第12話 軍神馬・3
跳躍したレイアの真下に、オーディンの黒い背中が見えた。
オーディンは刀剣を真横に
『
ノエルが使ったのと同じ
だが発動させる
バキバキバキッ!!という激しい音とともに、レイアの両刀が黒曜石のように固い石で
そのまま落下の速度を活かして、空中からオーディンの背中を狙う。
落ちながら
「グォオァアァアアアアアア!!!」
オーディンが今までにない苦痛の
オーディンが暴れ出す前に、レイアは再び跳躍してオーディンの背から飛び降りた。
*
油断なく見守るレイア達の前で、オーディンは痛みに震え両手に持った刀剣を取り落とした。
漆黒の体から黒い煙が立ち上っている。
「グァアアアア!! グァアアアア……」
苦しみの
代わりに、しゅううう…、という音とともにオーディンの姿が黒煙に
*
オーディンが姿を消すとともに、いつの間にかあれほど激しかった吹雪もぴたりと止んでいた。
レイア達は、恐る恐る倒れた生き物の方へと近寄ってみる。
雪の上には半人半馬の男が横たわっていた。しかし、伝説上の怪物・
上半身は毛皮をまとった色白の男で、下半身は灰白色の馬……
「こっ、この人も、絵の中に取り込まれた人かな?!」
怪物ではないと見て、ノエルが慌てて駆け寄った。
ケンタウロスの背中……ちょうどレイアが先ほどのオーディンに留めを刺した箇所には、痛々しい赤色の
「す、すぐに治療しましょう!」
ヴァイスが、
どうやらケンタウロスは気を失っているだけで、命に別状はないようだ。
レイアは、自分がこのケンタウロスの男を殺してしまったのではないとわかって心底ほっとした。
*
「しかし、さっきのレイアとノエルの連携は凄かったぞ。よくあれだけの会話であそこまで完璧に跳べたもんだ」
「ニャ、レイアはどうやってオーディンの後ろから突然ジャンプしたのニャ?」
ヴァイスが治療している間、カッツェとカノアが話しかけてきた。
レイアはノエルと顔を見合わせる。
「……ノエルが足場を作ってくれた」
「足場?」
あのときノエルは、氷柱の結界でオーディンの足を止めさせ、注意を引き付けた。同時にレイアの足元にも氷柱を生み出して、レイアが跳躍する足場を作ってくれたのだ。
それは何の作戦も練らずに行われた連携だった。レイアはノエルに「援護してくれ」と頼んだだけで、あとは状況に合わせて体を動かしたのだ。
「あの一瞬でそんなことをしてたのか。何が起こったのか俺でも一瞬わからなかったぞ。お前達、いつの間にか良いコンビだな」
「えへへ~、そうかなっ♪」
褒められたノエルは、素直に照れながら喜んでいる。
「でも僕は大したことしてないよ。留めを刺せたのは、レイアの魔導術と運動神経のお陰だもん。最初に動いてくれたのもレイアだし」
「そんなことは、ない……」
あまり面と向かって人から褒められた経験がないレイアは、ノエルの言葉に何と返すべきかわからず、思わず口ごもった。
*
この小さな魔導師の少年は、いつだって純粋だ。人を疑うということをしない。
オーディンに留めを刺せたのも、「上に跳ぶ」というレイアのたった一言と彼女のことを信じ、彼が全てを任せてくれたからだ。
自分の力と他人の力を、きちんと信頼している。ノエルのその純真さが、レイアには
――この純真さが、彼の良いところだ。
まだ幼さの残る魔導師の少年を見ながら、そうレイアは思った。
「……ありがとう」
たまには少年の素直さを見習うことにして、レイアは微笑んで見せた。
白く輝く雪原で、レイアの心に
それは「素直さ」と「純真」いう名の白い光だった。
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◆冒険図鑑 No.12:
上半身は人間で、下半身は体の姿をもつ獣人族。
強靭な体力を持ち、弓の扱いに長けている。足も非常に早く、飛脚や伝令の
一説では、冥界に渡ったケンタウロス族の英雄が
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