Ⅰ章【死者のような愚者の心臓】

ラキスの計画が実行されたのはあの手帳をもらった日からである。


チャンスは一度、この国王辞任式当日。


目的はこのスベラル国の地下街を中心に存在する。メレンと呼ばれる組織

に属す上層部。及びメレン関係者全員の虐殺。


なぜ国王辞任式当日なのかというと、その日が関係者全員が集まる

唯一の機会だからである。


ラキスがこの計画遂行のために立てたルールは二つ。


皆も自分も騙しとおす事。そして時には非人道的な事も平然とすること。


もうあの時のラキスはいないと自覚させるためだ、当然この日までに

怪しまれないために多くの犠牲がつく。

それを無駄にしないためにも。このルールは絶対に必須だった。

じゃないと先にラキスの精神がどうにかなってしまうからだ。


そしてラキスは計画遂行のために禁術にも触れていた。


禁術それは何かを犠牲にし、私欲を叶える。その際体には大量の見えない鎖が巻き付けられ少しずつ体を蝕む。存在を知るだけで死罪に値する行為。


「禁術」それこそ非人道的行為だったがラキスは自分の寿命を惜しまず削った。

寿命が契約に出せるものでもっとも価値があるからだ。

当然この時まで至るまで様々な痛みに耐えてきた。


削ったその期間約75年。つまりラキスが90まで生きれたとして

もう1年も生きることは出来ないのである。


ラキスは笑いながら手に白手袋をはめ、王子に生まれたことを酷く後悔する。

王子に生まれなければ。


さっきみたいな女性とも平穏なそうだ旅でも

出来ただろうな。と遠くを見つめながら思い、扉を開け始める。



そして今笑顔でかみ締めながら


扉を開け入場する。





短いはずの台までのレッドカーペットが長く感じる。


今回の式は世界的大きな出来事なので映像転送機とやらで世界中に

送信されるらしい。これも最初は邪魔だとラキスは考えたが逆に

強烈な印象を与えることができると考え。合計15台ある装置は各地域

に映像が転送される。


甘いマスクで笑いながら手を振り続ける超絶美青年。


その様子を見たものは老若男女問わず一斉に心を奪われ。容姿や動作が脳裏に強く

印象が残った。


階段を上がり。国王と相対する。お互いの顔を見合わせて静かに笑う。


その光景をみて誰もが微笑ましく思うだろう。

だがそれはこの場にいる権力者のみである。


この映像を見ているもの大半は独裁者が変わるだけと思っているだろう。


そうこの国は多くの恨みをかっているのだ。当然こんなに恨みをかっているのだから

戦争が絶えずいつか滅ぶはずだっただがいつまでも自分たちが甘い蜜を吸いたい

権力者は全力でこのスベラル王国という地獄を守ってしまったのだ

今じゃ誰もが諦め、少数の反乱組織以外はスベラル王国に犬のように

扱われているらしい。



これほどの情報を一歩も城から出ず得て、そして汚物どもにばれなかったのも

ラキスの頑張りがあってこそだろう。


横を見ると先ほど庭であった老人がおりその手には国の宝剣と

国王であることを証明し様々な権限が与えられる契約書を

持っていた。


その美しい宝剣もどこかの国から無理やり奪い去った物なのでもらっても

全然うれしくもなんともないが笑顔で受け取る。


宝剣はどうやら「嚇器」と呼ばれる能力者が持つことによって

初めて本当の力が解放されるという、古代帝王が作ったといわれる武器

言い換えれば「能力者専用のやばい武器」だ

世界にたった100本しか存在せず、形状も種類もみなばらばらで

どこにあるかもわからないが。

ただ一つ言えることは誰もが欲しがる喉から手が出るほどの名器というわけだ。


しかしラキスが今喉から手が出るほど欲しいのはもう一つの継承契約書の方だった。


「今から継承式が始まりますのでお静かに。」


老人が言うとみな静まり返る。


「国王継承の証としてまずこの宝剣を国王から王子へと継承されます。」


国王はまず宝剣を老人から受け取るとそのままラキスに渡される。


ラキスはお辞儀しながらにこやかにそれを受け取ると腰に掛ける。


「次に国王であることを示す。継承権を国王から王子へ。」


国王はにこやかにそれをラキスに渡す。


ラキスもそれを受け取り、この時点でラキスがスベラル王国現国王

