闘士覚醒⑤

「そう言えば、おたくらは自分のことを知っているかもだけど、自分はおたくらのことを知らないから自己紹介をしよう。自分は……。自分は……」


「どうしました?」


「思い出せない。思い出せないんだ。自分の名前を、自分の名前だけを」


 蘇生魔法の副作用ではないはずだが、僕が分かる限りで思い当たる原因はそれ以外に考えられなかった。


「どんな異世界人マギレが宿ったのかと思ったら名を奪われた闘士とは。


誰だ、どこにいる!


君の中。いや、正確には我の中に君が居るのだが、そんなことは些細な問題に過ぎない。


だから誰なんだ、おたくは」


 この光景も毎回見ているがやはりわからないものなのだろうか。


「我は汝、そして汝の名はツクモ・タイジュ。


ツクモ・タイジュ? しっくりは来ないがそれが自分の名前なのか?」


「姉ちゃん、その名前って今決めたでしょ?」


「な、何故バレた。


なんだ、おたくも自分の本当の名前を知らないのか。でも、まぁ名前が無いのは不便だしその名前を名乗らせてもらう事にするよ。改めて、ツクモ・タイジュだ。おたくは?」


「内野明日夢です」


「我は内野明日香。


明日夢に明日香ね。自分はこれからどう過ごしていくのか分からないけどよろしく」


 ツクモ・タイジュと勝手に名付けられたその姉ちゃんひとは僕の手を優しく握った。

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