闘士の秘密⑤

「思い、出した。自分が女性に近づけなくなった理由」


 自分がまだ小学生で武道を嗜んでいた頃、向かうところ敵なしであった自分の前にとある少女がやって来た。同年代である自分を目的としてやって来たその少女からは戦わずともやる気と強さが伝わって来て自分の心を滾らせた。


 少女は似た顔つきの少年に来ていた胴着の袖を掴まれていたが、それを振り解いて自分の前へと歩みより自分に握手を求めた。


 その握手に応え、固い握手をした自分たちは一度距離を取った。


 そして互いに向き合って一礼。


 そこから試合が終わるまでの事を自分は全く覚えていない。正確には覚えていないのではなく、覚えられないほど早く決着がついてしまった。


 少女はその年代としては十分な強さを持っていて正式な大会ならば優勝できる実力だった。しかし、少女の何百倍も過酷な鍛錬を積まされた自分の前では赤子同然だった。


『姉ちゃん!』


 声にならない悲鳴を上げて倒れる少女に顔も背丈もよく似た少年がそう叫んで誰よりも早く駆け寄った。そして大人たちも少女を取り囲み、自分だけが呆然と立ち尽くしていた。


 自分はその時初めて知った。同じ人間であっても女性というのはとても脆く壊れやすいと。


「明日香、内野明日香。あの時、自分と手合せした」


 でもおかしい。自分の世界と明日香ちゃんの世界は別の世界のはずだ。本来自分は明日香ちゃんを知らないはずだし、明日香ちゃんも自分を知らないはずだ。


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