第3話
君は本当にやってきた。それも三日と空けないペースで。秘密の隠れ処で……と言っても君に知られた時点で秘密ではなくなったけれど……君が僕の隣で本を読んでいる時間がとてつもなく愛おしい。君はいつも白や白っぽいサマードレスを着ていた。君が現れただけで場の空気が変わる。それでいて違和感が全くない。あまりにも君が海に馴染んでいて、ずっと前から君とここで会っていたような気分になる。
「冷たくて気持ち良い。日に当たって火照った体を優しく冷やしてくれる感じがする」
君が来るようになって何度目のことだろう。その日は波が隠れ処まで来ていた。こんな日は海と陸の境がなくなる。
「海が近く見えるね。砂が見えなくなるから海の中にいるみたい」
「だよね。僕はこうしていると海の一部になれた気がする……この感覚、丈琉と晶には絶対分からないだろうなぁ」
「ふふふ。一度見てみれば分かると思うけどな」
冗談じゃない。親友にだって云いたくないとっておきの場所なんだから。第一、海育ちの二人が今更海に来たいって思うはずがない。
「教室から海が見えるって魅力的で自慢だったんだけど、これを見ちゃったら敵わないよね。海の中にいるような空間には勝てない」
実は僕もそう思っていた。入学式の日、噂に名高い美景を見ようと教室に入った。入試の時は海が見えない棟で試験があったから、その日が初めてで気分が高ぶっていた。
果たして僕の目に映ったのは、何の変哲もない海だった。創立時からテレビや雑誌で取り上げられていたように、確かに鮮やかな碧だった。だけどそれだけ。潮の香りも、少しずつ変わっていく波の音も、波打ち際水 水の向こう側に見える砂や貝も、全く届かなかった。期待が急に萎んで、がっかりしたのを覚えている。
「今までここを独り占めしてきたんだよね。ズルいな」
そう云って小さく唇を尖らせた君を可愛いと思う。
海の時間の流れは穏やかだ。でも君といると時が速く過ぎているような気もして時間の感覚が分からなくなる。それでもずっとこのままでいられたら良いのに、と思った。
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