信頼
咲「この度は面接のお時間を頂き、ありがとうございました。」
店長「いえいえ、こちらこそ。結果が決まり次第お伝えします。ありがとうございました。」
三原 咲。今年で17歳。家計を手助けすべく、近所のカラオケ店へ面接へ来ていた。
言葉遣いや、真面目な態度などは全て営業マンである母親譲りで、毎日パチンコでぐうたらな父親の遺伝はほとんどなかった。店長は終始笑顔で、面接の時点では合格だと言ってくれていた。
咲「では、失礼致します」
カラオケ店を出ると、既に当たりは暗くなっていて人通りや車で賑わっていた。街の真ん中は色んなお店で溢れており、それにつられて人々も集まってくるのだ。やはり人が多いところは苦手だな、と三原は早歩きで駅へ向かって歩き出した。
私は昔から一つだけ信じているものがあった。どんな汚い捨てられたぬいぐるみにも、どんな美しい綺麗な花や木々でも、普段飲んでいる水道の水にも”妖精”は必ずいる。私は妖精達に幾度となく助けられてきたし、自分の意思で妖精たちを呼ぶこともできた。なのに、周りの人は信じてはくれない。
自分の家族でさえ、気味悪がられる始末だ。確かに実際に妖精たちの姿を見たわけでもないし、触れたこともすらないけど”いる”ことは確かだった。
電車に揺られること20分。自宅から近い最寄り駅に到着した三原は、少し離れた公園へ向かっていた。
咲「猫ちゃんいるかな〜」
と住宅街の家々の間を覗いたり木を眺めながら歩いていると、ポツリポツリと小雨が降り出してきた。
傘持ってきてないや…。カバンを頭に抱えて、小走りで公園へ着いた三原は、屋根のある休憩所へ雨宿りするため駆け込んだ。
咲「これはしばらく止まないのかなあ〜」
そう呟くと、両手の手のひらを空へ向けて目を閉じた。
咲「…………妖精さん、妖精さん。どうかこの雨を降り止ませて頂けませんか?私は傘を持ってきていないので、家に帰るまででいいので止めてほしいです。お願いします……」
数秒後、三原のいる公園の上空は綺麗な星空達が顔を出していた。雲の姿はどこにもなく、雨も振り止んでいた。彼女は、当然のようにそれを眺めては、空に淡い溜息をついていた。
幼稚園の頃は、よく地面に溜まった水たまりの水の波紋の模様を自分で描いて一人で遊んでいた。周りの子達もそれを見て、咲ちゃんすごいねって褒めてくれてたっけ。あとは、天気予報を見ずに明日の天気とか当てたりしてみんな驚いてたっけ。
今思えば全然些細な事だった。私が中学生に上がる頃にはもうおかしな子って思われてた気がする。地元を離れて、この街で新しい生活新しい学校で1からやり直してもう誰にも妖精の事は話さないし、誰も信じてはくれないだろう。
だけど一年前に__________________
______この街に引っ越してきて数ヶ月経って、学校にも慣れてきたある日のこと。私の住んでいるアパートの大家さんに家賃を渡しに行った時だった。
大家さん「この街には慣れたかい?」
咲「ええとても慣れました。空気が綺麗でとても気に入ってます」
大家さん「そりゃ良かった。それでね、この噂は聞いたかい?"瞬間男"の話だよ」
咲「"瞬間男"、ですか」
大家さん「これはもう2年も前になるかねぇ……。最近はめっきり見なくなったんだけど、その頃に街のあちこちで何もない所からパッと現れてはまた消える男がいたそうなんだよ。なにせその男も咲ちゃんと同じぐらいの年の子らしくてね。噂では、金目の物を奪って悪さをしてたって言うんだけどねぇ」
咲「それは……あまり信憑性に欠けると言いますか…」
大家さん「いやいや、ほんとに見たっていう人が沢山いたのよ〜。その噂が大きくなって、とうとうカメラ持った人たちがその男が住んでる家に押しかけたらしいんだけど、どうやら人違いだとかなんだとかで押し返されたって。」
咲「それで、どうなったんですか?」
大家さん「その後ね、その押しかけた家の真子さん?っていうのかしら。その男の母親が自殺しちゃったらしいのよ。それ以来、その男を街で見たっていう人はいなくなったらしいわ」
咲「何だか、悲しいですね。でもその男の方の気持ち……わかる気がします。私も昔そういうことがあったので」
大家さん「あら、咲ちゃんにもそんな事あったのね」
咲「あ、いえ、似たようなことが、って感じですね。そろそろ学校なので失礼します__」
大家さん「あ、咲ちゃん____」
その時はにわかには信じてはいなかったけど、私との境遇と重ね合わせてみるとなんだか他人事じゃないような気もしていた。
その噂の男はまだこの街にもいるはず。私は高校を卒業する前にその男に会いたかった。彼は今どこで何をしているのか、なぜ母親は自殺をしたのか。彼を見つけたら、何か私も変わるのかもしれない。なら、私が彼を見つけ出すまで街で探す。かならず______
___あれから1年。私は相変わらず彼の情報を集めていた。けれど、全くと言っていいほど新しい情報がなかった。やはり、街の外へ行ってしまったのだろうか。それは想像はしたくないが、かと言って他に可能性があるとしたら家に篭っているぐらいしかない。
情報を集めているうちに、彼が現れた時に撮ったと思われる写真がネット上に上げられていたので、その画像をコピーして生徒手帳に挟んでいる。その写真を元に、街に出て探しているのにも関わらずいない。
この街の人口はさほど多い訳じゃない。でもいなかった。ていうかこうずっと彼のことばかり思っているうちに変な感情ができているような気する……。写真を見ただけだと、そこそこ好みのタイプというかなんというか……。何言ってんだ私。
公園にて、パチパチと小さい虫が電柱に群がっているのを眺めていると携帯のバイブが鳴った。
咲「あ、やばい。もうこんな時間だ」
咲「家帰る前にコンビニでアイス買おっと」
咲は家の近くのコンビニへ向かうべく、歩いていた。駐車場の近くまで来ると、コンビニのドアの近くで肉まんらしきものを頬張っている人がいた。
あれ?見たことあるような顔してるなぁ。勘違いかもしれないけど……。ていうかなんであの人私のこと見てくるの……。
コンビニに近くなる度、彼との距離も近づく。そして、彼とすれ違う、その時、私が1年間探してきた"彼"はそこにいた。
咲「あの_____」
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