賢者の幸福④

「わたしはスレイヤ・サーヤ。僧侶……だった者です。


『だった』者?」


 どのような発声をしたのか、姉ちゃんとカインは2人の声色を重ねてそう言った。


「生前の私は世界の歴史を知るために辿ったり、コールドスリープから目覚めた騎士と巡ったりして旅をしながら行く先々で病に苦しむ人々を救っていました。わたしの最期の日も」


 サーヤさんの話によると、最後の日にサーヤさんはすぐに消えてしまいそうな多くの魂を救うために、旅の途中で偶然知ってしまった自身の魂を代償に発動するという禁忌の回復魔法を使い自分の命を燃やし尽くしたらしい。


「結局、どうなったんですか?」


「わかりません。わたしは消えてしまったので。


彼女の魔法は多くの命を救ったはずだ」


 何も知らないはずのカインは何故だか誇らしげにそう言った。


「カイン、どうしてそう思うの?」


「明日香が言っていた。『自らを犠牲に多くの命を救いし魂よ、我が身体に宿れ』と」


 天の道を往き、総てを司るポーズでカインが言うと、姉ちゃんの瞳から涙が一粒零れ落ちた。


「良かった。わたしの死は無駄にならなかったんだ」


 姉ちゃんサーヤさんの身体をねえちゃんの腕が優しく抱き包んだ。


 お父さん、お母さん、生きて来た場所は違うかもしれないけれど姉ちゃんを優しく支えてくれそうな友達が一人増えそうです。




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