第2話 冒険者登録だ、オッサン
★辺境の街 カナル・ホナル城塞都市
ギーィッギギ
ぼろっちい冒険者ギルドのドアが開く、中にいた昼間っから飲んだくれている冒険者崩れ達の視線が入ってきた人間を見て、あからさまに嫌悪の表情に変わった。
無理もない、中に入って来たのは。ぼろぼろで裸同然のおっさんだったからだ。
(ちっ、柄が悪い土地だな、おとなしく用事を済ませてさっさと引き上げよう)
心の中で毒づきながら中を見渡したおっさんこと、俺、ホーンズ 35歳。流れ者の冒険者をやっている。
(少々顔面がボコボコに腫れ上がっているが、正常時ならなかなのいい男のはずだ……多少腹は出てるがな)
破れた服から見えてる、浅黒い地肌のでっぱった腹に意識を集中して、周りの刺すような視線から現実逃避をする。
周りと目線を合わさないよう、下を向きながらカウンターへとたどり着く。
カウンターに座っている男は、神経質そうな視線で、俺のことを胡散臭げに睨んできている。
(しょうがない、もう慣れっこだ、トラブルだけは避けて、魔石を換金したら早く服を買いに行かないと)
さっき、街の魔道具店に寄って、魔石の買い取りを頼んだら、『この街では、冒険者ギルドに登録してない者から買い取りはできない』と言われた。
と言うわけで俺は、嫌々ながら冒険者ギルドへとやってきた。
「何の用だ」
(何だよこの土地、ギルド職員まで態度が悪いな……)
何もしてないのに、早くもギルド職員からヘイトをもらったようだ。
「すまないが、ギルドの登録を頼みたいんだが」
「はあ? あんた
「プハッ」……
後ろでたむろしていたゴロツキのような連中からも、嘲りの声が聞こえてくる。
(まずいな、またトラブルになりそうだ、下手に出るしかないか)
俺は、プライドとか言う腹の足しにもならない物を早々に捨てて、戦略的撤退を選択した。
「へへへ、お願いですよ旦那、俺は見ての通りこの有様です、あいにく金は無いが、魔石は持ってるんですよ、魔石をこの街で換金するには、この街のギルド登録が必要でしょ、服と装備さえ整えられりゃ、すぐにこの街から出て行きやす。後生です、どうか審査だけでもしてくださいよお、旦那ー」
なるべく下手に、そして卑屈にお願いするのがポイントだ。
官僚機構に逆らって得した試しは無い。
「なるほどな、じゃあ審査をしてやる。魔石を担保にして金は貸してやるが利子は高いよ」
「わかりました、お願いします」
明らかに俺からふんだくるつもりの職員が、後ろに引っ込んでいる間に、魔素溜まりから取り戻した鞄の中に手を突っ込む。
ジャラッ
いくつかの手応えの中から、親指ぐらいの大きさの魔石を取り出す。
色も質も良い魔石だ、そこそこの値段になるだろう。
正直惜しいが、賄賂代わりだ、我慢しよう。
職員が審査の用意をして、面倒くさそうに振り返ったとき、俺の出した魔石を見てほくそ笑んだのを見逃さない。
「旦那、こいついくらで買ってくれますか?」
「ああ、そうだな……30シルバで買ってやろう、だがその前に、登録のための審査だ、審査料と登録料で30シルバを寄こせ、文句があれば帰ってくれていいんだぜ」
(やっぱりそうなるか……釣り銭はこいつへの賄賂だな)
「……お願いします」
腹の中では、怒りが湧き出しているが、これ以上ヘイトを積む訳にはいかない。ぐっと堪える。
へらへらと笑っている職員が、俺の前に大きめのクリスタルを置いた。
鑑定石のクリスタルだ。
この世界には、魔法が有る。そして魔物と呼ばれる魔素を体内に取り込んだ獣を倒すと、階位が上がり、レベルアップする。
このレベルアップが有るお陰で、普通の人間では、絶対に立ち向かうことのできない魔物が相手でも倒せるぐらいHP=体力や、MP=魔力が増大して、冒険者と呼ばれる職業が成り立っていた。
