第6話

 翌日、僕はまた街で君を見かけた。この日も兄貴のパシリで、今度はブランド物の財布を買いに行かされた。人気店なだけあって開店三十分前にもかかわらず、長蛇の列が出来ていた。並び始めてから二時間くらい経った頃のことだった。

 君は膝上十五センチのミニスカートをはいていて、髪を右側に流していた。校則がしっかり守られた長さではなく、今日は雲が出て日が陰っているのに目に眩しい。ソフトクリームを美味しそうに食べている。はじける笑顔がCMに出てくるモデルに負けないくらいチャーミングだ。ごみごみした街に加え、長時間、列に並んで疲れきった僕を優しく癒してくれる。

 そんな君を微笑ましく見ていると、君は何かに気付いた様子で手を挙げた。駆け寄ってきたのは……見知らぬ男だった。大学生くらいだろうか?こういっては何だけど……何か優男って感じがする。周りと似たような服を着ているのに随処にセンスの良さが表れた着こなし。端正な顔立ちをしていて、すれ違った女性は皆振り返るほどだ。自分の魅力を熟知しているようでサービス精神溢れる笑顔をふりまいている。少女漫画からそのまま出てきたような華やかさを持っていた。

 男はキラキラスマイルを浮かべたまま君に何か話しかけた。二言三言、二人は話していたけど、やがて慣れた手つきで君をエスコートして上品な店構えをしたレストランへと入って行った。

 その間僕は、二人を凝視したまま一歩も動けなかった。はっと気付いた時には、僕は列から大きく外れ、後ろにいた人たちはとっくに前に詰めていた。慌ててまた最後尾に並んだ。

 当然、僕の番が回って来た時には、兄貴に頼まれた一番人気の財布は完売していて、戦利品を得られなかった。僕の帰りを楽しみに待っていた兄貴が、烈火の如く怒ったことは云うまでもない。


 君とあの男の姿が浮かんでは消え、浮かんでは消える。あの日から、全く眠れない。おかげで目の下には濃いクマが出来ていた。

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