第8話 奮い立て、オッサン
★
さっきまで俺を締め付けていた縄が、フッと消えた。
どうやら、操縄の加護を使っていた男の生命力が終わったらしい。
通常、加護の力を使うには、階位レベルの上昇した生命力の消費が必要だ。
一方、俺の
とにかく、通常の加護を使うには、生命力に依存するので、使い続ければ生命力は尽き果て、近くで干からびた状態で倒れている男のように、無残な死に様が待っている。
操縄の力が無くなったお陰で、自由が効くようになったけど、まだ俺への攻撃は続いていた。
俺を剣で刺していた残りの2人も、さっきから俺に致命傷を当てることは無くなっている。
「もういいだろ、邪魔だ」
俺は、目に鬼火を湛えたまま攻撃をしてくる2人を突き飛ばし、身体に纏わり付いた服の残骸をちぎりながら立ち上がった。
「はあ、折角買ったばかりの服と、革鎧だったのになあ……」
俺は、買ったばかりだった装備の残骸と、突き倒された姿でジタバタ動いているゴロツキ2人を見比べた。
倒れた二人は、その姿のまま、全力で腕を振り続けている。
下で蠢いていた、ゴロツキ2人の腕は、両腕が肘から先が折れて千切れかけている。
俺への全力での攻撃を始めてすぐ、安物の剣はへし折れて、折れたままの剣で俺を殴り続けてくれていたようだが、その剣も、自分の手の骨がバラバラになると、どっかに飛んで行き、素手で全力殴打を続けた結果だ。
腕から、骨が飛び出しているのに、残された生命力を使って全力で振っていた。
(出血が酷くて立ち上がれないみたいだし、ほっとけば良いか)
一方、俺の服は、残念ながらぼろぼろにされてしまったが、身体に傷一つ無いので正常に動く。
顔面がボコボコにされているのは、絶対回復の加護が、顔面ボコボコの状態に戻すからしょうがない。
倒れて動かなくなったゴロツキから、上着と、革鎧をはぎ取る。
装備のベルトを緩めたり絞めたりして、身体になじませ調子を確かめる。
(ちょっとサイズは違うが、贅沢も言ってらんねえな)
準備が終わり、ホナル城塞都市の方角を見る。
「俺には、関係の無いことだしなあ……はぁ」
俺は、ため息一つだけ残して、街とは反対側へと歩き出した。
(忘れちまえ、俺には関係ねえ)
午後の日差しは、柔らかく、歩くのに丁度良い季候だ。
森の切れ目に咲く風は気持ちいいし、野花も風に揺れて美しい、街道の先に見えてる山脈を超えたら、どんな国や街が有って、そこの食材を使った料理があるのか行く前から楽しみになる。
とぼとぼと、歩き続ける。
太陽の位置から昼過ぎぐらいか、朝から何も喰ってないが、全回復の加護のお陰で、空腹で一定のダメージが入ると、勝手に回復してくれる。
今の俺の美食は、ただの趣味であって、生きてるのか死んでるのか分からない自分への、存在確認作業みたいなもんだ。
無尽蔵にわき上がる力は、どこから来るのか知らんが、さすが階位レベル∞ってやつである。
歩き続ける足に疲労は来ない。
なのに、足取りは重い。
さっきから、昨日の少女との記憶が、俺の足を鈍らせている。
(ウルバの巫女は、地龍神への贄だったんだ。地龍神の力は強大だ、神格の高さから、最高クラスの上位神として君臨している神なんだよ、畜生)
左手が、自然と腰にぶら下げた種毒の壺が入ったポーチに触れている。
魔物狩り用の強力な毒の作り置きも入っているのを、手の感触で確かめる。
(今有る材料の毒で倒せるか? ……あり得ないだろ、相手は地龍神だ)
どう考えても無理な話しだった。
今までに、俺の加護を使って、何度か神殺しの経験はある。
野良の荒神も倒した、神域を外れて荒ぶる祟り神も倒した、中には上位神クラスのヤツも倒した事もある。
種毒の壺を奪い取った時、元の持ち主だった魔女が巫女をやっていた外神の邪神がそうだった。
(あれは、本当に酷い戦いだった、邪神を倒すのに、なんと20年の時間がかかった。洒落になんねえ)
邪神との戦闘で俺は、ヘイトの加護を発動して、俺への攻撃を辞めることのできない邪神の手で、何度も死ぬ度に、絶対回復の加護が俺を生き返らせ、延々と20年の時をかけて邪神相手に粘り勝った。
強力な神が相手だと、生命力や魔力の回復速度が高く、俺への攻撃が無尽蔵に行われるため、我慢比べになってしまい、倒すまでに時間がかかる。
幸い、俺の精神力は、絶対回復によって狂う事すら出来ないので、20年殴られ続けても平気だったが、最後は、邪神が自分で終わらせてくれたお陰で、勝負はついた。
(あんなのは、二度とゴメンだ)
歩き続ける。
太陽が、傾き掛けている。もう少し急げば、小さな村があったはずなので、今夜の宿はそこで取ることができるはずだ。
「加護は、強力になれば呪いでしか無い、神の力に近寄るな」
過去の失敗で得た教訓をつぶやく。
(130年かけて自分の中で出た答えだ……なのに、一回会っただけの少女の事が頭から離れないのは、何でなんだなよ。あんな変な格好したガキなのに)
昨日の事を思い出す。
(毎年やってくる贄の巫女を見送り、たった1人で100年いたガキか……)
俺は、130年前のあの日から、2柱の女神にもう一度会って、この呪いを解いてもらため、街から街へと呪いの解き方を探し歩いて来た日々だ。
死ぬこともできず、ヘイトの加護の影響で、何もしてないのに、魔獣や他人にケンカを売られて、攻撃される痛みに耐えながら、相手が勝手に死んでいくのをただ待つだけの孤独を130年続けてきた。
「あーあ」
ため息が出る。
(……あの
足が止まっていた。
「あああ、くそっ、100年の孤独とか何なんだよ、終わりにしてやりゃいいじゃねぇかよ……あああ、もう、しょうがねえ」
身体に巻き付けた革鎧を無理矢理脱ぎ捨てる。走るのに邪魔だ。
今進んできたのとは、反対側へと、走り出す。
「畜生おおおおお、130年経とうが、1000年経とうが、バカなのは治らねえのかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
俺は吠えながら走った。幸い、絶対回復の加護があるお陰で、疲労をする暇なく回復されるので、全力疾走のまま走れる。
足が短いので、大して早くないが……
森の中と違って、整備された街道では、俺の短い足でも転ぶこと無く、ドタバタ走り続けられた。
今から、この街道を走って戻らなきゃなんない。クズ共が言った、地龍神の祠へとミイヒャを助けに行く。
(何が、人身御供だ、何が上位神の地龍神だ、ばかやろう)
訳の分からない高揚感が、俺を奮い立たせる。
(やってやるぜ、ちきしょう)
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