第2話

「―――それで本来なら、異界からの帰国地点は予測できないんですが、このシステムで一ヵ所に集約できています」

 乃村の力で異世界から出た先は、ツルアたち所属の、帰国促進課第二支部の中だった。


「空気がまったく違う…本当に帰ってきたんだな――」

 勇者マナオこと、久土真名男が呟く。


 この集約帰国地点はコストの関係上、一室をパーテイションで区切ってるだけなので、隣では他の課員らもいる筈だが気配が無い。

 見てみると、支部長のミエノが応接スペースで書類に読み耽っているだけだった。集中状態だ、きっと声を掛けても気づかない。

 ツルアは久土を課員らのデスクが並ぶ方へ促した。

「すみません。ソファが塞がってるので、私のデスクのイスに――…」

「――って?俺マジに10代に戻ってる⁉服もっ、勇者の証の額当てもない―――!!!」

 20代後半のどこか風格ある青年から、どこにでもいそうな10代の容姿に戻っている自分に、久土真名男は漸く気づいたようだ。


 よくある反応で、昨日までは主に指導官の乃村が対応してきたが、今日からこれも、ツルアの仕事だ。

 つい一歩下がって見守る乃村を振り返りそうになるが、我慢する。

「まっまずは座ってください」

「お茶を入れてくるから、…水がいいかな」

 乃村が給湯室へ行ってしまう。 

 久土は近場のデスクにあった手鏡で再度、己を確認し、ショックを受けた表情でツルアを見た。


「ごっご説明した通り、異界接点の進入日に、行方不明期間がプラスされた年齢に戻るんです。久土さんにはこれから、帰国者支援センターに行っていただきます。そこから復帰訓練施設または――」

「うお――――おおおおおっっ!!!」

「久土さん⁉」 

 いきなり顔を覆って雄叫びしだした久土に、ツルアは驚くと同時にまごついて、早くも助けを求める羽目になるかと思われたが、久土は今度は勢いよく、覆っていた手をはがし顔を上げた。


「よっし!!!…――驚かせてしまってすみません。気合い入れたくて…1年4か月でしたっけ?俺がこっちにいた時とかなり状況、変わってるようだけど――それは支援センターてとこに行けば教えてくれるのかな?」


「はっはい。ええと、それでっ――あッ!」

 焦ってツルアは持っていたスマホにタブレット、書類を挟んだボードをまとめて滑り落してしまった―――刹那、久土が傍のデスクの一番下の引き出しを、足で底を引っ掛け引いた――、中身はラムさんのおやつと癒しグッズがぎっしり詰まる。

 その中にツルアの腕から滑り落ちた一式が、軽い音を立てて納まった……。

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