第十七羽 その羽は語る
アリエスタがヴェル=アルバーンと死闘を繰り広げているころ、
二人は地下迷宮を駆けていた。
アリエスタに言われた『
けれど進めば進むほど道が複雑になっていくのが分かる。
ミーシャが居なければ今頃迷っていたことだろう。
「こっちから微かに魔力の反応がある 」
半堕天でありながら獣人でもあるミーシャが得意とするうちの一つ【
五感を使い相手の魔力を感じることで相手の人数、 相手がどこにいるのか
またどこから来るのかまたが分かる。
類似技として【
これは彼女が普段から発している技で、相手の表情や動きなど
正確な情報が得られる。 これを普段から微量に発動していることで
彼女は自分に悪意を向けてきているのかがわかる。
「カムラ! ストップ!」
急なミーシャの声に俺は急停止した。
この先に魔力反応があるらしいと彼女は言うが
ミーシャの顔は険しいままだ。
この先、 部屋と呼ばれる場所に行くには中央の大広間を抜けなければならない。
ミーシャは俺にここから中央を見るよう目で促した。
カムラは静かにその場から中央を見たが特に変わった様子は無いように思えた。
しかしミーシャには分かっていた。 あそこには敵がいることを
二度も同じ手は食らわないと、 何もない中心部へ技を放つ。
その合図でミーシャはカムラを奥の部屋へと行かせた。
「あらら、 一人逃げましたか。 まぁいいでしょう。
よく私の
「そりゃあどうも。 入り口の死体もそうやって擬態してたんだ 」
「ほーう。 どうやらただの馬鹿じゃないようだ。
全くこんなつまらん場所を見張ってろとヴェルのやつに言われた時は殺してやろう と思いましたが、 これはこれで楽しめそうだ 」
「あんたも悪魔機関ってやつ? 」
「我々のことを知っているのですか。 いかにも私は悪魔機関が一人、
「・・・ 単なる変態じゃねぇか。 まぁいい、 あんたを倒せば少しは楽になる 」
「君では私は倒せんよ。 経験値が違い過ぎる 」
――――――――――――――
ミーシャとフロックスが戦闘を始めたころ、 カムラはその更に奥
白く殺風景な扉のまえにいた。
――ここが偽姫の部屋
カムラはその扉を静かに開いた。
周りには人形がたくさん並んでいて明らかに空気が違う部屋だった。
そしてカムラは目の当たりにする。
正面で怯えるその少女を。 とても幼かった。 年にして7歳くらいだろうか。
「え・・・ あ・・・ だ れ・・ですか・・ 」
「俺はカムラ=ネーブル。 アリエスタに言われて君の所に来た。 君は? 」
「ワタシの名前はアリエスタ。 天使第6即位慈愛のアリエスタ 」
――それってどういう
カムラは全く状況を呑み込むことが出来ずにいた。
―――――――――――――――
「うわっ! 危ない! 」
ミーシャとフロックスの戦いは一方的だった。
とにかくミーシャは逃げの一手で攻撃する
「逃げてるだけじゃ勝てませんよ。 【
杖の先から炎が
激しく波を打ち、 その姿はまるで蛇の様だった。
「風の—―!? 」
技の発動も満足に出来ないまま四方八方逃げ回る。
「どうですか私の技は。 これでも結構威力を抑えてるんですがねぇ 」
(これで抑えてるだって?
炎蛇が当たった場所、蒸発して形無くなってんじゃねーか!)
見た目とは裏腹にとんでもない魔力量の持ち主であることを素直に認め、
そのうえで意地でも目の前の敵を倒そうと殺気立っていた。
ミーシャは防御から一転して攻撃に切り替えた。
しかし攻撃を与える隙をくれるほど相手も甘くは無い。
「ほぅ。 私の攻撃にここまで耐えるのですか。 さすがは獣人。 いやぁ? 獣人でもここまで私の攻撃を防ぐことは出来てましたかねぇ 」
「その口ぶり、 まるで獣人を倒してきたような口ぶりだな 」
「倒してきたんじゃありません。 殺してきたのですよ! あれは楽しかったなぁ。私に歯向かう獣人を力の限り屈服させ一気に殺す。 まさに至高でしたね。私に怯え恐怖し絶望の
「てめぇ・・・ 」
「あー、でも一人だけ私に攻撃を食らわした獣人がいましたね。 私の左目を奪った忌まわしき獣人 」
左目にかけている眼帯を手でさすりながらフロックスは話す。
腰まで伸びている白髪は彼の体型を強調しているようだった。
彼女は思った。
(多分、 私はコイツには勝てないだろう。
けど引けない理由が私にだってあるんだ! )
ミーシャがこの戦いを引き受けた理由。
それは本当に彼女の意地だった。
先程の戦闘ではフラウレスにやられ、真っ先にダウンしていた。
それなのに敵の一人も倒せないでカムラに顔向けは出来ないと
たとえここで死んだとしても足止めくらいにはなってやると
自身を奮い立たせる。
「覚悟を決めたような顔ですね。 死ぬつもりですか? 」
「さぁな。 あんたを倒すっつう選択肢もあるんだけど 」
「強がりを。 気づいてますか? 」
「何をだよ 」
「私は先ほどから一歩もここから動いていない」
「だからどうしたってんだよ 。動いてないから勝てないって話じゃないだろ 」
攻撃も防御も全てその位置から動かないで
ったく言われなくても分かってんだよ。
あの爺さん相当の死線を潜り抜けてやがる。
「行きますよ。【
「私を、 私をナメルなぁあああ!! 」
二頭の蛇が上下左右波をうってミーシャを呑み込んだ。
周りはその攻撃の
岩は砕け散り、 周囲はその砕け散った岩が散乱していた。
「私は、 負けるわけにはいかない。 【風の
「なっ—― まさか爆風を生んだのはその風魔法を当てたからなのか。 しかもそれは高位魔法。 単なる小娘であるあなたに・・・ いや、やめましょう。 確かに高位魔法を使えたことには驚きましたがだからと言って私の優位は変わりませんよ 」
(やっぱり強いなこの人は。それは戦っている私が一番感じる。
状況判断の早さ。 自分を忘れない冷静さ、
そしてその冷静さを裏付けてる圧倒的強さ。
良かった。 今この人と戦うことが出来て )
死戦の中、 ミーシャは微かにほほ笑んだ。
(フラウレスの戦闘、 自分は何もできなかった。
私はアイツに心配されたのが悔しかった。
私だって本当はアイツと一緒に戦いたい。
肩を並べられるほど強くありたい。
けれど私は弱いままだ。 だからカムラに心配されたとき
強がってフラウレスを倒してこいなんて言ったけど、
本当は自分の弱さを見せたくなかっただけなんだ。
あそこで弱音を吐いたら自分が消えてしまいそうだった )
「だから私はこの戦いで死ぬわけにはいかない!
胸を張ってカムラに勝利宣言して見せるんだ! 」
「覚悟は決まりましたかな。死ぬ覚悟が 」
「死ぬのはあんただ、ガリガリジジィ。 私の魔法見せてやる—― 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます