転入生N④

「香ちゃんは優しいからいくらでも待っていてくれるよね~。たった1年も待てなかった誰かさんとは違って」


 中学1年から中学2年にかけて僕は縫針と恋人関係にあった。


「何も言わずにいなくなったのに海外留学が1年だけなんてわかる訳が無いじゃないですか。その上突然帰って来ますし」


「突然? 一応電話はしたんだけどな~」


「縫針からそんな電話が着た覚えは……」


 そう言った所で僕はあの奇妙な電話を思い出した。


「姉ちゃんのスマートフォンにいたずら電話をかけて来たのは縫針さんでしたか」


「や~っと気付いたの?」


「どうして気が付かなかったんでしょうね。縫針は昔から悪戯好きでしたね」


 そう言えば僕が縫針と付き合ったのも縫針の悪戯を真に受けたからだった気がする。


「それにしても、久しぶりに会ってからウチのことを名前で呼んでくれないね~」


「呼びませんよ。今はただの幼馴染でしかないですから」


「酷いな~ ウチたち幼馴染でしょ?」


「それならもう一人の幼馴染の所に行ってあげて下さいよ」


「そうだね~ そろそろ怒って泣いちゃうかもしれないからウチは香ちゃんの所に行くね」


 縫針が教室に戻ってから僕は1人、夏海と昔みたいに楽しく話せなくなってしまったことを大きな溜息を吐きながら深く後悔をした。


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