第二十六羽 その翼は月夜に輝く
随分と早い再会に二人は呆気にとられていた。
その様子を見てニヤニヤと笑みを浮かべたリリア=ルベットが
もう一人の少女の姿に気づく。
呆然としている二人の横で、 真っ直ぐに自分を見つめてくる少女に
リリア自身が歩み寄っていった。
近づいてくる初対面の彼女に警戒しながらもアリスは
軽く自己紹介を済ませる。それに続きリリアも自己紹介をした辺りで
カムラが口を開いた。
どうしてリリアがここにいるんだという質問に
彼女は呼ばれたとだけ答えた。
――呼ばれた、 つまりはここに来るように誰かに言われたのだろうか。
だとしたら一体誰が。
悩んでいるカムラの考えを読んだのか、 アルテラは話の先を受け持った。
「リリア=ルベットを呼んだのは私だよ、 正確には私の分身なんだけど 」
「全く最初来たときは驚いたよ、 ちっさい幼女が急に目の前に現れるんだもの。 でも実際本人に会ってみたら幼女でも何でもないし私より背が高いし・・・
あれは魔法? 」
「まぁ正確には天聖術の一つなんですけどね~。 精霊の力を借りて自分の分身を 形成することが出来るんですよ 」
「なーるほど。 私らの使う魔法とは、 全く逆のものだね。
こっちの使うそれは攻撃に特化しているものが多いからさ 」
二人のやり取りが長くなりそうだったのでミーシャは軽く咳ばらいをして
本来の話に戻した。そもそも何故ここに来れたのか。
カムラたちも偶然発見できるほど森の奥に建っており、 人はおろか魔物の気配すらも時折しか感じられない。 とてもリリア一人で発見できるとは考えにくかった。
そのことを彼女に追求すると、 何とも間の抜けた声でカムラとミーシャの魔力を辿ってきたと。幸いにもリリアは魔力感知に関しても非常に優れており、
一定以上距離が離れていなければ海の底だろうと、その者の魔力を辿れるという。
もちろん発動にも条件があり、 リリアの場合は感知できるものは
一度会ったことのある人。 それも自分が敵だと認識しない者に限るのだそうだ。
「まぁそんなわけでここに来たっていうわけなのよ 」
リリアは小さく欠伸をしながら皆にむかって言った。
カムラは納得したようなしてないような様子だったが、
今ここにいるメンバーを確認するとその凄さを改めて感じていた。
獣人のミーシャに悪魔機関のアリス、 悪魔穏健派のリリアに加え
天使第二階級アルテラ。 全員が全員見事に種族が違う。
アリスに関して言えば元は人間なのでこちら側と言えなくもないが、
それでも重なるものが誰一人としていないのは、 どうなんだとも思っていた。
「何? カムラ、 私の身体なんか見て・・・ まさか・・・ 惚れた!? 」
「断じて違う! 全く、 早めの再開だけど相変わらずだなアンタは 」
「まぁねー。 それよりも君アルテラって言ったっけ? 」
突然リリアがアルテラの方へと話を向ける。
自分が離されるとは思ってなかったのか、 彼女は
ふぇ? という間抜けた声をだしていた。
「アルテラ、 君・・・ 」
「何でしょう? 」
ただならぬ緊張感が辺りを包み、
その様子をカムラやミーシャ、 アリスまでも息を飲んで見守る。
カムラの中では戦闘にでもなるんじゃないかという不安もあった。
やはり堕天使を倒す目的は一緒であっても、 天使と悪魔とでは協力出来そうもないのかと思っていたが。
とにかく一瞬周りが静かになった。
誰もが口を閉じる中、 リリアが口を開く。
「アルテラ、 君・・・ おっぱい大きいね 」
「へ? あ、 どうも 」
・・・・・・沈黙。
ただ暫くの沈黙。
アルテラも斜め上の会話に思考が追いつかなかったのだろう、
もし見えているなら頭にクエスチョンマークが浮かんでいるだろう。
「リリア・・・ 」
「何かな? カムラ 」
「無駄に流れた緊張感を返せ! 」
パコーンと彼女の頭にチョップをし、
直ぐにアルテラへ謝罪した。
彼女は別に気にしてないよとカムラに伝えたが、
恥ずかしかったのだろうか頬が微かに赤みを帯びていた。
「痛い! 何するのさ! 年上にむかってすること!? 」
「煩い! どうしてやられたか自分の胸に手を当ててよーく考えろ 」
「自分の胸に・・・ あ、 まさかアルテラの胸に興味あるとか?
カムラって意外にムッツリ何だね・・・ 痛ったああぁぁあああ! 」
今度はゴンッという音が立ちそうな程の拳骨をリリアの頭に食らわす。
少し涙目になりながら必死に頭を押さえてる。
「コブが出来たらどうするのさっ! 」
「手加減したから問題ない。 それだけ元気なら問題ないでしょ 」
「もうっ! 少し場を和まそうとしただけじゃん! 」
カムラとリリアのやり取りをアワアワしながら見てるアリスに対し、
一度、似たようなやり取りを見ているからかミーシャは呑気に、
お茶を
アルテラに関しては、よほど恥ずかしかったのか両手で顔を覆い隠している始末だ。
「冗談に聞こえないんだよ、 リリアの話は 」
「まぁまぁ二人とも落ち着いて 」
「ミーシャは随分と余裕そうだな 」
「まぁ見慣れちゃったわけだしね 」
カムラとミーシャの話を遮るように、
再びリリアが口を開いた。
「コホンッ、 そういえばまだ話すことがあるんだった」
「また悪質な冗談じゃないだろうな」
「嫌だなぁ、 私だって真面目に話すときくらいあるさ、良い話と悪い話があるん
だけど、 どっちから聞きたい? 」
「悪い話から聞こうかなー 」
声のする方向にカムラは顔を向けると、
先程まで赤面していたアルテラが真面目な顔つきでこちらを見ていた。
彼女の顔つきから察するに、冗談では無いのだろうと
ミーシャ、 アリスも十分に理解していた。
「オッケー。 じゃあまずは悪い話からね、簡単に説明すると四大精霊が守護する
街の内、 二つが既に奴らに落とされた 」
更に話を聞いていくうちにアルテラ以外の三人の表情が
曇り始めた。 彼女の話によると落とされた町は、風精霊の街【フィー】
そしてこれから向かうはずだった水精霊の街【ミュア】だった。
信じられないといった様子のアリスが説明を求める。
精霊の守る街の中でも特に四大精霊、
原初の精霊達が守る街が簡単に落とされるわけがないと、
悪魔機関でさえも落とせなかったのにそんなことが可能なのかと。
その問いにリリアは淡々と答える。
精霊の力を介さない奴らなら可能だと、
そもそも四大精霊の守る街はどれか一つでも欠けてしまえば、
精霊の恩恵が大幅に失われるということ。
更には二つも落とされたことにより残りの二つの街も
落とされるのは時間の問題だろうと、 仮に全て落とされたとしたなら
天使、 悪魔双方が堕天使に勝てる見込みが無くなるという事。
そこまで聞いてカムラが一つ質問を投げかけた。
「待った、 その精霊の街が落とされるのと天使と悪魔が堕天使に勝てなくなるのとどう関係があるんだ? 」
「簡単なことだよ。 天使の天聖術、 悪魔の魔法が使えなくなるってことさ 」
「どうして魔法がでてくるんだよ 」
「どうしても何も私たちの使う魔法は少なからず精霊の恩恵を受けているからね。火の魔法だったり、 水の魔法だったり。 だからもし全て落とされるようなことにでもなれば私たちは魔法無しで対抗しなければならない、 そうなったら勝ち目が無いって言っているのさ 」
「だったらアイツらにも同じこと言えるんじゃないか? 」
「魔術は例外なんだよ、 唯一精霊との
だからその点も含めて禁術なんだけどね 」
カムラとリリアの話し合いを聞いていたミーシャはもちろん
アリスも表情が暗くなる。
そんな中アルテラだけは既に先を見据えていたように
深刻になるわけでもなく話を聞いていた。
「それで良い話っていうのは? 」
アルテラが問いかけると、
心なしかリリアの表情が少し柔らかくなったようだった。
「いい話っていうのは、 二つの街の一つを死守するために悪魔穏健派が動いているという事。それに加え人間の騎士団も動いているだとか。 どこの国の騎士団なのかはわからないけどね。 そして落ちた街の一つ風精霊の街【フィー】を奪還するために協力者が出向いているという事。 詳しくは口止めされているから言えないんだけどね。 そして水精霊の街【ミュア】については・・・ アルテラの方が知っているんじゃないかな。 」
アルテラはリリアの話を繋げながら、先程仲間から通信でミュアには天使の階級持ちが動いているという事、 更にはそこにも騎士団が動いているという事を伝えられた。ここまで聞いて完全に落とされてはいないことにカムラは少しホッとしたが
それも一瞬だった。 アルテラはカムラに一つ要件を言ってきた。
土の街【ログア】へ行って欲しいとのこと。
そこからの話は再びリリアに託された。
話をまとめるとフィー奪還に動いている協力者からの条件らしい。
リリアが頭を下げてお願いしてきたので反射的にカムラはその
お願いを引き受けてしまった。
ミーシャ、 アリスは、 それも仕方のないことだと気を引き締めていたが
肝心のリリアとアルテラは別行動を取ると言ってきたのだ。
しかし彼女らにも事情があるのだろうとカムラは深くは追及しなかった。
の朝までぐっすり
アルテラがそのまま話を終わらせて休むように言って来たので
お言葉に甘え眠りにつくことにした。
次の日の朝、 アルテラ、 リリアそしてアリスが居なくなっていたことに気づき寝起きの二人は唖然としていた。
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