冒険者ギルドは、冒険者への仕事斡旋所として、冒険者のレベルに応じた仕事を渡すため、最初に訪れた街の冒険者ギルドでは、鑑定石を使って冒険者の能力を調べるのが習わしになっている。
これから俺が調べられるのは、基本能力のHPとMP、そしてレベルと呼ばれる階位を調べられる事になる。
他にも、世界各地にいる神々から、神に仕える巫女を通じて、加護と呼ばれる特殊能力が極希にだが授けられる者もいるが、この手の鑑定石では分からないので、問題は無い。
「じゃあ、この鑑定石の上に手を置け。よし読み上げるぞ」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ、読み上げるのは勘弁願います」
(勘弁してくれ、俺の特殊なステータスをこんな場所で周知されたら、ただじゃ済まないぞ。他の街のギルドだと、個人の情報は秘匿してくれるのが当たり前なのに、ここはそうじゃないのかよ)
「うるせえな、俺の言うことが聞けないのなら、このまま帰ってもらってもいいんだぜ、鑑定料はもらうがな」
職員の顔が嗜虐心を丸出しにして俺を睨んできた。後ろでは、ゴロツキ達が席を立っている音がする。
「おいおい、ギルドの職員様を困らせるとは、どんな奴だあ」
「お仕置きが必要かあ?」
「あああん」
後ろを振り返る。
(まずい、3人の冒険者が立ち上がってる。ここは得意技の……)
囲まれる前に先手を打つべく、俺は得意技を披露した。
「い、いえ、皆さん、お騒がせしてすみまやせん、職員の旦那、お手数をおかけして申し訳ありませんでやす」
見事な、下手&卑屈の黄金コンボを炸裂させると、立ち上がっていたゴロツキ共は、また椅子に座った。
(ふっ、決まったな)
「おっさん、分かりゃいいんだよ、分かりゃ、さっさと手を乗せろ」
ギルド職員が、横柄に俺へと指図してくる。
あきらめた俺は、自分の右手を鑑定石に置いた。
ポワーン
軽い振動と共に、鑑定石が光る。
「よーし、それじゃあ、読み上げるぞー……っと何だこりゃ、ゲラゲラゲラゲッラゲラ」
鑑定石を覗き込んでいたギルド職員が、突然笑い出した。
(ちっ、こうなる事は分かってたんだ、くそっ)
しばらく待つと、笑いの発作が治まったギルド職員が、鑑定石を読み上げる。
「ヒイ、ファフッ、よ、よし読み上げるぞ、HP……15、MP9……ゲラゲラゲラゲラ……何だよHP15って、うちの11歳の息子より低いぞこれ、よくこんなので冒険者になろうと思ったなおっさん」
ギルド職員が読み上げた俺の数値を聞いて、周りのゴロツキ達も笑い転げている。
俺は、笑い転げてる奴らを蹴り飛ばしたい衝動と戦いながら、早く終わってくれるよう、ギルド職員にお願いした。
「もう勘弁してくださいよ、さっさとギルド登録をしてくれやせんかね」
「まだだ、レベルも確認してやるからよ」
「あっ、ちょっとそれは」
一番面倒くさい所を読もうとしている。
俺の抗議は、むなしく聞き流され、俺のレベルを読み上げられた。
「いいから黙ってろ……っとどれどれ、レベル……何だこの文字は?」
ギルド職員が青くなって固まった。
後ろでは、唾を飲む音も聞こえてくる。
鑑定石には、∞の文字が浮かんでいる。
(やばいな)
俺は素早く、情報のフォローを行う。
「いやいや旦那、俺のレベル表示は、おかしくなってるんですよ。レベル表示がどうも間違って表示される体質らしくて……HPやMPは見ての通り、正真正銘最弱なんですさあ」
「……あ、ああ、そんな事があるのか、まあいい」
ギルド職員は、ぶつぶつと何か良いながら、この街でのギルド会員登録をする。
俺は、やっと登録を終えたので、手続きの完了を確認して、冒険者ギルドを後にした。
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