第十六羽 八式が魅せる羽
二人は城塞の地下をひたすらに進んでいた。
「まさか地下があったとは知らなかったな 」
「しかもこんな広いとかまるで迷路なんだけど。 私疲れそうー 」
「そんなこと言ってる暇は無いよ。 アリスの言ったことが
本当ならきっとこの先に・・・ 」
ミーシャ、カムラはアリエスタとは別行動をしていた。
――――時は数分前—―――
「二人とも落ち着いて。 これは正真正銘さっきからそこにあった死体だよ。 ただ この街の兵士のだけどね 」
「この街って。 まさかさっき戦ってた奴らのか?? 」
――でも俺らは殺してはいないはず・・・まさか。
「カムラには分かったみたいだね 」
「あぁ。 でもまさか嘘だとは思いたいけど 」
「二人とも何納得してんのさ、私にも教えなさいよ!! 」
「悪いけど話している時間は無いの。 恐らく敵はまだ来るはず 」
「・・・ヴェルか 」
「そう。 カムラの言う通り 」
「ちょっと待ってよ! ヴェルが仕組むのなんて無理じゃない!?
だってここの騎士達と戦ってたじゃん! 」
――確かにヴェルが仕組んだとしたらそこが引っかかる。
何故あそこまで演技する必要があったのか。
「カムラの問いに答えてあげるよ 」
「なっ!? 」
アリエスタは真剣な顔でこちらに向き合った。
—―本当に心が読めるんじゃないのか。このお姫様は。
「それは簡単。 自身も術の対象だったからさ 」
「それはどういう―― 」
「二人とも!! こっちに誰か向かってる! 三人かな、
何か変な魔力を持つのが二人いる 」
「来るのが早いな。 二人は地下へ行って!! 探してほしいものがある。 」
「ちょ、 あんたはどうするのさ!
カムラの腕を治してヘトヘトだったじゃない! 」
「私はやるべきことがあるから 」
――最早、 今の彼女に何を言っても無駄だろう。
この目は覚悟を決めた人の目だ。
ならこっちがやるべきことは一つ。
「分かった。 何を探せばいい 」
「
「どういうことだ 」
「もう時間が無い! とにかくその部屋に行けば分かるから!! 早く行って! 」
そうしてカムラたちは急かされるままに地下の迷宮へと足を踏み入れた
時は今に戻り城塞三階。
「コロス・・・ クロケル・・・ コロス 」
「悪いけどこんな所で止まってはいられない。
ヴェル悪いけど覚悟してもらうよ 」
(この技は出来るだけ使いたくないんだけど。
仕方ないよね・・・)
「やってやる・・・【我、人の道を外れし
アリエスタは呪文を唱え終わると臨戦態勢に入った。
その姿はまるで虎のようだった。 しかしフラウレスの様な禍々しさは無く
逆に信念を貫く女騎士の様な凛々しささえ感じる。
先程までの人の姿に所々獣化の特徴が表れてるが一番はその手足、そして身体能力の強化だ。 ミーシャの様に獣耳は生えないが、その幼い見た目とは裏腹に
敵を倒すというその一点に置いて彼女は、 あの二人より遥かに強い。
「シネ。 クロケル 」
黒い影を覆ったそれは素早く彼女へと鋭い突きを喰らわす。
しかし今の状態の彼女に攻撃を当てることは、ほとんど不可能だった。
素早くそれを避け、 相手の腹に一撃蹴りを入れる。
「グオォォオオオ 」
(全くもって大したことないな。
これならすぐに二人に合流できる。
けど、 今の突きは・・・)
「ソンナモノ・・・ キカナイ。 コイツラハ、 オレノモノトナル 」
「骨を折ったと思ったんだけど? 」
その異常さを早くもアリスは感じ取っていた。
相当なダメージを与えたはずなのに何事も無かったかのようにそこに立っている。
そしてヴェルが直後に言った言葉の意味を知ったと同時、
先程まで一階にいた騎士たちの死体が影の中へと吸収されていく。
自分とは相性の悪い相手かもしれない、そう思いながら
態勢を立て直す。
「まさか君、 フラウレスまでも喰ったのか? 」
何も答えずに、 その化け物はアリエスタを追い詰める。
影が全身を覆い顔部分から赤い
覗く。 その異形の形には普通の人間であれば畏怖すら覚えるだろう。
しかし目の前にいるのは神ではない。ただの地に堕ちた化け物だ。
かつて一緒に戦い、 私の隣を歩いてくれたヴェル=アルバーンは、
もういない。攻撃を紙一重で回避しながら次の一手をアリエスタは考えていた。
「ニゲテモ、 ムダダ。 オマ、 エ、 ハ、 ココデ、 シヌ 」
「全く殺すことしか能のない化け物がよく喋るね ・・・いや」
(殺すことしか能がないのは私も一緒だったか。
いや、 今はそんなことどうでもいい。)
早くコイツを倒して二人に合流しなければ、そんな思いを胸に
アリエスタは全力でヴェルを殺しに行く。
「悪いけどこれ以上付き合っていられないからね。殺す覚悟で行かせてもらう!
