第18話 ダークエルフ・4
怯んだ敵が、一瞬だけ
(――今だ!)
レイアはそれを
が、次の瞬間、
――ざざぁっ!!
黒い土が視界を塞いだ。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
魔法を使われた? ――いや、違う。
男が足で地面の砂を蹴り上げ、目潰しを仕掛けて来たのだ。
典型的な姑息な手段。しかしレイアは不意を突かれて一瞬男を見失った。
(しまった、どこだ――!)
前方に男はいなかった。
背後に回られたか? レイアがそう思った瞬間、
「上です!」
ヴァイスの声が耳に届いた。
同時にレイアも、真上に跳躍した敵の気配を捉えた。
思い切り後方に転回すると、レイア自身も驚くほどの瞬発力で弾けるように体が後ろに跳び、敵の攻撃を回避した。
すどん!と音を立てて敵の半月刀が地面に突き刺さった。それは明らかにレイアの命を奪うことを目的とした一撃だった。
男は地面に突き刺さった刀を引き抜こうとしている。距離を取ったレイアから見て、男には一瞬の隙が生まれていた。
レイアは、体の奥底から底知れぬ
『
レイアが言葉を放った直後、鋼鉄の刃が空中を貫いた。
握りしめた刀が固い鋼で覆われて伸長し、男の胴体を直撃する。
攻撃をまともに食らった男は、刀もろとも後方に吹っ飛ばされた。
*
「――私の勝ちだ。お前は、線を越えた」
レイアは円陣の内に立ち、倒れた男を見下ろしてそう告げた。
男は、描いた円陣から数メートルほど後ろに倒れていた。
「レイア、怪我はないニャ?!」
レイアの勝利が確定し、拘束を解かれたカノア達がレイアの元に駆け寄ってきた。
「あぁ、大丈夫……」
カノアにそう答えながら、レイアはふと違和感を覚えていた。
先ほど腹に受けた一撃の痛みはもう引いている。それどころか、戦闘中に受けたはずの様々な傷も、跡形もなく消えていた。
それに――。頭上から迫りくる敵の攻撃を回避したときと、最後に魔導術を使ったとき。体の奥底から計り知れない力が湧き出て、レイア自身も驚くほどの俊敏さを発揮した。この感覚は、どこかに覚えがあった。これは――
*
「……ヴァイス?」
「……バレましたか」
ヴァイスがそう言って小さく苦笑した。……これで確信が持てた。
彼はいつの間にかレイアに身体強化の術を掛け、
「いつから?」
ヴァイスに近付き、言葉少なに彼を問い詰める。魔導術で補助されていたとあっては、公正な勝負にならない。
「それは……相手が目潰しを使った時です。相手も身体能力を強化されているようでしたから、不公平かと思いまして……」
レイアの問い詰めに、ヴァイスがたじたじとしながら答えた。
目潰しをされた時ということは、ヴァイスが敵の位置を「上」だと知らせるために叫んだ時だ。そのときの相手のジャンプ力が人間業ではないと見て、敵が身体強化されていると判断したらしい。
その場にいた全員の気が一瞬だけ逸れていたあの瞬間。ヴァイスは敵に気付かれぬよう無詠唱でレイアに
レイアは気付かなかったが、敵の強靭な体力も魔法によるものだったということか。どうりで、いくら戦っても相手が疲労する様子を見せなかったはずだ。ようやくレイアは納得した。
*
「す、すみません、勝手なことを……あなたには手助けなど無用でしたね」
考え込んでいるレイアの様子を見て、怒っていると捉えたらしいヴァイスが謝ってきた。
「いや……」
レイアは、別のことを考えていた。
ヴァイスは、いつも驚くほどの冷静さで的確に状況を判断し、最善の策を講じてくれる。あらゆる状況を想定して、最善の瞬間に最善の手を打とうと常に考えているのだ。
レイアは、その場その場で瞬時に敵の動きを読み取り反応するのは得意だが、前後のことまで考えてはいない。ヴァイスのように一度にたくさんのことを考えたたりはできない。
レイアはヴァイスの冷静さの奥に隠れた、常に仲間を想う気持ちに気付いていた。
――全く、この眼鏡の白エルフ殿には敵わない。とレイアは思う。
とりあえず、自分のためにしてくれたことなのだからと思い、素直に礼を言うことにした。
「……ありがとう」
「おい。よくわかんないけどそこ、いちゃつくなよ」
「ち、違いますよ!」
カッツェの入れたいつものツッコミに、いつもの通りヴァイスが答えていた。思わずレイアにも笑みが零れる。
青く光る泉のほとりで。レイアの心には「冷静」と「平穏」の風が爽やかに吹き抜けていった。
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◆冒険図鑑 No.18:
レイアがノエルやヴァイスから教えてもらって習得した土魔導術。
レイアの場合は自らの刀技と組み合わせ、刀を黒曜石のような硬質の石で覆って威力と間合いを伸ばして攻撃するために使用している。
刀に沿わせて魔力を発動することで標準が合わせやすくなり、短い
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