発展





零「その制服って、藍条高校だよね?」


咲「そうです。もしかして通われてたんですか?」


零「まあ、その、中退しちゃったんだよね」


咲「………もったいないとは思いますか?」


零「前に少しやらかしたことがあったて、変な目で見られたくなかったし、誰も会いたくなかったからしょうがなかったんだよね。後悔してるっちゃ後悔してるかな」


零「__そんなことより、この状況どうにかしないと」


咲「そうですね……。でもどうにかと言っても、別に何も変わってないような気がしますけど。…………あの鉄塔以外は」


零「時計は壊れてるわけでもないし、あの鉄塔の他にもおかしい点は沢山ある。」


零「今の時間は地震が起きてから五分ぐらいしか経ってないはず。」


零「しかもなんで昼になってんだ……」


咲「もしかしたら、夜の間ずっと気絶していたのかも知れません。今日は私学校休みなので、街がどうなっているのか見に行きましょう」


零「あ、俺も行くの」


咲「ひとりじゃ不安なので」


零「あ、はい……」










 街へ来るのは何年ぶりだろうか。騒動を起こしてから久しく街に来てなかった俺は、見たことがない建物や潰れて無くなっているお店などを眺めながら、商店街の中を見知らぬ女子高生と歩いていた。

 休日の昼間の商店街は、人で溢れて昨日の地震などなかったかのように賑わっていた。隣で歩いている女子高生はなんだか楽しそうに俺に話しかけてきた。





咲「あ、たこ焼きの出店来てますよ!私奢るんで一緒に食べませんか?」


零「あ、あぁ、いいよ」


咲「待っててください」






 出店のおっちゃんに気さくに話しかけながら注文している彼女を確認しつつ、俺は街の人に地震について聞いて回ることにした。





 野菜を店前に並べている、人の良さそうなおばあちゃんに話しかけてみるか。




零「すいません、ちょっと伺いたいことが…」


店主「はいはい、今日は鯖の活きがいいよ〜!」


零「いや、昨日の地震の事なんですけど」


店主「ん?地震かい?そういえばちょっと揺れたような気がしたねぇ…。でもそんな騒ぐようなことじゃなかったわ」


零「そんな小さな地震だったんですか?」


店主「そうさね。旦那も地震の時は車で運転してたんだけど、ぜーんぜん気づかなかったって言ってたわ〜」


零「そうですか……。お話ありがとうございました」


店主「次来る時は、魚も買いにおいで!」











 おかしい。あの揺れで俺とあの子は気絶させられた上に怪我もしたんだぞ。俺達がいたあのコンビニが震源地の真上だったのか?いやそうだとしてもこの差はおかしすぎる。もう少し聞き込みすべきか?いや、でも誰に聞いても同じような回答が来る気がしてならない。







 携帯でニュースを見てみたが、やはり震度2とか3であの時感じた揺れほど大きいものじゃなかった。少なくとも震度7以上はあったはずだ。実際にはそれだけの揺れを感じたことがなかったから分からないんだけど……。










咲「そんな難しそうな顔してどうしたんですか?たこ焼き持ってきましたよ~?食べないんですか〜?」


零「ありがとう。そういえば昨日肉まん食べたっきり何も食べてなかった」


咲「あーー。そういえば昨日の夜、コンビニの前で肉まん頬張ってましたもんね。私のことジロジロ見ながら」


零「いや!そんなジロジロ見たつもりじゃ……」


咲「でも見てましたよね?」


零「制服を見てただけだよ……」





 ふふ、と彼女の笑った顔がとても可愛らしい。にしてもなんで知らない俺なんかといて、彼女はとても笑顔でいられるのだろうか。どこかで会ったことあったっけな……。






零「…………そういえば君の名前まだ知らない」


咲「私は、三原 咲って言います。三つの原石に花が咲くと書いて、みはら さき、です」


零「三原、ね。俺は宮澤 零。宮に澤、ゼロを漢字にしてれいだよ」


咲「そのまんまですね〜。でも私、宮澤さんの名前を知る前から宮澤さんのこと知ってましたよ」


零「え?どうして」


咲「あなたの噂を知ってたから。」


零「……噂」


咲「覚えてますよね?”瞬間男”のことについて」


咲「私は、あなたの顔を知っていますし、ことの内容もすべて__」


零「まって。その話は商店街を抜けてからにしよう。ここは人が多い」


零「誰かに聞かれててもおかしくない」


咲「…………そうですね。せっかくなんで近くの公園に行きましょうか」





 商店街を何も話さず、無言で歩く宮澤を三原は色々と質問したいのを我慢して、ただ公園に着くのを楽しみにしていた。今置かれている状況より、彼に会えたという嬉しさで胸がいっぱいだった。

 この人が"瞬間男"なら私を受け入れてくれるはず、そんな淡い期待を胸に三原は生徒手帳に挟んである彼の写真を眺めていた。












零「城下公園か……昔はよくここで遊んだっけか~」




 商店街から少し離れ、10分ほどかけて公園についた2人は、噴水のあるエリアまで歩いていき、木々の下にあるベンチへ腰をかけた。






咲「噴水とても綺麗ですね……」


零「ここは城跡の1部らしくて…………というかそんなことより、なんで俺が"瞬間男"だと分かったのか教えてくれるかな。街の人たちには顔はバレてるとはいえ、もう3年は経ったんだ。顔つきも髪型もだいぶ変わったし、そんなすぐわかるものなのか」


咲「わっかりますよー。なにせ私はあなたの写真を常に持ち歩いてますし、そんな数年で顔が急に変わることなんて整形でもしない限りありえませんから〜」


零「そ、そういうものなのか……」


咲「でも、宮澤さんが"瞬間男"って分かったからってどうということはありませんよ。でも私はずっと会いたかったですし、現に今までずっとあなたを探していました」


零「俺がおかしいことはもう分かってる事だよ。やっぱり物珍しいのかな、普通に生きてくなんて俺には___」


咲「そういうことを言いたくてあなたに会いたかったわけじゃないです!」


咲「その、私も同じような奇妙なことができるので……。ちょっと噴水を見てて頂けますか」






 そう言うと彼女は、噴水に向かって手を差し伸べたかと思うと小声でぶつぶつと何かを喋っていた。

 何をしているのか全くわからないのだが、何か俺に伝えたいことでもあるのか…………










 と思った矢先、


 ザパァァアアン!!!と噴水の水が勢いよく上空に噴き、水しぶきが俺の服に飛び散った。水が段々形を描いて空中に大きな輪っかとなり、ぐるぐると回転してゆっくりと噴水の水たまりへ消えていった。







 今何が起きたのか彼女が俺の肩をとんとんと叩くまで分からなかった。







咲「これが、私と妖精さん達との奇妙な技です」


零「え、あ、妖精さん?技?ははは……すごいね…」


咲「やはり信じてもらえないですか」


零「いや、俺も変な力持ってるし信じないことはないよ……。妖精さんっていうのがまだちょっとよく分からないけど」


咲「今まで生きてきて、私以外に妖精さんを信じてくれる人はいませんでした。」


咲「でも宮澤さんは、何もないところから姿を現したり消えたりできると聞いていたのでもしかしたら妖精さんと何か関係があると思ってたのですが……」


零「うーん。やっぱり妖精とかじゃないような気もする。でも、三原のその力は俺と似たものがあるのは確かだよ。」


咲「私のお話…………聞いていただけますか」




 そう言って彼女は、昔のことを洗いざらい俺に話してくれた。

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