最弱ステータスのオッサン冒険者なのに、その男、最強
アリス&テレス
第1話 逃げろ、オッサン
★カナル大森林
「ハァハァハァ……くっそー、やっちまったー」
木漏れ日が所々に射した薄暗い森の中を、ちょっと小太りのおっさんが走っている。
背はあまり高くないおっさんの服装は、つぎはぎだらけの服と、ちょっとサイズの小さい革鎧。
左手には、あまり重そうじゃない小剣。
反対の右手には、壊れた獣取りの罠。
どうやら冒険者のようだ。
残念ながら、どうみても
ひげに白いものが混ざっているので、中年のおっさんらしい。
顔面を見ると、すでに攻撃を受けていたのか、赤黒く腫れ上がっている。
顔面ボッコボコってやつだ。
おっさんは、何かから逃げているようだ。
だがおっさんの腹はだらしなく出ていて、あまり早く走れない。何かから逃げてるにせよ、追いつかれるのも時間の問題だろう。
ザザッ
「だっ、あいだだだだだあだだ」
走っていたおっさんの足がもつれて、無様に転んだ。
残念な事に、おっさんの足の短さは、障害物が多い森での全力疾走に向いてなかった。とても残念。
ピュィ……ピピッ
転んだおっさんの後方から、何かの鳴き声がした。
恐怖に引きつったおっさんの前に、
ホーンラビット:魔物と呼ばれる魔素を体内に宿した獣の中で、最も弱く、初心者冒険者が最初の経験値稼ぎに選ぶ魔物だ。
ホーンラビットの瞳には、激しい怒りを称えた鬼火のような光が爛々としている。
「よせ、辞めろ、それ以上来るな
おっさんは、転んだ姿勢のまま壊れた罠をホーンラビットへ投げつけるが、全然違う方向へ飛んでいく。
しょうがないので、おっさんは立ち上がり、左手で持った小剣を構えた。
だが、握られた剣は、短く、ホーンラビットの角の方長くて、おっさんは勝てる気が全然しなかった。
おっさんは、無意識に腰に有るはずのポーチに手を伸ばすが、そこにポーチは無い。
ここに来る途中、大きな魔素溜まりへと続く古い道があったので、おっさんは、『こう言った場所には魔物が湧くので、狩りをするのに最適だ』と、喜んでいた最中に、ホーンラビットの襲撃を受けていた。
ポーチの中に用意していた毒矢と種毒の壺は、罠を仕掛ける途中でホーンラビットに見つかったとき、ポーチ毎そのまま置いてきた。
「ざっけんな畜生、真正面から魔物と戦うとか、呪われてるのにもホドが有んだろうがよー」
おっさんは、自分の運命を呪ったが、事態は一切好転してくれなかった。
シャッ、チャッチャッチャッチャ
心の中で毒づいているおっさんの気持ちを無視して、ホーンラビットは小さな足音を立てながら、前に出てくる。
最弱の魔獣の癖に、おっさんの方が弱い獲物だと分かっているようだ。野生の獣は、本能で自分よりも弱い獲物を見分ける。
「ちきしょう、こっちくんな」
おっさんは、近くに落ちていた木の枝に気がつき、それを掴んでホーンラビットへ投げつけた。
バンッ
突然の反撃に驚いたのか、ホーンラビットは立ち上がって停止した。
おっさんの投げた木の枝は、奇跡的にホーンラビットの左目の上に当たり、怯ませることに成功したようだ
「マジかよ、当たった。ホレホレ、そのまま逃げろ」
おっさんは、自分の投擲の成果にほんの少しの満足感を感じると同時に、ホーンラビットが逃げ去ってくれるのではと、期待した。
だがそんなおっさんの淡い期待は、裏切られた。
ホーンラビットが立ち止まったのは、おっさんの攻撃のせいでは無かった。
立ち止まったホーンラビットが、キョロキョロと周りを警戒している。
その視線に、おっさんもようやく自分が置かれた状況に気がついた。
森の暗闇に光る無数の鬼火。
魔獣の怒り狂った目が、いくつもおっさんを睨んでいた。
おっさんが気がついた時には、周りすべてを取り囲まれた状態だったのだ。
ピュィ、ピギュギュギュ。
ホーンラビットが鋭い鳴き声を発したのに併せて、周りが騒がしくなる。
フゴーフゴー。ゴゴゴギャギュグググ。グルルウロロロロロロロロロロ……
おっさんが、まだ聞いたことも無いような魔物の声も混ざっている。
「ちきしょう、いつの間にか
おっさんの絶叫は、一斉に襲いかっかってきた魔物の群れに打ち消された……
続きは、明日18時過ぎぐらいに投稿予定
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