夏まつり 明日香サイド

 私がお化け屋敷から出て来た時にはもう既に明日夢と夏海ちゃんの姿はお化け屋敷の外にも中にもなかった。


「あれ? 夏海ちゃんどこに行っちゃったんだろう? 明日夢くんもいないし」


「そのお2人ならゆっくりできるところに移動すると仰っていましたよ」


 お化け屋敷の受付にいたお姉さんはお化け屋敷の前で明日夢たちを探す私たちにそう教えてくれた。


「我が魔眼は半身の居場所を見つけることが出来る。皆はこの辺りで待つが良い。案ずるな、すぐに戻る」


 私はそう言い残すと人の波をかき分けながら走った。別人格という特殊な能力は持ってはいるけれど魔眼なんてものは持っていない私に明日夢の正確な位置はわからないけれど、明日夢が今日行く場所の検討くらいはついていた。


「明日夢、夏海ちゃん」


 希望丘という私たちの住む町で一番良い景色が見られるその場所は二年前の夏まつりで明日夢が夏海ちゃんに告白をした場所、私から見て夏海ちゃんが幼馴染から弟の彼女に変わった場所だった。


「夏海、好きだよ」


 また何かが変わる前に明日夢を呼び止めたかった。夏海ちゃんを呼び止めたかった。でも、その前に私の耳に届いたのはその一言だった。


「うっ」


 気付いた時には私は二人に背を向けて希望丘を下っていた。坂道とひどく冷たい追い風が私の背中を力強く押した。






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