闘士の世界

 でもおかしい。自分の世界と明日香ちゃんの世界は別の世界のはずだ。本来自分は明日香ちゃんを知らないはずだし、明日香ちゃんも自分を知らないはずだ。


「汝はパラレルワールドという言葉を知っているか?


パラ、ド? なんだそれ」


「並行世界だっけ?」


「並行世界? 聞いたことないな」


「今の僕たちが過ごしている時間から分岐して存在している世界で合っているよね? 姉ちゃん」


「明日夢の言う通りこの世界にはいくつもの分岐した世界が多く存在している。例えば、我が魔王ではない世界」


「元々魔王じゃないけど」


「例えば、明日夢と夏海が別れなかった世界」


「そんな世界もあったのかな?」


「例えばタイジュを蘇生しなかった世界」


 姉ちゃんがそう言うと姉ちゃんタイジュさんの表情が曇った。


「つまり自分は。


あの試合で我が大怪我を負った世界線のツクモ・タイジュ」


「姉ちゃんが試合を引き分けた世界線であるこの世界線にはツクモ・タイジュなんて人物はいないけどね」


「おたくらに聞きたい。明日香ちゃんが引き分けたという、この世界の自分の名前は何という名前なの?」


 そう聞かれた僕は何も答えられなかった。同様に姉ちゃんも答えることは出来なかった。


「おたくら?」


「ごめんなさい。思い出せなくて」


「我も思い出せぬ」


 僕たちの答えにタイジュさんは大きな溜息を吐いた。

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