第2話 淡紅色の練習曲(たんこうしょくのエチュード) -善き魔女の城-
レイア達はここ数日に渡り、「
「魔王」と誤解されていた魔女ブランシェの真実の姿が明かされたあと、魔女の城は「善き魔女の城」と呼ばれ、魔導師たちの育成の場に使われることになった。失われつつある
城の中で持て余されていた多くの部屋は隅々まで掃除され、見違えるほど綺麗になった。若き魔導師候補生や、王宮から派遣された魔導研究者達が、魔女ブランシェの教えを
王都から魔女の城に通うのでは片道で半日もかかってしまうため、魔女ブランシェの城は改造されて人が泊まれるように整備されていた。
城の隣には三階建ての寄宿舎も建築されているところだ。「城に
*
石造りの巨大なこの城は、第一弾として送り込まれた数十人の客人が泊まってもまだ部屋が余るほどの大きさがあった。魔女ブランシェは二百年の隠居生活の中で、
「趣味じゃよ、趣味」
魔女はケラケラと笑いながらそう言ってみせた。
「コツさえつかめば、積み木遊びみたいなものじゃよ」
確かに、二百年かけて徐々に洗練され強大な魔力を待つようになった魔女からすれば、城の建設など単なる暇つぶしに過ぎなかったのかもしれない。
城の東側に新たに建つ寄宿舎は、王都の魔導学校と合同で建設されている。魔導学校の教官や上級生徒のうち希望者が魔女の城に泊まり込み、魔女ブランシェの指導のもと、訓練も兼ねて魔導術を使いながら宿舎を建設しているのだ。その寄宿舎も、もう間もなく完成しようとしていた。ブランシェの指導は、いつもかなり実践的なものなのだった。
*
レイア達もまた、魔女ブランシェに様々な魔法やまじないを教えてもらうためにこの城に来ていた。魔女と王都の二百年にも渡る
「まったく最近の魔導師は質が下がって……なんでもすぐ人に聞いて調べればよいと思っておる。自分の頭で考えるということをせんのじゃ」
魔女はたびたびそう愚痴をこぼした。
だが彼女自身も教えること自体は楽しんでいるようだ。今までほとんど他者との交流を拒んで来た魔女だが、元来は陽気でお喋り好きな性格のようだ。久しぶりの他人との交流を楽しみ、自らの知識を惜しみなく与えることに、今では彼女も歓びと生きがいを感じているようだった。
魔導師であるノエルとヴァイスは、様々な工夫を凝らしながら魔女から精力的に魔導哲学や応用技術を学んでいた。ノエルは効率の良い魔力の使い方や、持久力の高め方を教えてもらっている。
魔女いわく、強大な魔力を操るためには、連鎖的に精霊達を動かすコツを使うのだという。そのコツを掴めば、楽に高い威力を出すことができる。
*
「全ての精霊を一度に動かそうとしないこと。魔導師は
と魔女は語る。
(そういえば……)
ふと、レイアは「巨人の谷」で
あれは、山の精霊自身の願いとレイアの望みが一致したため、精霊達が自律的に動いてくれたのだ。
レイア自身は、あれ以来大きな魔導術を使った経験はないが、普段からいとも簡単に魔導術を操っているノエルやヴァイスを間近で見ているせいか、意外と魔導術の呑み込みは早かった。
「ノエル様と私はここが違うのですね……」
全ての精霊を明確な自己の意志のもとで操作しなければ、と考えてしまうらしいヴァイスは、思いのほかこの「コツ」の習得に苦戦しているようだ。
この白いエルフ殿の場合は、理論詰めで考えすぎるきらいがある、とレイアは思う。そこが彼の良いところでもあるのだが。
学校などというものにはついぞ通ったことのないレイアだったが、この魔女の城での「学び」は彼女の好奇心を存分に満たしてくれるのだった。
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◆登場人物紹介 No.2: 魔女ブランシェ
「善き魔女」と呼ばれる齢200歳を超える
かつては〈東の王都〉で働く白魔導師だったが、大きな誤解により一時期は王都の民から恐れられていた。現在は若い魔導師を指導する指導者である。
名前の由来は「白」を意味する「ブランシュ」。
二百年の間にその魔力量は増大し、常軌を逸した規模の魔力を操ることができるようになった。こう見えて意外とお茶目な性格をしている。
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