第6話
「にしても…゛磁界゛を作るって言うのは……?」
普通に考えれば磁石の周りに砂鉄が集まってくるあれだ。出口の作り手、という方がしっくりくる。
「それは、訳があって――…」
今この世界に降り掛かる、重苦しい災難と関係があるのだ。
そういえば、この手の重い説明をツルア自身が語るのは初めてだ。大概、気づいたら乃村が説明した後だったりする。
(どう切り出せばいいんだろう――…)
ちゃんと聞いておけばよかった、
「レモーネさん、ラムさんお帰りなさい」
この時、乃村が戻って来た。内心ホッとしてしまう。
「そうだ乃村くん、私センターへ用があるの。この方ついでに送ってくわ、ツルアちゃんごめんね」
「せっかくの、機会つぶし」
「今度埋め合わせするもの」
「――…なな何言ってるんですか⁉」
ツルアはレモーネとラムのわけ知り的会話の意味に気づく。
乃村には、偶々条件が嵌まり自身は大マジメだったが、担任には渋られ、友達には記念受験とからかわれた、国家公務員一般職(高卒)相当の特例公務員採用試験で救って貰った大恩がある。
指導官にもなってくれ、今日まで頑張れたのは乃村のおかげだ――でも決してそれ以上でも以下でも断じてない。
――こっそり乃村を盗み見たが、会話の裏には気づかないようで、レモーネにお礼を言っていた。
「乃村、おこられてたでしょ」
ラムが、ソファのミエノを目で指しながら言う。足はいつの間にか下ろしている。
「怒られてないよ、ラムさん」
「えっ怒られてたんですか、もしかして私のせいですか⁉」
自分が何か失敗したから、ミエノに呼ばれてたのだろうかと、ツルアは慌てる。乃村は手を振って笑った。
「違うから――、久土真名男さん、そういうわけですから、後はこちらのレモーネ支部員がお送りします」
「はい、お世話になりました――変な意味じゃなくて、女性側が多い職場ってパワフルで、なんか暖かですよね」
久土は片目を少し擦った。彼はルペルダ始め、女性3人とずっと旅を続けてきたのだ――。
「久土さん、ルペルダさん達は本当は――」
「うん。分かってる――ああいう奴等だから、俺だって素直にさよならとか言えないし――」
別れは突然で、一刻を争っている事情もあり、ツルア達もあまり時間を掛けられなかった。
きっと漸く実感が涌いてきたのだ…もっと何か言ってあげなくちゃとツルアは思い、思い出した。
「そうだ!ミエールさんが額当ては旅で困った時売っていいかって、あとプリアリーさんはマナマナの装備その他は高額で引き取ってもらえましたって――」
――しまった、と思った時には遅かった。伝言ではあったが、気持ちを
「あの時にはもう売って…いやうん…そういう奴等、だから……」
若干引きつりつつ、久土が力無く笑う…。
「トバルねぇ…」
ラムが天を仰ぐ。
「さっ、行きましょうか久土さん」
取って付けたように微笑んだレモーネが久土を連れ去ると、気まずい空気だけが残った。
「すすすみません、私、余計なことを…っ」
テンパった挙げ句、不要なことを口走るのが、ツルアの最大の欠点だった。
「ああ―…ええと、大丈夫。飛羽流さんの気持ちはちゃんと伝わったと思うし…日報、書こうか」
「乃村、ちゃんと叱れと言ったろ!お前はちょっと甘いんだっ」
静観していたミエノから声が飛んでくる。
「ほら、おこられてた」
「すみません乃村さん!」
「いやこれは俺の問題…」
「乃村は遠慮し過ぎ」
「そうそう。言うとこは言わないと、才多は変な着崩し方するから――」
「あ⁉それどーいう意味よ?」
「どんな
あ、それでなんだとツルアは得心する。
結局机に行ってない甲羅と才多の言い合いが、再度始まるかと思いきや、不意にラムが呟いた。
「――あれ?引き出しの新作ラムネンたんが、無い…」
冷蔵庫を開いた時のような冷気が一瞬漂う。
皆、ラムのラムネ好き――というよりお気に入りラムネのマスコットキャラクター『ラムネンたん』好きは、充分知るからそれだけは、絶対に触らない。以前も見つからなくて泣き出すと、よくわからない超音波で翌日から1週間、全員何らかの体調不良に陥った。
……久土が引き出しを引いた拍子に、デスク下に転がっていただけだったのが分かったのは、少し時間が経ってからだ。
沈黙の後、三方に分かれラムからの後退が始まった中、ツルアは肩にごく軽く手を置かれた。振り向くと同時にもう、乃村の背後に庇われていた。
「飛羽流さん、俺は今日の説得、良く出来たと思ったよ、この調子でやってこう」
「!はいっ」
ツルアは胸が一杯になった。
帰ってください‼―異世界への人口流出が止まりません!― 季早伽弥 @n_tugatsu18
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