第3話

「鍵は掛かってないみたいだし、床に落とすよかマシと思ったんだけど―…マズったかな…」

 引き出しにみっちり詰まったおやつの山と、所々に顔を出す妙な編みぐるみに、久土が申し訳なさそうに言う。


「――!いえ、皆知ってますし、ラムさんは勝手に食べても(ラムネ以外は)怒りませんし!」

「なら良かった」

 思いがけないことが起き、目をみはっていたツルアは、山にはまったタブなどを取りまとめ差し出す久土に、希代の勇者は伊達ではないと思った。

(今のあれ――、普通の人じゃ考えられない)


 機転はいるが、特殊な能力は必要ない。

 つまり久土は゛今の自分゛をちゃんと分かっていて、可能な、一番確実な方法でもって、ツルアのタブやスマホが床に叩き付けられるのを防いでくれたのだ――。

 


 …異世界から戻ればそこで過ごした年月だけでなく、知識と経験以外のスキル、身体能力も元通りだ。だから異世界では使えた魔術とか、超越した力は使えなくなる。

 今から久土が行く復帰訓練施設は、そういった異能等を使う゛癖゛を矯正する場所でもある。

 例えば、すぐ腰に(多分あった剣に)手を掛ける仕草や、謎の言葉(多分呪文か何か)を呟きだすとかで、中には、死人が出そうな高所から無頓着に飛び降りて、大怪我した人もいたそうだ。

 特に向こうの生活が長く、異世界との能力落差が激しいほど、時間が掛かる傾向で、勇者、とまで呼ばれる程のスキルの持ち主なら、尚更だと思う。


 なのに久土の咄嗟の行動は、正しく現状を把握した上でのものだったのだ。

 話し方も異世界での調子を取り戻しつつ、もうこの世界に合わせている。

 ――高校卒業して1年も満たない、人生経験も少ないツルアだが、何となくそういった、人の細かな変化の感じは分かるというか、伝わるのだ。



 何にしろ、異世界から出るため、反発力を乃村が発動させる段になってもまだ足掻くので、練習でしかやったことのない縄打ちを実行するか、本気で迷うほどだったのに、戻って直ぐのこの順応は、

「へえ――、やっぱ異世界帰り半端ないわ――どこの異界の人?」

才多さいださん!帰ってたんですか、甲羅こうら――…ちゃんもおかえり――」


 パーテイションの間から才多と、超絶とびきり美少女が顔をのぞかせていた―――。

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