第二十一羽 優しく包む羽

 カムラとミーシャが戦ってる頃、

アリエスタは地面に伏していた。

切断された左腕の痛みに耐えながらなんとか、

意識は飛ばないように堪えていた。


 ギィィイイイイ


 アリエスタの伏せてるところへ一人歩いてくる姿が見える。


 (新手?! 駄目だ。 魔力がからの上にこの身体じゃどのみち殺される。 )


 一人の少女がトコトコとアリエスタの元へと駆け寄っていく。


「もしもーし生きてますか~? うわっ!

腕片方無くなってるじゃん! やばばば! 」

「ゲホッゲホッ。 生きてはいるがもうすぐ死ぬところ・・・ なんだけど 」

「えー! それってかなりやばばじゃん!! 」


 突如来たその少女はアリエスタを見るなり興味ありげに話しかけてきた。

アリエスタは言葉を返す気力も無く、 ほとんどうなだれながら話していた。


「ちょっとちょっと、 死なないでよね! っと腕は・・・あそこか! 」


 少女はアリエスタの腕を見つけるとすぐさま、 それがあるほうへと駆けて行く。

変な歌を口ずさみながらもその足取りは軽い。


「真っ赤な腕は~戦死の証~。 っと、 んっ? なにこれ・・・ うわ! 気持ち悪!

悪魔じゃん悪魔!! 真っ黒なんだけど!! 」


(さっきから騒がしいやつだな。 傷にもろに響く・・・ )


「腕持ってきたよ~っと。 ちょいと動かないでね~ 」


 すると彼女はアリエスタの切断された腕と腕をくっつけ始めた。

腕にあたる感触は先ほどまで地面に転がっていたのでひんやり感じるが

正直吐き気を覚えるほど気持ち悪い。


「ほいじゃいきまーす! ―― あかき体動にながるるは、そのせいを持ってを受け入れたまえ。あおき脈動に流るるは、そのせきをもって業を受け入れたまえ【― 部分魂の返却コウトラビクション】」


 彼女が魔法を唱えると、

みるみるうちにアリエスタの腕がくっついてしまった。

これには流石のアリエスタも驚きを隠せずに目を丸くして

切断されたであろう腕を見つめている。


「どぉ? どぉ? 私の魔法凄いでしょ!! 自分で言うのもあれだけど天才だよねー私って!! 」

「いや 凄い。 てか一体何者? いきなり来たと思ったら腕を治すし。 ここまで高位な回復魔法見たことが無い 」

「私のこと? 気になる? 気になっちゃうよねぇ。 悪魔機関、 六守護ろくしゅごが一人メルセクル。 気軽にメルちゃんって呼んでね? 」


 まさかここに悪魔機関が来ることは予想外だった。

いや予想はしてた。 してたが来るべきはずの人物が来なかったという点においては

予想外としか言いようが無かった。

それに六守護といえば、 堕天使を守護することを優先した組織のはず。

そのメンバーである彼女が何故ここに。

 

「なーんか、 私に質問したそうな顔してるね! 大丈夫だよ。 あなたたちを殺そうなんて考えてないしー! それよりそろそろ奥から一人、 二人かな? 来るね 」


 は彼女の指さすほうを見る。

間違えようのない、 あれはアリエスタと、ミーシャ?

なんかぐったりしてるような。

息も絶え絶えにアリエスタがに詰め寄る。


「アリス! どうしよう! ミーシャが! ミーシャが!! 」


 ミーシャの方を見ると彼女は胸を貫かれており、 息もしていなかった。

アリスでも分かる。 事実上の死。


「とりあえず落ち着いてアリエスタ。 何があったの 」


 アリエスタは起こった出来事をなるべく細かく話し始めた。

それを横で聞いていたメルセクルは全く別のことを考えていて。


 (・・・この二人姉妹なの!?)


「そんなことが。 じゃあ早く助けに行かなきゃ! いくらカムラでもフロックスが相手じゃ勝ち目なんかないって!! 」


 そんなやりとりを聞いていた女の子は再び口を開いた。


「はーい、 ストップストップ。 フロックスなんて雑魚のことは興味ないけど今はここからでることを優先しようよー。 でなきゃ皆共倒れしちゃうって 」

「でも—― 」


 アリスの話を遮りメルセクルはミーシャの元へと歩み寄る。


「この子を安全な場所に連れていくことを考えなよ! 」


 二人は彼女の圧に負けたのか、 大人しく彼女の指示に従うことにした。


「待って。 そういえばもう一体悪魔機関来てたと思うんだけど 」


 アリエスタは彼女にむかって疑問を投げかけた。

しかし彼女はあっさりと告げる。


「あぁ。 あいつならおもしろくないから~ 殺しちゃった! 」


 二人は背筋が凍り付くような寒気がした。

簡単にいうけれど、 悪魔機関同士が戦った場合少なくとも外傷らしい外傷が

見受けられるもの。 それほどに悪魔機関同士の戦闘は危険極まりないのだが、

彼女にはそれらしいものが一切見当たらない。

確かに気づいた時には大きな魔力が一つ消えていたことをアリスはふと思った。


 それ故に二人は感じたのだ。


 (この人は危険すぎる。

今ここで倒しておかないといけない気がする。)


アリエスタは構えたが、アリスがそれを制止した。


「なになに? 私と戦うの~? 」

「やめとくわ。 今の私らじゃ勝てっこないし、 それに一回助けてもらってるし 」

「へぇ。 六式も馬鹿ばかりじゃないいんだね! キャハ! 」

「・・・私が六式であること言ったか? 」

「言わなくてもわかるよ~。 六式のクロケルちゃんだよね? 」

「私の正体までもわかってるとは 」

「人間の姿をしてることには驚いたっていうか私も人の姿なんだけど、

私の回復魔法は相手の情報も読み取ることが出来るんだよねぇ。

まぁ簡単なプロフィール?みたいなものだけど 」

「なるほど。 それで私のことがわかったわけか 」

「そーだよー? てか早くここから出ないとちょーっと

まずいことが起きるかもしれないよ~? 」

「まずいとは? 」


 すかさずアリスは聞き返した。


「んー。 下の方からかなりの熱が感知できるんだけど、これは多分ヤバいかな?

早くここから出なきゃ、 崩れるかもよ~? 」


 アリスとアリエスタは互いの顔を見合わせ、

先に城塞の外へと小走りしていった彼女を追いかけた。

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