第8話 1年後の花火大会
「武人さん、今どうしてるの?」
「相変わらず女性に人気だよ。でも、愛してるのはお袋だけだって云って再婚する気はないみたいだ。全く、極端なんだよな」
ぶっきらぼうに云いながらも、愛羅人君の口元は綻んでいて、本当は嬉しいと思っているのが伝わってくる。
「あの時の武人さん、子供のような顔してたよね」
「ああ、オレ、お袋がいなくなってから迷惑をかけないように必死で勉強とか頑張ってきたからな。初めて息子に反抗されて、どうすればいいか分かんなかったんだろう」
お父さんの為に、か。やっぱり愛羅人君は優しい人だ。
「紫音、親父のコトなんかより、今日はオレのコトだけ考えてろよ」
嫉妬を隠さず、愛羅人君は唇を尖らせる。
あれから三つの季節を経て、再び打ち上げ花火の季節がやってきた。
烏賊須神社への道……をちょっと逸れた愛羅人君と、別れ、愛を確かめ合ったあの場所へと向かっていた。
「そろそろ花火だねえ、お爺さん」
「そうだねえ、お婆さん」
「お父さん、花火始まったら前行こうよ~」
「ん? 肩車してやるぞ」
恋人達や親子連れを見かける。そんな中に、
「ちょっと、サル! 千人の美男子(イケメン)蹴ってまであんたの誘いに乗ってやったんだから特等席用意しなさいよ!」
「型に嵌まった祭りより、行き当たりばったりの方が人生楽しいぜ。大体そんな楽してたら太るぜ、羅紗!」
「余計なお世話よ!」
楽しそうに云い合ってるサル君と羅紗がいた。
サル君は今まで通り友達でいてくれている。羅紗とも,もう前のような関係には戻れないけど,普通に話せるようになってきた。
(あの二人、いい雰囲気。付き合うのかしら……?)
思い切り愛羅人君の言いつけを破ってサル君たちの事を考えていると、去年より草が伸びたあの場所に辿り着いた。去年と同じ黒蝶柄の浴衣を汚さないようにと、愛羅人君が膝を提供してくれる。彼に後ろから抱きこまれながら花火を待っていると、
ヒュルルルル~ バーン!
空いっぱいに花火が満開を告げる。その中の青緑色の花火を指差して私達は同時に叫んだ。
「銅だわ!」「セシウムだ!」
「「……」」
一瞬黙り込んでから一斉に喧嘩が始まる。
「何云ってるのよ、どう見たってあれは銅でしょ!」
「何処が銅だ。あれはセシウムだ!」
「違う!」
「違わない!」
花開く空の下。私達は人目がないのを良い事に云い合いを続ける。
え? また別れる事になるんじゃないかって?
心配ありがと。でも大丈夫。喧嘩しながらも愛羅人君の表情は柔らか。心の底から怒っているわけじゃないわ。
それに彼は約束してくれたわ。『二度と離さない』って。
私たちの大きな愛は、炎色反応にだって、美しい花火にだって負けてない。
―――終―――
FIRE WORKS 遠山李衣 @Toyamarii
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