だということが証明された。ラキスがかなりの暴君で前の国王より

残虐で残酷な人物だということはラキスが国王に信用してもらうための

ラキス自信が流した嘘の情報で皆完全に信じており、このイカレた独裁者が

世界を支配する時代はいつ終わるんだと映像を見ているほとんどの者が

思っていたが。先ほどから継承権をもらったラキス王子の様子がおかしい


頭を下げたまま動かないのである。


国王は何か異常があったのではないかと心配そうに近づく。




次の瞬間、国王の腕が宙を舞う。


「え?」


ゆっくりと自分のなくなった腕を見るとようやく脳が腕がなくなったことに

気付いたらしく発狂し後ろに倒れる。


ラキスは顔を手で押さえながら狂ったように笑うと足で国王を押さえつけ

国王の恐怖におびえる顔を見てニコッと笑うと持っていた宝剣で

国王の首を跳ね飛ばす。


返り血がラキスの服と顔に飛び散り、台の下にいた王女の目の前に首がボッとっと

落ちる。


王女は首なし国王が首から大量の血をビュシュービュシューと

血を吐き出しているのをじっと見たまま手で顔に付いた返り血を震えながら

ふき取り、見る。


「キャーーーーーーーーーーーーーーーー」



金切り声のような王女の悲鳴とラキスの狂喜に

よってそんな絶望的な事件は始まった。






「うはははっはははははっははhっはhhhhh」


王子が国王を殺した。。。


そのあまりにも残酷で美しい光景を見た、ある者は叫び絶望し、ある者は

歓喜をあげ、ある者はラキスを悪魔のように思い

そしてある者はラキスが神のように思えた。


映像を見ていた、権力者や市民、そして貴族は様々な意見が飛び交っていた


ラキスの素晴らしい技量に惚れ惚れするものや行動を起こした

勇敢さ、人を殺したというのにラキスという人物の評価は急速に

あがっていった。だが、ラキスの計画はまだまだ始まったばかりだった


笑い終わるのをやめると、みるみる禍々しくどす黒いオーラを

体中から発する。ラキスが禁術の発動条件にしたのは国王殺害といったものだった

これにより国王の命や寿命も契約に加算されるからだ。


ラキスの体からでたオーラは段々と禍々しさが強くなりそれと比例して

無数に生える黒い筋肉で出来た太い鞭のような物へと具現化していった。


その様子に会場はパニックになり多くの人間がこの会場から逃げ出す。


映像を配信していた機会を置いたまま関係者以外の人は出て行ったが

逃げ終えると急にすべての扉が閉まる。


「お、おい!なんでしめたんだ?扉を開けろ!」


「いやーーー!早く出してよ!」


映像通信機によって映像は今もなお配信されている。


***


「はあ、、はあ、、どうしてこんなことに。。」


「ふ~なんとか逃げ出せたな。。。あれ?こんなに少なかったか?」


会場から逃げ出した人間はすべて例の集団とは関係なく

またその存在も知らず、悪事を働いていないか前もってラキスが

調べた人間のみ外に出ていた。なのでなぜ

さっきまでにこやかだったラキスが国王を殺したか

意味が分からないといった様子で困惑していると。


扉の方から

多くの悲鳴と何かがちぎれるような鈍い音が響き渡った。


****


ラキスの理性がどんどんとなくなっていき、無数ある黒く生き物のような太い鞭が

暴れまわり、会場にいる人間を殺していく。その感覚が

禁術の影響だろうが快楽へと変わっていき、笑いながら人を殺していく

自分でも何をしているのかわからないぐらいに、

先ほどまで白く綺麗だった服が赤黒く変わってしまうぐらいに、

返り血が飛ぶ、当然護衛で来ていた実力者たちが王子を

抑えようとしラキスもかなりの深手を負うが、血や肉が大量に飛び散る

だけで痛いといった感覚はもう完全になくなり、直ぐに治ってしまう。


ある程度殺した後でまだ上級騎士クラスの護衛に守らせている

貴族や王族をとどめを刺すためラキスは無数の太い鞭を

体へ戻すとぐちゅぐちゅといった音と共に頭がその黒い物質によって

覆いつくされ黒い仮面のようになる。金属音のような音と共にラキスの顔は

黒い仮面へと隠れる。ここで完全にラキスの意識は消え、

欲望のままに人を殺す化け物へと姿を変える。


