それが貴方の望みなら

第二十四羽 新たな翼

 カムラ、 ミーシャ、 アリスの三人は水精霊の街『ミュア』を

目指し南東へと歩いていた。

セルデリアを出発し既に3時間は歩きっぱなし、

先程の熾烈な戦闘を終えたばかりで十分に身体を

休めることが出来ていなかったが誰一人文句を言わずに歩みを進めるが

三人の体力は徐々に奪われていく。

途中、 低級堕天使達との遭遇戦に会いながら進んで行くが

今の疲弊しきった身体では存分に戦うことすら出来ないため、

やむを得ない場合を除き、 ひたすら隠れてその場をやり過ごす。

それを繰り返しながら歩いてきたわけだが先にアリスがダウンした。


「ゴメン、 すぐに回復するから 」

「いや、無理はしないほうがいい。ミーシャ敵は? 」

「大丈夫。 この近くにはいないみたい 」

「よしならこの先の森で少し休憩しよう 」


 カムラの提案で三人は少し離れた森の中で軽く休憩を取ることにした。

ミーシャも限界が来ていたのか、 足を触って状態を確かめてる。

カムラはアリスの元へ駆け寄って声をかけたが、

問題ないの一点張りで顔を合わせようとはしなかった、

随分歩いたし疲弊しきったのだろうとカムラは思ったが

不審に思ったミーシャが彼女の元へ駆け寄ると急いで

休憩に入ろうとするカムラを呼び戻した。


「カムラ彼女凄い熱があるんだけど 」

「ハァハァハァ。 すみません、 すぐに回復しますので 」


 カムラもアリスの額に手を添え確認したが、

はたから見ても分かるように、 かなりの高熱を出していた。

彼女は二人に心配させまいと極力喋らないようにして体力を温存させ、

遭遇戦でも平気なふりをしながら動いていたのだ。


「すみません、 もう少ししたら動けるようになりますので 」

「駄目だ、 アリスをこのまま動かすわけにはいかない 」

「ケホッ、 ケホッ。 だったら置いていってください。

このまま私だけ足手まといは嫌です 」

「ミーシャ、 この近くに集落か何かあるかわかる? 」

「任せて! 【風の捜索網アルスキナ】」


 ミーシャは先程の戦い、フロックスとのあの場面において

いくつか魔法を成長させていた。

それに加え自身の死、 更にはアリエスタの魔法によって

復活したことがきっかけで風属性魔法の中でもその高位にあたる魔法をいくつか使用できるようになった。

彼女の使う魔法の一つ、 探索サーチは周囲の魔力を感じることで

周りの敵を把握するものに対し、 風の捜索網はその反対にあたる技。

周囲の風の魔力を感じながら先の地形等を大まかに教えてくれる。

魔力を繊細に扱えるようになればなるほど、

形の細かなところまで感じることが出来るようになる。


「カムラ、 この先に小屋が一つある。 森の茂みの奥かな 」

「よし、 そこまで移動しよう。 悪いけど少し我慢してくれよ 」


 そう言ってカムラはアリスをお姫様抱っこする感じで

持ち抱えた。


「何で、 見捨てないのさ 」


 アリスの問いかけにカムラは返答することはなかった。

気を失った彼女を抱えながら小屋へと向かうが、

その最中いつ狙われてもおかしくは無かったので、

ミーシャに頑張ってもらいながら逐一で敵の接近情報を共有した。


――――――――――――――――――――


「んんっ。 ここは・・・ 」


 目が覚めると知らない天井があった。

彼女が目を覚ましたことに気付いたのか、

ミーシャが駆け寄っていく。

 

「あ、 目覚ました? 気分はどう? 」

「さっきよりは全然楽に・・・ ってここどこ? 」

「ここ? さぁ? 」

「さぁ?って、 この小屋は一体 」

「緊急事態だったから使わせてもらってるのよ 」

 

 彼女が説明をしていると台所の方から

いい香りがしてくる。 一早く気づいたミーシャが

話を切り上げて台所の方へ戻っていき、 代わりに今度はカムラが

アリスの元へとやってきた。


「さっきよりは良くなったのかな 」

「おかげさまでね。 それにしてもここは?

まさか敵の罠ってことは無いでしょうね 」

「落ち着けって。 多分それは無い、 ミーシャが確認したから大丈夫だ。

それにアリスを看病してくれた人の小屋らしいからな 」

「私を?? 」


 不思議がっていると奥から両手で鍋を持った女性がやってきた。

彼女は目が覚めたアリスを見て良かったと安堵している様子で

ご飯をすすめてきた。


「目が覚めたんですね! 良かったぁ 」

「貴方が私を?? 」

「はい! 目が覚めて何よりです! ご飯食べましょう! 」

「いやでも、 先を急がなくては・・・ 」


 そう言いかけたアリスをカムラは待ったをかけるように

外を見るように彼女に言った。


 窓の外は、 陽も落ちて辺り一面真っ暗で森の木々との遮断性も

相まってとてもじゃないが目が慣れていないと歩いて行ける明るさでは無かった。

確かにこんな中堕天使に出くわしでもしてみたら劣勢を強いられるだろう、

アリスは外へ出ることを止め、その代わりに彼女に問いただした。


「あなたは一体何者なんですか。 私の身体を治療してくれたことは感謝します。しかし見ず知らずのあなたが私たちに良くしてくれるメリットが無い。 初見であれば敵だと判断されてもおかしくないはず、 なのに何故助けてくれたんですか。」


 すると彼女は鍋を一旦テーブルに置き、

暫く考え込むように顎に手を当てていたが、

面倒くさくなったのか思考を中断して、 皆に質問した。


「うーん・・・ とりあえずお腹減ったから、 ご飯食べていい?? 」


 アリスはキョトンとした顔でただただ彼女を見つめるのであった。



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