第二十二羽 生かす羽=死せる羽。

 アリス、 アリエスタはミーシャを連れて

メルセクルの後を追った。

彼女は城塞から少し離れた場所で二人が来るのを待つ。


「もぉー! 遅いよぉ! 」

「仕方ないでしょ。 こっちは死人? を背負ってるのよ! 」


 非力なアリエスタに変わり、 腕の治ったアリスが代わりに

ミーシャを背負って走っていた。

辺りを見るとアリスは先程までのことを思い出す。

そこは、 先ほどまでフラウレスと戦闘をしていた場所だったのだ。

フラウレスの亡骸が無残に転がっている。


「あれー? この悪魔って確かぁー。 ・・・ ねぇこれ君たちがやったの?? 」

「そうだけど。 私とミーシャ、 それともう一人で 」

「へぇ! よく倒したね! フラウレスって凶暴で有名だったのに! 」


 アリスとアリエスタは一つ感じたことがあった。

メルセクル、 彼女から緊張感というものが一切伝わってこない。

悪魔機関の中でもここまで自由そうなやつを見るのは初めてだった。


「っと、 そろそろかなぁ? 」


 そんなことを思っていると不意にメルセクルは声を発した。

その言葉通り城塞の方から、

一人ボロボロになりながら向かってくる人影があった。

彼女らが見間違うことがないその人物は、 カムラ本人だった。

カムラは彼女らを見つけると傷ついた身体で急いで向かう、

と同時に城塞が瞬く間に炎の渦に呑み込まれた。


「心配したんだから! 」

「カムラさん、 本当にあのフロックスを倒したのですね。 」

「あ、 あぁ。 何とか倒したが悪いな、城塞燃えてしまった。

アリスルームを燃やされた 」

「いいんです。 元々あそこは私の隠れ蓑に過ぎなかったので。あなたが無事なら私はそれで 」

「ねぇーねぇー。 私だけ除け者って酷くない? 一応この子の腕を治したりもしてあげたんだけどぉー 」


 その言葉を聞いてカムラは初めて彼女の存在に気付いた。


「えっと、 あんたは? 」

「よっくぞ聞いてくれました!私こそ悪魔機関、 六守護が一人メルセクルちゃんでーす! メルって呼んでね? 」

「悪魔機関――!? 」


 カムラはすぐに臨戦態勢をとったが、 アリスとアリエスタに制止させられた。


「待って、 カムラ。 この人は大丈夫だよ多分。 私の腕を治してくれたんだし。 」

「そうそう。 無駄な争いはしたくないよねー! 」


 無駄に明るい彼女に呆然とするカムラに天使であるアリスは同情した。

カムラたちはここにいたら危険だと感じ一度街へと戻ることにした。


「うっぷ。 これは・・・ 」


 カムラは吐き気を堪えて街で起こったであろう惨状を目の当たりにした。

幾多の人の亡骸がその辺の転がり、

騎士団と思われるであろう人たちの死骸で辺り一面広がっていた。


「一体、 何が。 ここまで酷かったのか 」

「あ、 これ私が戦った後だ 」

「!? お前やっぱり! 」

「あー、 ちょっと待って!! 待ってってば! 確かに戦った後だってのは認めるけど私はここの奴らに関しては何も危害加えていないってば!

むしろ来た時にはあらかたこの状態だったんだってば! 」

「どうゆうことだ? 」

「それはこの件が終わってからにしたほうがいいんじゃないかなぁ?? 」


 そう言うと彼女はミーシャの方を指さした。


「ミーシャ! どうすればミーシャは治る!? 」

「落ち着きなって。 それに死んでしまってんじゃあ私では無理」


 カムラ自身も傷だらけになっているのに、 ミーシャのことを心配し

それを突き放すような言い方をするメルセクル。


「くそっ! 何か手は! 」

 

 その様子を見ていたアリスは何か覚悟を決めたかのように、

真面目な顔つきでカムラに近寄る。


「一つ、 一つだけ彼女を救う方法があります 」

「本当かアリエスタ! 」

「はい。 あなたは私をここまで連れ出してくれてアリスにも会わせてくれた。

私には、その恩を返す義務が私にはあります 」

「ちょっと待ってよ・・・ まさかを唱えるつもりなの!? 」

「そうだね。 ごめんねアリス 」

「ちょっと待て! アレって何なんだよ!! 」


 カムラの意見を遮るようにアリエスタは呪文を唱え始めた。


「駄目! やめてよ! アリエスタ!! 」

「おい、 一体何が 」

「お願いだよカムラ! 今すぐお姉ちゃんの呪文をやめさせて!

でないとアリエスタが! 」


 何が何だか分からずにアリエスタの方を見やる。

彼女は困ったように笑いそして小さく首を横に振った。


「アリス、 今まで苦労かけてごめんなさい。

私、 あなたに会えて本当に良かった。 あなたに会えただけでも嬉しかったのに、

こうして城を出られる日が来るなんて夢にも思ってなかったから 」


 アリエスタの身体が徐々に光りだす。 周囲を優しく包む光。

周りに散らばっていた死体をも浄化しているみたいだった。

そんなアリエスタの行動を見てられなかったのか、

アリスが止めに入ったがそれをカムラが止めに入った。


「いや! 放してよカムラ! 」

「駄目だ! これ以上近づくのは危ないって!! 」


 何とかアリスを制止しているカムラの頭の中に声が響く。


 『ありがとう。 カムラ=ネーブル。 あなたの大切な仲間は私が命に代えても

守ります。 どうか妹を、 アリスのことを頼みますね。』


 ――待て。 今の言葉、 まんま別れの言葉みたいじゃないか。

アリスがやめさせようとしている理由って。


「ここでお別れです。 アリス、 今までありがとう 」

「嫌だよ、 こんなところでお別れなんて私嫌だよぉ!! 」


 アリスは顔をくしゃくしゃにしながら泣いていた。

アリエスタも我慢していたのだろう、 瞳からは涙が次々に

流れていた。


「天照す光りよ。幾創生の星よ。我が魂を持って最上の祝福を。

 慈愛なる神アリエスタの名のもとに承認する。【慈愛なる生命の息吹クルートゥ・ソウ・アルビス】」


 詠唱し終えると彼女の身体は光り輝き徐々に、

消え始めて行った。


「嫌ぁ!! 行かないでよ!! まだ一緒に話していたかった! ここじゃない場所へも二人で行ってみたかった! まだやってないことだって沢山あるのにもっと、 もっと一緒に・・・ お姉ちゃんと居たかったよぉ!! 」


「やっと私のこと、お姉ちゃんって言ってくれたね・・・ あなたと会えて私嬉しかった。 でも何でかなぁ。 私も本当はアリスとお別れ何てしたくない。 もっと・・・ もっとあなたと一緒にこの世界を見て見たかった!! 」

 

「行かないでよ! 私を一人にしないでよ!! 」

「大丈夫。 あなたは一人じゃない 」


 彼女は消える間際最後の力を振り絞った。


「そろそろお別れ。 ありがとう私の親愛なるアリス。 」

「嫌ぁああああ! 」


 優しい光と共に天使第六即位アリエスタは消えていった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る