まず初めに仮面からピシッと一つの横線が付き、そこからグパッと裂け

口のようになると更にそこから無数の鋭利な牙が飛び出て、ラキスの声で

笑う。


「はあっはっははっははっはっhahahhaaaaaaaaaaaaaa―――――――――――」


笑い終えると台から降り、目に見えない速度で先ほどまで何とか耐えていた

護衛たちや貴族、王族を殺し始める。それはもう不規則で

次にどのような行動をするか分からないといった様子だ。


多くの悲鳴や、痛みに苦しむ声。

妻や子供がいるから助けてくれという懇願する声があったが。

そんなのはラキスの耳には届かず、殺されていった。


その際、完全に映像通信機は壊れ、グロテスクな音のみ通信されることとなった。



それからラキスは3日間、殺戮の限りを尽くした。



男、女関わらずみな殺し、会場をでた人たちが国から出ているころには

その国には誰の者かもわからない国民や貴族たちの大量の死体や肉片。

窓が割れた家やほぼ完全になくなった家。

メレン上層部及び関係者の死体で作られた死体の山。


生きているものはこの国はおらず完全に地獄と化した、この国に

一人ラキスは白く美しかった服を人を殺した返り血で赤く染め

笑っているのか泣いているのかわからない表情で最後に持っていた

血まみれの剣を突き刺し、死体の上に立っていた。




_____________________________________________________




体は禁術の影響でほとんど、体には血がなく、肉は黒く蝕まれ。

心はほぼ完全に禁術へと喰われ。

頭は狂ったまま何もできずそこに自我が存在しているか定かではない。


禁術とはそういうものだ、決して人が触れていいものではなく

もし触れてしまった場合自身もそして周りにいる関係のない人間までもが

不幸になるそれが禁術である。


禁術はラキスからすべて吸い付くしたと感じ、ラキスの体から離れる。

そう禁術には確かに意思が存在するのだ。

ラキスはこんな体になり、今まで痛めつけそのせいで死にそうになっていながらも。

それでも離れた後禁術に向かって「ありがとう」と消えそうになりながらも呟く。

ラキスと一体化している時確かに感じた禁術の意思は決してラキスを殺そうとするなどの殺意や怒りなどではなく、何もない無邪気で欲望に正直な子供のような感覚だったのだ。最後にそれが知れてよかったと死体から少し離れたところで

静かに体から立っているために意識が飛びそうに使っていた力を抜く。


「あっ、、、」


ラキスの体がその場に倒れる。


体がもう動かせず、立ち上がることもできない。禁術使用のためいかなる回復魔法

も全く効果がない。つまり死ぬのだ。恐らくあと数分後には体が完全に消滅し

この世からいなくなる。目も少しずつ霞んでくる。そういえばもう一つしないといけないことがあったのだが。


「ああ、寒いな。。。」


体の中心からぽっかり何かを失ったようなそんな喪失感がラキスを

襲う。「もう、いいか」と意識が飛びそうになる。


が、目の前に突然数時間前にあった美しい女性が神妙な面持ちで現れる。


ラキスは何とか片目だけ開け、その女性を目に焼き付けるように

見つめる。


また女性も何も言わずにその美しい顔でただじっとラキスの瞳を

見つめる。


彼女が何を思っているかはわからないがラキスが死ぬことだけは分かっているようだった。片目を開ける力もなくなり「最後に彼女と出会えて良かった」と思う。

そこで、喋れないはずの喉が、一滴も残っていない涙が

同時に動き。流れる。



「綺麗だ。」



わらいながら涙を流し、放った言葉。

たった4文字の言葉だ、それでも今のラキスには重く

また大切な伝えたい言葉であった。


それを聞いた女性は目を見開き、そっとラキスに近寄ると

唇に情熱的なキスをする。

愛おしげにそして激しい瞳でラキスを見続けながら。

一人の美しい女性と美しい男性の幻想的な光景の中。


ラキスは本当に最後に会えてよかったと思いながら、ゆっくりと息を引き取った。





スベラル王国陥落計画及び実行犯



ラキス・スベラル国王_______死亡。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る