悔しているとしたら、出かけた時の格好がジャージだったということだけだ!」
咲「早く行きましょう」
零「…………そうだな」
三原と俺が会ったコンビニに向かっている途中、黒い鉄塔を見かけていた。川のど真ん中や、家の家の間だったり公園のほとんどを占領して建てられていたりと、不自然な場所に建てられているものが何棟もあり、まじかで見ると家1件分ぐらいの大きさで窓も何もないただの鉄棒のようだった。
なんの意図があってこんなものを建てたのか分からないし、そもそも1晩で建てられたにしては有り得ないほどの高さだった。やはり自衛隊絡みなんだろうか。
咲「最初のコンビニに着いたわけだけど」
咲「家はここから近いの?」
零「ここのコンビニはよく来るんだ。この先にあるあの赤い屋根の家の反対側に俺の家が…………」
零「ハハハ」
咲「どうしたの?」
零「………………ハハ。ないや」
咲「…………」
零「…………」
咲「やっぱりおかしいわ」
零「そりゃおかしいでしょ。鉄塔やら戦車やらもう」
咲「それもそうなんだけど、それよりもなんで"私達だけ"家がないの」
咲「ターゲットは私達だけってこと?」
零「あ、今思えばそうだな」
零「他の家は普通に残っているし、俺達の家だけがなくなってるって、ピンポイントすぎだな」
零「どうする」
咲「……」
咲「そういえば」
咲「さっきからママに電話かけてるんだけど、全然出てくれない」
零「俺は……」
咲「…………知ってるよ。無理しなくて言わなくていいから」
零「ごめん、ありがとう」
零「とりあえず今日の夜はどうしよっか」
咲「そうね……。友達にも電話してみたんだけど繋がらないし、ネカフェに泊まろうかと思ってた」
零「俺もそうしようかな」
零「その前にちょっと調べたいことがあるから、ここで一旦解散しよう」
咲「そう…………。わかったわ」
咲「杉並町のネカフェで待ってるから」
零「うん。じゃまた後で」
そう言って俺は彼女と1度離れることにした。
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