空気中を漂う風が大きな圧となってヴェルの身体を突き切り裂く。
フラウレスを倒したのもこの技だ。
獣人特有の風魔法。
これだけの大呪文を食らえば流石に無傷というわけにはいかないだろう。
案の定相手の右半身の骨が折れている。
しかしヴェルはそれを気にする素振りも痛がる様子も見せず、
攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃速度が先ほどよりも鋭く速くなっている。
「アイゼラブラッダー!!」
この技はヤバい、そう思った時には遅かった。
「グフッ!」
致命傷は避けたが、 確実に内蔵をやられた。
攻撃に反応できなかった。 まさか技までも吸収してるのか。
それもフラウレスよりも速い、そう感じながら自身の負った傷の度合いを
確かめる。
ただ相手を殺すことのみに特化したそれは使い手の力量によって、
相手の心臓を的確に貫くことだって可能だ。 アリエスタは突かれるギリギリで
防御魔法を強制使用、 反応速度を0.5%上げた。
その結果死ぬということは免れたが、 本人も分かるほどに
身体は悲鳴をあげていた。
獣化に呪文詠唱全省略、 それによる魔法攻撃に
強制使用。 さらには獣化に上乗せの
それ以前にカムラの治療で魔力の半分は持っていかれてる。
それでも彼女が倒れずにそこにいる理由は、
敵を倒すという使命感からではなく、 あの二人の約束を守るため。
必ず追いつくと、 そう約束したから。
私が初めて友達になってもいいと思えた人たち。
だからそのためにも倒さなければ、殺さなければならなかった。
しかし目の前の敵は無情にもアリエスタに襲い掛かる。
「シネ 」
突然そいつは目の前から消え,。
アリエスタの背後から現れては彼女の左腕に斬りかかった。
折れてない左腕を
気味の悪い笑みを浮かべながら、
アリエスタの左腕を斬り飛ばしたのだ。
しかし彼女は驚くほど冷静だった。
(死ぬ間際ってこんな感覚なのかな。
まぁ私はまだ死なないけど。
腕の一本くらいくれてやる。
見せてやる。私が魅せる最凶で最強の技を。)
「ウヒャヒャヒャハハハ!! トンダ! オレガウデヲトッタ!!! 」
「うるさいぞ化け物。 それが最後の遺言か 」
「コロスコロスコロスコロス! アハハハハ!!! 」
「気味の悪い笑い方だ 」
アリエスタは魔法で緊急止血をして出血死を防いだ。
魔力も体力も底を尽きかけていた彼女だったが、
あえて彼女は型破りな、 彼女にしか出来ない戦いをしてみせた。
反応速度30%底上げ、
そして彼女は何をするわけでもなくそこに突っ立った。
当然、 警戒心が無くなってるヴェルにとっては格好の獲物だった、
アリエスタの背後から一気に攻める。
「私が油断して背中を晒しているとでも? 警戒をせずにツッコむ何て随分散漫になったんじゃないかな? 全くどうしたのさ、
そんな虎にでも睨まれたかのような顔しちゃって 」
ヴェルはすっかり萎縮してしまった。
姿形は変われども、 どんなに自分の殺気が大きくても
本能的に悟ってしまった。自分の殺気よりも彼女の殺気が大きいことに。
「これが私の最大魔法。 絶対に人に魅せることは無い、 魅せたくはない
対同族用魔法—―
強大な殺気がヴェルの殺気をに見込んでいくのと同時に
彼の精神機関がズタズタに壊されていった。
この技を受ければ最後、 死んでるのと同じ。
あるのは中身の抜けた肉体のみとなる。
ただしこれは人間に使った時の効果であり、
同族―悪魔機関に限って言えば存在自体が消滅する。
そうして過去彼女が滅ぼした悪魔機関は14体。
殺した人間は不特定多数。
ただしこの技は極度の殺意がないと使えないため、
今のアリエスタがこの技を使えたのは奇跡にも等しい偶然である。
ヴェルが消滅したのを確認した後
獣化を解除し急ぎ二人を追いかけようとした。
しかし身体が言うことを聞かなかった。
「急に視界が悪く・・・ 」
本人の意思とは裏腹に身体は正直だった。
折れた腕は技を放った衝撃で血が噴き出し
バタンッと音と共にアリエスタはその場に倒れた。
キィイイイイ—―
城塞の扉が開き
また一人そこを訪れる影がそこにはあった—―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます