サーヤと少年③

「君、どうかしたの?」


 そう声を掛けると少年は泣きながらもゆっくりと顔を上げた。


「嘘っ!」


 少年の顔を見たわたしは驚きのあまりそう言ってしまった。


 どうやら少年はこの公園で盛大に転んでしまったようで、頬や鼻先の皮膚が損傷し血を流していた。


「酷い怪我」


「うぅ、痛いよぉ」


「大丈夫だよ。お姉ちゃんがすぐに治してあげるから」


 わたしは「痛い、痛い」と呟く少年に左右の掌を向けて治癒魔法を唱えた。


「痛いよぉ、痛い、痛、あれ?」


「もう痛くなくなったでしょ?」


 優しく微笑みながらそう言うと、少年は不思議がりながらも大きく頷いた。


「お姉さん、何者?」


「通りすがりのおせっかいな僧侶だよ。覚えなくていいよ」


「ありがとう、魔法使いのお姉さん」


 少年はそう言うと立ち上がってわたしにぺこりと頭を下げてお礼をして公園を出て行った。


「僧侶って言ったんだけどなぁ」


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