ありえない記憶

 わたしは、今でも運転免許を持っていない。

 10代後半から二十歳すぎまでの大切な時期、我が家はそれどころではなかったのだ。


 にも関わらず、わたしは小学生の頃に車を運転したという記憶がある。

 運転していた母に代わって、ハンドルを握った記憶がある。


 正確な時期は思い出せないけど、通った場所も状況も大体覚えている。

 以前は、もっと鮮明に思い出すことができたのだが、他の思い出と同じように難しくなっていった。

 いまだに、その道を通るとその記憶がフラッシュバックするように蘇ってくる。


 ほかにもありえない記憶は、よく知る道を通った時にもフラッシュバックする。

 転んで病院行きになるような大怪我をした記憶とか。もちろん、病院行きレベルの怪我なんてしたことない。

 他にも、存在しないはずの店の記憶とか。


 こういう時、決まっていいようのない不安に襲われる。

 自分が経験したはずのない記憶があるというのが、不安で仕方ないのかもしれない。


 まるで、やぶにらみの『視界』の2つの像が視えているような感じだ。


 ありえないと、現実だけを視ようとすることは、そうとう疲れる。

 2つの像を現実だけに合わせることが、すごく疲れる。



 そうそう、わたしは幼いころ、目の手術をしたことがあるらしい。

 思えば、あれが『やぶにらみ』のキッカケかもしれない――。

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