色紡ぐ音/とある少年魔導師の異世界冒険譚Ⅲ
邑弥 澪
善き魔女の城
第1話 灰色の記憶 -レイアの目覚め-
目を開けたとき、視界に入ってきたのは灰色の天井だった。
無機質に切り出された石が幾つも重なり合って、アーチ型の天井を支えている。……毎日 目にしているというのに、
レイアは重い
――悪い夢を見ていた、そんな気がする。きっとこの冷たく重い石の天井が、昔を思い起こさせたのだろう。
隣のベッドから物音がしたのに気付いて、そっと隣を
ダークエルフが得意とする忍び足というのは、こんな時には役に立つ。
*
鉛色の冷たい石に囲まれた城の廊下を、物音を立てないよう慎重に歩みを進める。城の外ではまだ
明け方の城内はまだしんと静まり返っていた。が、様々な部屋から聞こえてくるかすかな寝息の音をも、レイアの耳は敏感に察知していた。先ほどまで寝ていた部屋の隣にいるはずの男性陣――ノエルとカッツェ、ヴァイスもまだ眠りについているようだ。
廊下の突き当りにある階段を降り、踊り場の窓から外を眺める。暁の空は
誰もいない階段の踊り場で、レイアはひとつ身震いした。夜明け前のこの時間が、一番冷え込む。何か羽織るものを持って来ればよかった、と少し後悔した。悪い夢から
*
(見ていたのは、昔の夢だ――)
彼らは、いつも好きなだけ酒を飲んでは騒いでいた。ダークエルフであるレイアは、
何の味もなく、色も無い。ただ淡々と過ごした日々。酒を飲んで騒ぐ盗賊達を見ても、何が楽しいのかわからなかった。悲しみも感じず、楽しみも感じられない。あったのは、ただ虚しいという感情だけ――。
*
「
物心ついたときからそうして盗賊に育てられたレイアは、自分の行っていることが「善い」か「悪い」かなど考えたこともなかった。あったのは、ただ「敵」か「味方」かの区別のみ。敵であれば殺すだけ。味方であれば――裏切らないよう監視する。自分以外、誰も信じない。それが、盗賊の世界では当たり前の
*
けれど、そんな彼女も今では仲間を見つけた。〈龍の盃〉を探す旅の途中で出逢った四人の仲間――ノエルとカッツェ、ヴァイス、そしてカノア。彼らは「暗き森」にいたレイアを外の世界に連れ出してくれた。
そうしてレイアは、自分の中の「正しい心」を見つけた。彼らとの間には、盗賊たちとは違う、別の「掟」がある。それが何だか今の自分にはうまく表現できないが、その「掟」はレイアを心地よい安心感へと導いてくれる。
盗賊達は今頃、石牢に入れられていることだろう。盗賊業から足を洗って抜け出すことを決意した際、レイアが治安局に密告したからだ。
そのことについて、多少の罪悪感を感じていない訳ではない。自分だけが助かって良かったのか、本当は自分自身も牢獄に入るべきだったのではないだろうかと――。
ただ、今のレイアは、ノエル達と出会って旅をしたことで「本当の自分」というものをようやく取り戻しつつあると実感していた。今の暮らしは、これまで知らなかった未知の体験を味合わせてくれる。本来獲得すべきだった「感情」というものを、レイアは今ようやく少しずつ手に入れ始めていた。
それは四人のおかげ――。その四人の友人に対して自分には何ができるのか、レイアはずっと考え続けていた。ノエル達と共に西東二つの大陸を縦断し、二ヶ月強も共に旅をしてきたが、未だその答えは見いだせていない。ぼんやりとしていて曖昧なその答えを見つけるには、まだまだ時間がかかりそうだった。
*
とりとめもなくそんなことを考えていると、徐々に城の中で人々が起き出す音が聞こえてきた。
(カノアのもとに、戻ろう)
冷たい汗が引いて少しずつ体に熱が戻ってくるとともに、重く沈んでいたレイアの心もだんだんと浮上してきた。昔の記憶に
暗い灰色の記憶は消えないけれど、もっといろんな彩りで心を埋めていけばいい。今の自分にはそれができる気がしていた。少しだけ軽くなった足取りで、カノアと二人の部屋を目指す。
一度寝たらなかなか起きないあの友人を、そっと起こしてあげよう――。橙色の猫耳をもつ彼女のことを思い出すと、レイアの気持ちは少しだけ
=========================
◆登場人物紹介 No.1: レイア(双刀使い・魔剣士)
ダークエルフの戦士。年齢は推定20歳。二本の忍び刀と土魔導で戦う。
褐色の肌と、一括りにした銀色の長髪・琥珀色の瞳が特徴。桃色の戦装束と
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます