夏まつり カインサイド

 明日香越しに明日夢の告白シーンが見え、聞こえた時、俺は心の底から『よく言った!』そう思った。それはきっと明日香も同じ気持ちなのだろうと。


「おい、明日香。どうして走っている? 明日夢と夏海を呼びに来たんだろ?」


 俺の声は明日香には届いていなかった。


「止まれ、明日香!」


 いつものように身体を強制的に借りて重力と風の力を受けていつもの何倍もの力で動いているこの足を止めようとしたが、俺は明日香の身体を借りることが出来なかった。


 明日香の身体に別人格としてから随分と時間が経つし、身体を借りる力を失ったのではないかと思ったが、感覚的に明日香が自ら身体を貸すのを拒否しているように感じた。


「嫌だ、嫌だよ」


 明日香は泣いていた。人目も気にせずボロボロと。


「明日夢が取られるのが嫌なのか」


 そう呟いた瞬間、僅かに動きが鈍ったことで俺は確信した。


明日香は世界が違えば魔王になりうるほど強大な独占欲を持っている。それは明日夢のみに向けられた欲だが、明日夢が夏海に告白したところを見てしまった影響で明日香は今、現実から目を逸らすために逃げている。


「カインくん、後はわたしに任せてもらえるかな? ヒーリングはわたしの得意分野だから。


わかった。後は頼む」


 俺は何も出来ぬまま引き下がった。



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