第3話

でも少し気になることが…。

一体軍の何の仕事をしていたというのだろう。

僕は一日かけて残りの文章も読み終えた。

紙を読み進めて、僕はある恐ろしい答えにたどり着いた。

それは恐ろしすぎて否定したいほどの内容であった。


ある一枚には人間の解剖方法が書いてあった。

部位ごとの解体方法が書いてある。

関節の外し方に至るまで、事細かに図式化してあった。

人間の解剖をしていたというのか。

いや、まさか、そんな…。

じいじは医者でも何でもないはず。

ただの料理人だ。

当時、肉の解体作業の多くは部落民だったはず。

しかしうちの家系はエタとかヒニンとかいう階層ではない。

どうして軍関係の仕事を任されるようになったかは、今となっては探りようもない。


ただおいしい肉とは人間の肉ではなかったのか。

それ以外の回答が見い出せない。

軍よりの勅令。

それが文書で残っている。

要約すると、「戦場で食料調達に困った時の人間の食料化に関する方法」をまとめてほしいというものだった。

そして軍から支給されたのは、焼かれるはずの死体。

遺体はこちらから提供する。

それらは社会主義者どもの死骸だから心を痛めることはない。

彼らもお国のために尽くして死ぬのだ。

愛国心の再教育の一部だ。

心して仕事に従事してほしい。


これは…。

いや、これが勅令かどうか…。

本物かどうかなんて分からない。

しかしこんなものをわざわざ偽装する必要性もないじゃないか。


戦時中は国のいうことは絶対であって、逆らえば赤のレッテルを張られた時代だ。

特高警察に目をつけられるような行動は死を意味する。

拷問は日常茶飯事で当然死人も出たに決まってる。

本来はゴミのように土の下に埋められたはずだ。

しかしこれらの死体を食用にする研究が密かに行われていたことを示唆している。


もしじいじが食堂で人間の肉を振る舞い、残り物などを食べてたとすれば、そのことを口にするとは考えがたい。


それに気になるのはじいじの死因だ。

今でいう痴ほう症。

そして歩行困難。

この症状。

いわゆる狂牛病に類似し過ぎではないか。

人間の肉を食い続けると狂牛病と同じ症状が出ると聞いたことがある。

じいじは共食いをし続けたせいで、狂牛病で死んだのではないだろうか。

店が繁盛しなくなったのも人間の肉が手に入らなくなったせいではないか。

それじゃ秘密にするのが当たり前で、誰にも話さないのも納得できる。

僕はその日、手紙や指令書などを絵とともに燃やした。

もしかしたらこの絵にも暗号が隠されているかもしれないからだ。

これで秘密は隠蔽される。

国のためとはいえ、じいじの犯した行為は許されることではない。

もちろん死体は政府から支給されたものだが、当時この秘密がバレていたら、じいじはBC級戦犯で死刑になっていたに違いない。

これはじいじの名誉のためであり、我ら一族のためでもあった。

じいじがなぜ絵画の中に秘密を残したのかは分からない。

それが良心だとしても、これは表には出せない秘密だ。

表沙汰にすることが良心だとは思えない。

おいしいハンブルグ屋は所詮夢でしかなかったのだ。


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