第5話

『二重人格とか、女装癖じゃなくて、あいつのはさ――』

 以前お茶の時間に才多さいだが話してくれた。

『とにかく己の持って生まれた綺麗さ活かせて、より輝かせられるなら何でもいいってやつで、』

 それが今現在、(美)少女っぽい恰好なだけらしい。にしても振り切れ過ぎてる。

『…で、その状態に相応しくあろうとするあまり、装いが完璧に決まるとスイッチ入って、完全女子化するわけ』

 要は゛学者らしい探究心゛の結果だと才多は言いつつ、目まいを堪えるように眉間を押した。更にその数日前、才多はブティックに付き合わされたのだ。


『才多さんっ私このワンピがいいです!薔薇の刺繍、とっても素敵だと思いませんか!』

 キラッキラの笑顔で店中の人達を虜にしながら、甲羅は5時間以上かけて3軒で試着し、1着を購入したそうだ。

(付き合う才多さんも偉い――)

 ツルアは陰ながら拍手を送った…。

 


「あの対象は転生者だからな、時間が掛かるのは分かってる!騒いでないでデスクワークに移れ!」

 同じく慣れているミエノの一声で場が治まる。

「すみません騒がしくて、久土さん、お待たせしました。乃――」

「乃村はちょっとこっち来い!」

 バタついてしまったが、一緒にセンターまで久土を送ろうと、声を掛けるより前に、ミエノが乃村を呼んだ。


 ツルアの様子から、乃村も同行するらしいと判断した久土がイスに腰掛け言った。

「待つよ。にしても個性的な人が多いな――」

 …でも素敵な人達なのだと、言わずとも久土は分かっている風だ。


「帰りました」

「ただいま」

 騒ぎの収まりを見計らっていたようにドアが開き、ラムとレモーネも戻って来た。

 今日は異世界でなく、新しく発見された異界接点の方へ応援に行っていた。

 そういえばもう夕暮れで、だから日勤の2人も戻って来たのだ。帰促課第二支部の、これが総勢だった。


「外国の人もいるんだな…ここ、国の組織だって聞いたけど」

 ラムは中国の少数民族、レモーネは欧州の小国出身だ。

「…一応そうなんですけど、磁界の作り手の人が少ないので、海外から応援に来てくださってるんです」

 ゛磁界の作り手゛というのは接点から入った異世界からの、出口を作る人だ。普通は無意識下でしか発動されない、反発、親和力を自在にコントロールし脱出口を作る。

 最近こそ作り手に自国民が増えてはいるが、圧倒的に足りず、国家の組織に外国籍のラムやレモーネがいるのはそのためだ。

「ああ、乃村さんがなのか、確かに異界接点からは入れても、出ることは出来ないしな…」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る