第4話無事帰って来ました ―レオ―

 ヴィクトリアさんはニッコリと微笑んだ。

 胸がドキリとする。

 なにその殺人級の微笑みは?

 勘違いしそうだ。

 こんな平々凡々な男子中学生に向けるよな笑顔じゃないでしょ。

 俺がどれだけ平凡か分かっているさ。

 顔面偏差値中の上……中の中……いや下まではいかないはず! きっと……


「今でとは違う力。それが『黒焔の獅子』の召喚だ。   

 この白の書は城の奥の禁書庫にあり、俺とヴィクトリアはこの白の書の解読に成功し、お伽噺の聖獣、あんたを喚びだすことが今しがた成功した。

 あんた……レオがなんと思っていようとも力を貸して欲しいと思っているし、その力を使ってあの金色の魔王を倒すんだ」


 アランさんの手が腰にある剣の柄に伸びた。

 マジで俺は聖獣、ケモノ扱いなのかよ。

 それに、嫌だと言っても無理そうな気がする……


 魔王とか言っている時点で剣と魔法の世界だろうし、俺にはなんにも特別な力なんてないし。

 さっきの黒い炎だって誰かが魔法でも放って着けたんだろ?


「大変なことになっていることはわかりましたけど俺は只の中学生だし、なんにも力なんてないです。

 申し訳ありませんが俺じゃ力になれないと思います。そこまで自信家じゃないですし。

 これが夢じゃないなら俺をもとの世界に帰してくれませんか?」


 呼び出したっていうなら帰し方もあるはずだよね?

 ……不安だ。

 大体こういうのって勝手に呼び出して目的達成まで帰れないってのが定石だもんな。

 青い目はキョトンとこちらに向けられ


「……普通、召喚した精霊は召喚者の用が済んだら勝手に居なくなるぞ?」


 それって……


「お話が必要でしたらいくらでも致しますが、レオはいつまで此方に留まっていらっしゃいますの?」


 やっぱり……

 俺が召喚された召喚獣だというのであれば勝手に帰れって思っているんだ。

 ゲームとかでそういったものは戦闘終了後勝手に消えるもんな。

 只の中学生をそっちで呼び出した癖にそれっぽく演出しておいて放置ってことかよ。

 ……まあ、話し相手をしてくれるだけましなのかもしれないけど。


「それから俺は只の中学生で、その『黒焔の獅子』とかいう召喚獣じゃないです」


 ヴィクトリアさんは首を傾げ、アランさんは睨み付けるよに眉間にシワを寄せた。


「チュウガクセイ……?」


「レオの思惑はどうでもいいんだ。俺達が必要と思った時にあんたの力を使わせてもらうだけだ」


 おお、なんと横暴な。


「アラン!そんなことを言って本当にお力を貸していただけなくなったらどうすのですか?」


 ヴィクトリアさんが叱責するもアランさんは堪えていないようで真っ直ぐと人を射ぬくような目で俺のことを見ている。


「お二人とも落ち着きましょう。レオ様御自身そのお力の凄さをわかって要られないだけかもしれませんし、こんな簡単な説明ではご理解が難しいのかもしれません」


 マリアさんは大人だな。

 世話役とか言っていたけど、この二人にはストッパー的な人が必要ってことかな?


「とりあえず、俺は帰り方を知らないです。お二人が呼び出したというなら帰りもよろしくお願いします」


 俺は頭を下げた。

 このままじゃ本当に帰れなそうだし。

 魔王を倒すっていっても俺が勇者じゃない以上ここにいる必要も無さそうだ。

 魔王討伐とかそんな大変そうな事を俺が出来るわけがない。


「ご冗談でなく本当に分からないのですか?」


 はい。わかりません。

 異世界召喚なんて漫画の世界の事過ぎて普通理解できませんよ。

 その手のオタクな人達なら喜んだでしょうが、生憎と俺は嗜む程度にしか読んでません。

 呼び出す相手を間違えてます。

 顔を上げれば3人は


「どうするコレ?」


 アランさんは呆れているようで、ヴィクトリアさんは心配してくれているような感じで、マリアさんはにこにことされています。


「還れないのであれば共にいるしかないでしょう」


 あ。よかった。

 このままここに放置される心配はなさそうだ。


「そうだな。還り方も白の書のどっかに書いてあるだろ」


 帰る方法を探して貰えるんだ。

 ダメかなとか思っていたのに……


「レオ『黒焔の獅子』は想像よりも頼りない……というより子供って感じですわね」


 微笑まれても、それって誉めてないよね。

 むしろ馬鹿にされてるし、失望された?

 失望されるほど俺の事知らないと思うけど……

 普通中学生なんてこんなもんだと思う。

 マリアさんは優しく微笑み


「レオ様の還り方はお二人に任せるとして、先程の説明で今がどの様な状態かお分かり頂けましたか?」


 大体は判った……

 気になったのは


「絶滅したとか壊滅したいう種族がいるらしいですけど、人間はどうなっているんですか?」


 人間って種族がない世界ってことはないだろう。

 だって目の前の3人は人間だと思うんだ。

 まさか……妖精とか?

