第十八羽 その羽は羽ばたきを失う。

 ミーシャは全ての神経を自身の魔力へと捧いだ。

身体の隅々から魔力の振動が伝わってるのを感じる。

これだけの強敵と対峙しているのにミーシャは

冷静に自身の魔力を高めていた。

彼女もまた強者への階段を登ろうとしていた。


「いくぞ! 風の大蛇トラストリカ! 」


 辺りの風がウネりを見せフロックスへと襲い掛かる。

先程の炎蛇アルバーンとは対照的に、



 しかしフロックスは動かなかった。

炎蛇の連射によって、 その技を防いだ。

本来、 風の大蛇は炎蛇同様うねりを見せながら相手を喰らうが

まだ使える域まで到達してないミーシャには、 これが精一杯だった。


「流石に二回も同じ手が喰らうと思いますか? 」

「だろうな。だからこんなちまちました攻撃は終わりだ。

身体強化魔法ブースト】! 」


 ミーシャは魔力のほとんどを身体系列しんたいけいれつに回し、

フロックスに詰め寄る、 そして相手の腹に一撃。

回し蹴りを食らわしたのだただの回し蹴りを魔法によって強化することで、

何十倍もの強力な武器にすることが出来る。

しかしこの技は本来、 ミーシャには扱えない。

同じ城で戦ってるはずのアリエスタの技を疑似複製コピーした。


「私が一撃を貰うとは。 中々にやるじゃないか 」

「そりゃどうも。 そう思うならとっとと倒れてくんないかな 」

「そういうわけにもいかないのさ。 残念ながらね 」


 本来この魔法は使うだけでも相当量の体力を持っていかれる。

そのうえまだ体の出来上がっていない少女が使うには

身体にかかる負荷が人一倍大きい。

そのためにミーシャは短期決戦を強行した。


「――グッ。 この—―!! 」


 しかしいくら身体を強化してるとしても

相手の強さには届かない。

フロックスは余裕の笑みすら浮かべてる。


「強化してると言ってもこの程度ですか。 正直残念ですよ 」


 残念そうに溜め息をつくフロックスにミーシャは

無駄だと思われる体術を仕掛け続ける。

近接戦闘なだけに、一回でも身体を掴まれれば終わり。

それでもミーシャは攻撃の手を緩めない。


「もう飽きました。 これで終わらしてあげましょう。 【無剣撃フルーク】 」


 杖だと思われてたそれをミーシャに突き出す。

鞘が外れ刀身がむき出しになる。

ミーシャはその攻撃を避け一度距離を取った、

はずだったがミーシャの頬から血が流れる。


「一体どういう手品だこれ 」

「手品なんかではありませんよ、 正真正銘私の攻撃。

あなたには見えないでしょうが 」

「見えない斬撃とかありかよ・・・ 」

「まぁでも誇っていい。 私にこの剣を抜かせたのは、 あなたで三人目だ。

一人が忌まわしき獣人ヴァーロン。 もう一人は女だったなぁ。

短剣を五本持ってる奴だった。 そしてあなただ 」

 

「長々と説明ご苦労様!! 」


 ミーシャは連続で風の大蛇を放った。

しかし相手の斬撃によってそれは霧散する。


「さて、そろそろ私は逃げた人でも追うとしますかな 」

「行かせないって言ってるじゃんかよ。これだけは使いたくなかったけど・・・」


 ミーシャは更に魔力を集中する。

一歩間違えば魔力が暴走をきたし、

自身の命すら危ないという橋をミーシャは渡った。


呪文詠唱全省略オートコマンド! 」

「馬鹿な! それは一部の悪魔機関しか使えない技。 何故あなたがそれを! 」

「教えてやる。 私が使った魔法は、【 魔力による精神共鳴マジックレイト】。 これは一定範囲内における術者の魔法を扱う魔法だ 」

「なるほど。 それはそれは強力だ。 しかし何故私の魔法を使わないんでしょうか。 魔力が無いにしても相打ちくらいは狙えると思うんですけどねぇ 」


 ミーシャはその問いには答えなかった。

確かに一定範囲内における術者の魔法を扱うことが出来る。

しかしそれほどの魔法であれば制約もつくことになる。

使

とされるもので使える使えないは、 頭の中に感覚として表れる。

このことを相手に知られるわけにはいかなかった。


「ふむ。 その魔法確かに強力だが制約があるとするならば脅威ではありませんね。無剣撃フルーク


魔風壁ウォール! 」


 ミーシャが得意とする防御壁。

斬撃が見えないなら当たらないようにすればいい。

ミーシャは前方に防御壁を展開、

しかしその攻撃は無残にも彼女の肩を襲いっかった。


「痛っ—― 」


 (何で斬撃が後ろから・・・)


「だから経験が違うと言いましたよ。 あなたと私では雲泥の差です。 」

「なら—― 」

「諦めが悪いようですね―― これは!? 」

 

 ミーシャは全方位に防御壁を展開した。

呪文詠唱全省略オートコマンドによる魔法重複化により

身体能力強化魔法ブースト周囲知覚クループ

魔法の重ね掛けによって発動できる魔法。

誰もまだ使ったことの無い新しい魔法。


「【全方位魔風壁オートプロテッション】!

これであんたの攻撃は受けない 」

「いいですねぇ! 魔法の重ね掛けによる完全無欠の防御壁!

これは楽しませてくれそうだ 」


 フロックスは無斬撃を何発も飛ばすが

ミーシャの御壁が、 それをことごとく粉砕していく。


「次で終わらせる! 」

「気のせいでしょうか。先ほども同じようなことを聞いた気がするのは。

まぁでも終わらせられるといいですね 」

 

「風の—― 」


 魔法を使う瞬間、 強烈な立ち眩みをミーシャが襲った。

思わずミーシャは地に膝をついたが、

その瞬間を見逃さず無斬撃を連発で彼女に食らわす。


「ガハァ―― 」

「どうやら限界の様ですね。 あれだけの魔力を使い身体を酷使すれば

当然と言えば当然でしょうが 」

「・・・ まだだ。 私は勝たなければいけない。私はお前に――」

「その心意気は認めてあげましょう。 来世で出直し的なさい。」

「ハァハァ。 精神喰らいソウルイータ―! 」

「なっ! 同胞喰いまで使えるのか 」

「これで終わりだぁぁあああ!! 」


 技は見事に当たった。

ミーシャは殺意を誰かを守るためのそれに変換させて、

この技を使う条件をクリアしていた。

しかしそれでもフロックスは倒れなかった。


「いやはや。 今のは危なかったですね。 私の氷守壁シェルがなければ瀕死ひんしになっていたかもしれませんね 」

「・・・そ ・・・ んな・・・ 」

「言ったでしょう。 私は炎氷杖クラドのフロックス。 まさか扱うのが炎だけとでも思いましたか? 」

「くっ、 こんなところで・・・ 」



 (ごめんカムラ、 アリエスタ。

私また足引っ張っちゃったよ。

もう少しだったんだけどな。カムラにまた心配されちゃうかな )


「さようなら、 強き獣人 」


 フロックスは倒れたミーシャの心臓部をつるぎで貫いた。


 彼女の胸元からは赤い液体が流れ落ち、

 

 彼女の呼吸は最早聞こえない。

  

 ミーシャの時は止まってしまった—―




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