夏まつり 夏海サイド
香ちゃんを先頭にしてウチの新しいクラスメイトたちはお化け屋敷の入場料300円を次々に支払って入場して行った。
「やっぱり怖いからウチたちは外で待っていても良いよね~」
明日夢が香ちゃんに何かを伝えている所を見ていたウチは何となく明日夢がやろうとしていることが分かっていたのでそう言った。
「えっ、うん。どこかゆっくりできるところに移動しよう」
そう言うと明日夢はウチに右手を差し伸べて来た。
「この手は何~?」
「は、はぐれたら困るから」
顔を紅くするくらいなら言わない方が良いのに恥ずかしいセリフを言ってしまった明日夢の手をウチはそっと握った。
「どこに行くかわかるよね?」
「わかるよ~ でも、あの日のあの時間には少し早くな~い?」
「仕方ないでしょ。あんなに大勢で来るとは思わなかったから」
「昨日は変わったって言ったけど、明日夢はやっぱり変わったね~ 未だに詰めが甘いよ~」
ウチはそんなところが……。
「僕は昨日」
「ほら、着いたよ~ 希望丘に。あのタワーはいつ見てもドでかい風車が付いているな~」
言葉は何でもよかった。どうしても歩いている途中で明日夢の言葉を受け止めたくはないと思った。
「夏海、今度はちゃんと聞いて」
「聞くよ。だから夢くんも逃げないでね」
いつも1人で昔の写真を眺めながら呼んでいるのに、夢くんと明日夢を呼ぶのは随分と久しぶりな気がした。
「僕は昨日、夏海は変わっていないって言ったけど。変わったよ。前よりも綺麗になった。こんなきれいな人が僕の彼女で良いのかって思うくらいに」
「ありがとう」
「夏海、好きだよ」
ドでかい風車の付いたタワーの方から心地良い風が吹いた。夢くんの好きなポニーテールが大きく揺れるほどの強い風だったけれど、気持ちが良かった。
「でも、僕たちは前と一緒じゃない。だから」
風が突然冷たくなった気がした。
「もう一度やり直そう。お互いを好きになった所から」
「はい」
それでも風はやっぱり心地よかった。
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