 俺の思っている人間の特徴?に3人は外れていないと思うけど……

 ここは異世界らしいし、違うのかな?


「人間ですか? 元々どの種族より数が多く、国も沢山あるのですが国力…の弱い……国から順に……」


 あれ?

 マリアさんの声が遠くなっていく。


キィィィィィィィィ━━━━━━ン


 なんだ?

 この音?

 金属が擦れるような嫌な音だ。


 突然鳴り出した音は突然止まった。


 なんだったんだ?

 今の音は??

 頭の痛くなるような不快な音

 もう聞きたく……


 どうして?

 なんで?

 本当に夢を見ていたのだろうか?

 ここは俺の部屋……?


 今まで外にいたはずだ。

 昼間の森の中で、あの3人もいないし。

 気が付けば暗くて、どう見ても俺の部屋だ。

 暗いからと電気のスイッチを探せば、毎日押す場所にあるし、朝脱ぎ捨てたトレーナーがその形のままにあり誰かが部屋に入った様子もない。


 時計を見れば学校を出てから1時間くらい経っているのだろうか?

 どうやって俺は学校から帰ってきたのだろうか?

 車に轢かれそうになって……いや、轢かれたかな?

 それに、アレが夢なら1時間くらいで見られる夢ではないと思うけど……

 ヴィクトリアさんは本当に美人だったな。

 あんな美女と話す機会なんて普通の生活していたらないだろうな。


 ここが自宅の俺の部屋だと分かると、忘れていた空腹が戻ってきた。

 一人で部屋の中で悶々とするよりは誰かが居るはずのリビングへ行こう。

 まさかドアの向こうが知らない世界ってことはないだろ?

 そこまで俺、妄想に長けてないし大丈夫。

緊張しながらドアノブを回し、ドアを開ければまた別の世界ということもなく、いつもの家だ。

 見慣れた景色があるだけ。

 この時間いつもなら夕飯の匂いがするはずが今日はない。


「お兄ちゃん。家の中で靴は脱いでよ」


 妹さくらの嘲るような言葉が飛んでくるまで自分が靴を履いたままであることもわかっていなかった。

 さっきまでの事が尾を引いている。

 アレは夢だったのか……

 あんな現実感を伴った夢を見ることなんてないし。

……アレは夢であって欲しいと思っている。

 自覚はないけど、俺は中二病を患っているのだろうか?

 マジで嫌だ。

 さっきまでの事、あの夢の話をすれば誰でも俺が可哀想に中二病患者なのかと下げずむはずだ。

 それだけは勘弁して欲しい。


「ママちょっとおかしくなったみたい。お兄ちゃんを車で轢いたって騒いでるよ」


 靴を片付ける横でさくらが呆れていた。

 車で轢いたって……俺、車に轢かれて死んだと思って……

 でも、俺は生きてるし。


 リビングでは母さんが俺の通学鞄を抱えてソファーに項垂れていた。

 あ、鞄そういえばないなと思っていたんだ。

 鞄って存在を忘れていた気がするけど……

 母さんが持っているってことは、俺……本当に車に轢かれたってことか?


「さくらちゃんごめんね……大事なお兄ちゃん、ママが……」


 ぼそぼそと呟くように謝っていた。


「……礼音……ごめんなさい。……どこに今……」


 ここにいるけど。

 ……ごめん。

 親不孝をせずに済んだけど、こんなにも母さんを悲しませて……


「ね。ママおかしいでしょ?お兄ちゃんいるのに」


 さくら……

 少しは母さんを労ってもいいんじゃないか?

 冷たいというか、性格悪くないか?

 さくらはもっと優しい子だと思っていたぞ。

 兄ちゃんは。

 母さんは振り返り、俺を見つけて目を丸くした。


「……お兄ちゃん? よかった……」


 俺を見た母さんはすがるように立ち上がり、膝から崩れるように座り込んだ。

 いつも怒ってばかりの母さんがこんなにも弱々しく泣き崩れるなんて……


 ごめんなさい。


 俺今からでも母さんが誇れるような……


「……今までどこに行っていたの?」


 え?


「母さん心配したのよ!」


「うわっ!」


 鞄を投げつけられた。

 辛うじて受け止めることができた。

 えぇぇぇ?

 そこまで大事な息子に鞄投げつけなくてもいいじゃん。

 中学生3年生の鞄って重いんだぞ。


「ねえ、わたし。お腹すいたんだけど?」


 さくらは冷蔵庫から出した牛乳を注ぎながら自分の欲求を伝えている。

 俺も腹の虫が鳴いている。

 母さんは一人でマジ泣きしているし、どうしたらいいんだ?

 この状況……俺が車に轢かれたらしいせいだよな?


 はぁ……


 ただ学校から帰って来るだけがこんなにも疲れるようなことだったか?

 母さんは夕飯を作れるような感じじゃないし、さくらに期待してなにも出来ないし、父さん帰ってくるま で待つしかないのか?

 あぁ、腹減った。

 肉じゃが食べたいな。

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