第十九羽 その羽は罪を負う。
カムラは天使第六即位と言っている、もう一人の
アリエスタのもとにいた、彼女は一体何者なのか。
何故このような場所にいるのか、
カムラの疑問は尽きることを知らない。
「とりあえずアリエスタに言われてきたんだけど、 君もアリエスタ? 」
「彼女に言われてきたんですね。 そうですか・・・ あなたは彼女から私のことについてどこまで聞きました? 」
「聞いたも何もまだ何も言われてないけど 」
「そうですか 。分かりました。 では少し実際にあった話をしましょう 」
慈愛のアリエスタは淡々と、 でもどこか寂し気に語り始めた。
「昔、 ある女の子が住んでいました。 その女の子は裕福というわけではなかったけど、両親の愛に包まれて健やかに育ちました。 しかしその平穏な日々は突如として終わります。 天使と悪魔と堕天使の戦争。 この戦争は人間にも多大な被害を及ぼしました。 ある人は殺され、 ある人は奴隷となります。 しかしその少女は天使族によって救われます。 救われた彼女は程なくして天使の力を手にします。 結果的に戦争は堕天使の優勢で今も続いていますが、 救われた彼女は一国をまとめる首領となりました 」
――ここまでは理解できた、しかし腑に落ちない。
一国を治めた彼女が何故こんなところにいるのかが。
カムラの考えを遮るように彼女は話を紡ぐ。
「天使が去った後、 国を治めた彼女は程なくして、 その国を堕天使に占拠されます。 その国に侵攻してきた軍を率いていたのは当時悪魔機関八式―クロケル。 今の表のアリエスタです。 そしてその補佐ヴェル=アルバーン。彼女らは物凄い速さで国を侵略していきました。 そんな彼女にも一つの誤算があった。 この国に危険が及ぶと民衆自らが命を絶って国を潰すという私の魔法。 その魔法のおかげで不用意なことはしなくなりましたが、 私はここに幽閉されました 」
――確かに民衆が集団自決でもしようものなら、
堕天使にも悪魔機関にも少なからず影響は出るはずだ。
しかし何より驚いたのが、敵によって街の人に仕掛けられていた魔法が、
この子の手によって仕掛けられていたという点だ。
民衆も納得の上であるなら、きっと相当の絆が生まれてたんだろう。
「そして幽閉された女の子には腹違いの妹がいたのです。 その女の子はすぐに分かりました。 しかし相手の女の子はすでに悪魔機関に属した後で何もすることは出来ません。 そこで女の子は悪魔機関である彼女に魔力共鳴を試みたのです 」
魔力共鳴、 自身と他者がどの程度の実力、或いは共通の魔力をもつ者同士でやる場合、 強制的に魔力の感覚が繋がってしまうというもの。
「クロケルは魔力共鳴により人間の姿へと戻りました。 それと同時に人間だった時の記憶を思い出したのです・・・ 」
――そうか、 悪魔機関の正体。
カムラは答えをだした。
「察しの通り悪魔機関とは本来、 例外を除き皆人間なのです。 その人間たちを悪魔機関にするために人間だった時の記憶を消し完全に堕天使の配下となるように別の記憶を植え付けられる 」
カムラは言葉が出なかった。
—―悪魔機関が人間だというなら、ここに来る前にマーブルが倒したヴァッサーゴも元人間ということになる。
俺らがここに来るまでに殺してきた者は元人間だったというわけか。
「アリエスタ・・・ いえ、 アリスは全て思い出し私に強力を申し出てくれました。
私をここで幽閉。 その代わりに私が新しい女王となって民衆をまとめる、
そのような嘘の話をヴェルにして、 ヴェルを表で操ると。
あわよくば民衆もまとめると言っていました 」
――そうか。 今やっと理解した。
アリエスタ女王の幽閉の理由
アリスがあそこまで強い理由、揺るがない信念。
この人を守りたいという強い気持ちがあったからか。
「しかしここで新たな問題が発生してしまいました。 堕天使がこの国を滅ぼそうと計画していたのです。 元々自分達に従わない国や人を平気で壊すような人たちだったので、 いつまでたっても報告に戻らないクロケル、 ヴェルに嫌気がさし悪魔機関の中でも指折りの刺客を送ってきたのです。 それがフラウレス、フロックス、フォーラス。 フラウレスは街の監視、 フロックスは私の居場所がばれてしまい、 ここで私の監視。 そしてフォーラスについては逆らった場合、 全民衆の皆殺しの役目を担ってました。 ヴェルは元々あっち側の機関ですからその三人を引き入れたというわけです」
「なるほど。 丁度行き詰っていた所に俺らが来たわけか。 あれだけの警備は堕天使にではなく俺らに対する牽制。 街の人たちの態度は、 俺らが余所者だったからではなく、 そうせざるを得なかったってことか 」
コクンと小さくアリエスタは頷いた。
「だったら早くここから出るぞ。 フラウレスについては倒したが、
フロックスとフォーラスについてはわからん。
いや、 ここに来る前に一人いたから、 そいつがフロックスか 」
「ここに来る前!? 戦ったんですか!? 」
「いや、 戦ってはいない。 仲間が俺を先に行かせてくれたから 」
「なっ!? だったら早く戻ったほうがいい!!
あの人の実力は別格です! あの二人とは足元にも及ばないほどに! 」
「待てって。 大丈夫だミーシャなら 」
「アイツの強さを何も分かってない! アイツは化け物過ぎる。
幹部クラスの強さ何ですよ! 」
ミーシャのことを信じてないわけでは無かったが、
嫌な予感がした。
その予感と同時、 足音がカムラの来た道から静かに聞こえる。
不敵な笑みを見せながら。 静かにゆっくりと。
これはミーシャのものではないと、 分かった瞬間すぐに戦闘態勢をとる。
その横、 アリエスタもまたカムラに続く。
「おやおや、 私の話が聞こえたような気がしましたが? 」
ゆっくりと、 静かに、 凍てつくような殺気を放ちながら
フロックスは、 そこへ現れた。
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