第14話 白群色の助奏(びゃくぐんいろのオブリガート) -人質-
「なぁ。俺もあの馬男みたいに、怪物の姿でお前達に倒されたのか?」
「え、えぇと……、ごめんね! だって、ドラゴンがいきなり襲ってきたと思ったから……」
ノエルが慌ててレザールに謝った。
そう、赤の洞窟でドラゴンに遭遇した時には、ドラゴンの中身が蜥族の男性だなどとは思っていなかった。だから全く容赦せずに攻撃してしまった。しかしこの世界に来てから、レイア達は何となくその法則性に気付きつつあった。絵の中に取り込まれた者は、何らかの怪物に姿を変えられて、侵入者を攻撃してくる……。
もしこれから先もこの絵の世界で出会う住人達が、全て怪物の姿なのだとしたら。そしてそれら全員と戦わなければならないのだとしたら……。そう考えると、レイアはかなり憂鬱な気分になった。
「なるほどな。そういえばこの雪原に着いたとき、お前達がなぜわざわざ馬の怪物が近付くまで戦わずに待ってたのか不思議だったんだよな」
「うん……」
「この世界には、俺たちみたいに囚われた住人が、まだほかにもいるってことだな。で、見た目は怪物でも中身は怪物じゃないとわかったから、
どうやらレザールは納得したようだ。
「ふむ。まぁ怪物をやっつけても、スタドや俺も無事だったし、別に手加減しなくてもいいんじゃないか? 起きたときはさすがにちょっと痛かったが……。もしかしたら、これから悪魔が怪物に姿を変えて襲ってくるかもしれねぇ。注意するに越したことはねぇぜ」
そう言って、彼は過ぎたことを水に流してくれた。レイア達にとっては、何とも理解があって助かる話だ。
「おし、じゃあさっさと次の場所に行こうぜ! 俺が見たあの絵には、確かまだ他にもいくつかの場所があったよなぁ?」
せっかちなレザールが仕切り、魔法のオカリナを持つノエルを促した。ここに吸い込まれる直前に見た絵の図案を思い出したのだろう。
リザードマンというのは皆、とても短気な種族なようだ。
*
全員の準備が整ったのを見て、ノエルが再び魔法のオカリナを吹き鳴らす。
レイアは目を瞑って、その音色に身を委ねた。次に行く場所では、戦わずに絵の中の住人を助け出せたら良いのだが……。そう思わずにはいられない。
ノエルの吹くオカリナは、寂しく物悲しい旋律を紡ぎ出した。
時に高く、時に低く。
深く広く、澄み渡る。
レイアの瞼の裏に、あの絵で見た青い泉が浮かんできた。暗い森に囲まれた、青い泉。あの泉のそばにいたのは、確か……
*
気が付くとレイア達は、青い泉のほとりに立っていた。
泉の周りには、モミの木やスギの木、ヒノキによく似た暗い色の針葉樹が、真っすぐに上を向いて立っている。頭上には細い三日月が浮かび、泉の表面にも黄色い月が薄ぼんやりと反射して映っている。泉は薄い月明かりの元で、静かに輝いていた。
あの細い月の明るさで周囲の色が識別できるのはおかしいのだが、泉自体がまるで蒼い不思議な光を放っているかのようで、辺りは幻想的な美しさに包まれている。
レイアがぼんやりとした頭をはっきりとさせ、周囲の状況を確認しようとしたとき――
「ニャっ!」
「カノア、危ない!」
背後から聞こえて来たカノアとヴァイスの声に、はっと後ろを振り返った。
カノアが地面に伏して倒れている。そのすぐ傍でヴァイスが地面に膝をつかされ、手を後ろに
(ダークエルフ……?!)
ヴァイスを押さえつけているのは、レイアと同じ褐色の肌に尖った耳を持つ、ダークエルフの男だった。男は細く引き締まった筋肉質な腕で、ヴァイスの腕をギリギリと締め上げている。
普段物理的な戦闘など行わないヴァイスは、眼鏡の奥でその目を苦痛に歪ませている。普段なら決して乱れることのない彼の青紺色の髪が乱れていた。
「囲まれています! 気を付け――ぅぐっ!」
ヴァイスの言葉は、後ろのダークエルフに口元を
*
(くそっ……!!)
それは一瞬の出来事だった。ヴァイスの言葉通り、いつの間にか周囲を何人ものダークエルフに取り囲まれていた。みなレイアと同じ褐色の肌を持ち、手には武器を構えている。その態度からは間違いなく、誰かが一歩でも動けば殺す、という殺気が滲み出ていた。
==========================
◆冒険図鑑 No.14: ダークエルフ
褐色の肌をもつエルフ族。運動神経が良く、瞬発力に優れている。
同時にホワイトエルフ族と同じく魔導術の素質ももつ。
ただし、ダークエルフは魔導術に頼らずに自らの体を鍛えて武術を磨く者が多い。昔から獣を狩って生きてきた狩猟民族であるからだと言われている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます