第二十五羽 呼応する翼

 アリスはただただ目の前にいる女性を見つめていた。

カムラ、 ミーシャは気を許してはいるがそれが敵の罠かもしれないということに

彼女は恐れていたのだ。

そんな視線の先では、 先程の女性が夕飯

終わりのお茶を飲んでいるところだった。


「あの、 そろそろ話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか 」


 アリスの問いかけに首を傾げる女性だったが

思い出したようにポンッと手を叩いた。


「あぁ! そうだったわね! すっかり忘れていたわ! 」


 どこか気の抜けたような返事で、 それが天然によるものなのか

計算されたものなのかは分からなかったがアリスは、

この後の話合いが凄く心配になってきていた。


「そういえば自己紹介がまだだったわね、 私の名前はアルテラ。

悪魔と対になる存在、 天使のうちの一人です 」


 急な話の展開に三人の頭にはクエスチョンマークが浮かんだ。

いきなりの種族紹介、しかもそれが神だという事実に

頭の整理が追いついていなかった。


「話続けるね。 私がどうしてあなた方を助けたのかってことだったわね。

んー特に深い意味は無いんだよねそもそも 」

 

 ミーシャが理由も無いのに助けるものなのかと言ったところ

思わぬ答えが彼女の口から帰ってきた。

そもそも天使は自分らに危害が及ばない限りは助け合うことを信条に

生きているのだとか。 なのでそれに従ったまでとのことだった。


「はぁあ。 なーんでこんなことになっちゃったのかなー 」 

「何がこんなことなの? 」


 アルテラの溜め息にミーシャは疑問を持ったので

聞いてみたところ十中八九というべきか、今のこの現状のことについて。

強いては堕天使との戦争についてだった。


「君たち、 結構な死線をくぐり抜けてきているよね~ 」


 彼女のあか抜けた話し方からは緊張感が全く伝わって来ず、

本当にこの人が天使の一人なのか更に疑念を持ったアリスを

置き去り彼女は話し続ける。


「中々君たち面白いメンバーだね~。 獣人の女の子に悪魔機関の女の子、

それに・・・へぇー君があの人の」


 あの人とは? と疑問ばかり思い浮かぶカムラを他所に

アリスは質問をし返す。

何故私たちのことを、 私が悪魔機関だと知っているのか。

知っていて治してくれたのは何故か、 どうしても聞かずにはいられなかった。

悪魔機関、 過激派悪魔の配下にあたる。 つまりは穏健派悪魔と天使側からしたら

敵そのものであり彼女らからしたら殲滅すべき対象なのだから。

アルテラは少し考え込むようにした後で、 ゆっくり口を開く。


「何でも何もアリエスタの家族を見殺しになんて出来ないよ 」

「アリエスタのことを知っているの?! 」


 アリスの質問は続くがアルテラは順を追って話し始めた。


「知ってるも何も、 アリエスタは私の親友だったんだよ。

例えあなたが悪魔に転生していようとも彼女の家族を

殺していい理由にはならない。 それに君は今記憶戻っているんでしょ? 」


 アリスは黙って頷いた。

アリエスタと出会ってから、 アリスの記憶は全て戻っていた。

それも悪魔に転生する時のことも全て。そのことは今は話すつもりも

なかったのだがそれでも一つ、 どうしても気になることがあった。


「どうして私がアリエスタの妹だってわかったの? 」


「んー。 それこそ説明するのは難しいんだけど少し前に神の啓示ってわけでもないけど知らせみたいなのが届いてね、私の脳に直接彼女が語り掛けてきたのよ。

もしこの人たちが困っていたら助けてあげて必ずそこへ行くからって。用意の良いことにあなたがたの外見も全て私の頭の中に刻まれたってわけ。 この技が使える人物は一人だけだったしその発動条件も含めて知っていたからこそなんだけどね 」


 アリスは発動条件については、あえて聞かなかった。

考えればすぐに想像できたからだ。 きっと術者の死亡前、または死んだ後に

発動可能な術だったのだろう。


(全く。 お姉ちゃんはどこまで心配性だったのよ )


「あなたが私を助けた理由はわかった。

だとしてもなぜこんなところに住んでいたわけ? 」


 それについては他の二人も同感だった。 どう考えても女性が一人で住んで行けるほど安全な場所ではない。 それはここへやってきたカムラ、ミーシャが

一番よく分かっていた。 しかしそこでまた一つの疑問が浮かぶ。


「そういえばここに来る前、 この周辺だけ敵が一体もいなかったような 」

「そりゃあそうだよ、 この周辺の敵は私が一掃しちゃったんだもの 」

 

 カムラの疑問に瞬時にアルテラは瞬時に答えて見せた。

おっとりとしたような見た目なのに意外に強いのだろうか。

しかしながら彼女の素振りからはそのような強さは感じることは出来なかった。

そこでミーシャがまた疑問を投げかける。


「どうしてこんなところにいるの? 」

「どうして? そうだなぁ堕天使を殲滅するためかな? 」

「アルテラも堕天使を? 」

「えぇ。 奴らは私の両親を殺しただけでなく数多くの同胞を殺した。

そのためにも私は殲滅部隊に志願したの 」


 そこでカムラは一つ疑問に思う。


「ちょっと待て、 天使の大部分は壊滅したんじゃないのか? 」

「それ誰から聞いたのー? 」

「ここに来る前に穏健派悪魔の一人にな 」

「あー、 なるほど。 でもそれは少し違うかな。 確かに天使の大部分は壊滅した。 けど地上に降り立ち生き延びた者もいる。 その穏健派悪魔みたいにね。

私が地上に降り立ったのは全ての堕天使を滅ぼすため。詳しくは私の口からは   言えないんだけど、 その準備は着々と進んでいるってわけなのよ 」


 もし仮に堕天使を全提出滅ぼすことが出来る算段があるとするならば、

それほど心強いものはないとカムラは密かに胸の内に思っていた。


「まぁ残念ながら悪魔機関? ってのは流石に無理なんだけどね。 対象外だし 」

「待って! 」


 そこまでの話を聞いて不意にアリスが質問をしだした。


「聞きそびれたけど何で私が悪魔機関だってわかったのさ。

それに悪魔機関のことも知っているの!? 」

「さっきも言った通りアリエスタからの知らせがイメージとして脳内に

記録されたんだよ。 あなたが悪魔機関だという事もそれでわかったってわけ。   彼女の意思が、そこの獣人の子に入っていることもね 」

「そこまでわかるのか 」

「カムラ君、 仮にも私は天使だよ?

天使第二階級【寵愛のアルテラ】それが私 」

「ちょっと待て、 確かアリエスタの時は即位って言っていたぞ 」

「それは敵に情報を与えないための偽情報フェイクだよ。 彼女は第四階級 」


 話のややこしさにミーシャは最早情報処理が追いついていなかった。

アリスに至ってもアルテラの語る情報の多さに頭がパンクしそうだったのだ。

即位というのは取ってつけただけで、

本来であれば強さに比例して階級が与えられるとアルテラが話した。


「まぁその話は置いとくとして、 要するに堕天使達を倒すために各々に散らばっている天使の力を一つに集約する必要があるってことなのさ。

それに加え出来れば穏健派悪魔の力も借りたいところだけど 」


 アルテラはまた考え込むようにして、 それからカムラを見つめた。


「一つ頼んでもいいかな。 もしこの先天使、 または穏健派悪魔がいたらこの場所に集合することを伝えてほしいんだ。天使については私の名前を出せばわかってくれると思うけど、 悪魔側に関してはどういう反応を示すか分からない。 けど堕天使を倒すにはここに集まるしかない、

無茶なお願いだってことは分かっているんだけど」

 

「・・・わかった。 今は深く追求しないで、 その頼みを引き受けるよ 」

「ありがとう。 場所についてはここ 」


 彼女は地図を広げ場所を示す。

地図にはこう書かれていた。

 

 【境界の地 ―プリエラ― 】


 彼女はその場所についてそれ以上話そうとはしなかったが

集めてほしい天使、 穏健派悪魔のリストをカムラへと渡す。

それを流し見てたカムラだったが思わず二度見する名前があった。


「これは・・・ ミーシャこれ 」


 直ぐにミーシャを呼んでリストを見せたが

彼女もまた驚くことになる。

何故ならリストに書かれていた名前のうちの一人は既に出会っていたのだから。


「まさかこの人の名前があるなんて 」


カムラはリストを見ながらつぶやく。

ここで何者かがドアをノックする音に気付いたアルテラは扉をあける。


「本当にまさかだよね 」


 ミーシャもまたカムラにつられて呟く。


「「リリア 」」


 二人の声が重なったと同時、 扉が勢いよく開かれた。


「呼んだー?? 」


 カムラ、ミーシャが振り向いた前に立っていたのは

見事にブイサインをかましていたリリア=ルベット本人だった。 



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