第十四羽 その羽は嘲笑う

 悪魔機関フラウレスによってアリスが、 この国の女王

そして彼女自身もまた悪魔機関であるということが

告げられた。 フラウレスは右手で鷲掴みにしていた

ミーシャを無造作に放り投げ、アリエスタに向かい合った。


「あの獣人の始末は後回しだ。 先にあんたから片付けさせてもらうぜ

アリエスタ。 それともクロケルと呼んだほうがいいか? 」

「その忌まわしい名前を呼ぶな 」

「何が不満なのかね。 この力さえあれば

人々ゴミ共を掃除出来るっていうのによ 」

「私はあんたらとは違う。ここを救うために私はここにいるんだ 」

「ここを救うために? ふざけてるなぁ? 笑えてくるぜ。 元々ここの奴らを

殺したのは貴様じゃねーか! アリエスタさんよぉ! 」


 二人のやり取りを聞いていたカムラだったが

あまりの情報量の多さに話を聞いているのが精一杯だった。

そして二人のやり取りの隙を見て

ミーシャを奪還していた。

 

「ミーシャしっかりしろ! 」

「げほっ。カムラうるさい、

私は大丈夫だから先にあの化け物どうにかしなさいよ 」

「でも、 お前この血の量! 」

「だから大丈夫だって。 獣人は治癒能力が高いんだから。

私を死なせないってんなら、 とっととアイツを倒してきてよ。

じゃないとさっきの兵士共すぐにここに来ちゃうって 」

「・・・ごめん。 ミーシャすぐに戻る 」


 ミーシャの言葉を受け取った後カムラは

ゆっくりとフラウレスへ向かい合った。

見れば二人の殺気は先程までとは明らかに質が違った。

憎悪のような、 体中が寒いと錯覚する程の殺気。


「そろそろそんな無駄話はやめにしてくれないかなフラウレス 」

「言われなくてもやめるさ。 裏切り者の始末に忙しくなりそうだからなぁ? 」


 先に仕掛けたのはフラウレスだった。

地面を蹴り一直線にアリエスタの懐へと入る。

アリエスタが行動を一つ起こす前にフラウレスは溝へと一発鋭い突きを喰らわす。

そして二突き目三突き目と鋭く悪意に満ちた突きが彼女を襲った。


「次で止めだ。 死ね裏切り者 」


 アリエスタは血反吐を吐きながらもをその攻撃に耐えていた。

しかし息を整える間もなくフラウレスは止めを与える。

その一手は彼女の心臓部を貫いた。

彼女自身も死を覚悟した。 がアリエスタは生きていた。

アリエスタには一瞬何が起こったのかわからなかったが、

もう一人の方は状況を理解しているようだった。

フラウレスは突こうとした手を引き、 一度距離を取った。


「全く関心しねぇな。 てめぇはお呼びじゃねーし、 そもそも今更出てくるなよ。

自分から殺されに来たのか? クソガキ。 さっさと退場しやがれ 」

「悪いけど退場するのはお前のほうだ、 フラウレス。 ミーシャだけでなく

アリスまでこんな目に 」

「あの獣人のことは知らんが、 そこに死に損なってるやつは、 そいつから仕掛けてきたんだ。 あんたにとやかく言われる筋合いねぇなー 」

「どう見たって仕掛けたのもあんただろ。

これ以上二人を殺させるわけにはいかない」


 カムラは剣を構え相手の出方を伺っていた。


「待てカムラ。 これはもう私とアイツの問題だ。

これ以上あんたらは手を出すな 」


 息を整えながら、 アリエスタはカムラに訴えた。


「アンタじゃアイツは倒せない。 同じ悪魔機関の私がアイツを殺す 」

「そーだぜクソガキ。 てめぇじゃあ俺は殺せねぇってことだ。

まぁ、 死に損ないのアンタでも俺を殺すのは無理だろうけどな! 」

「ハァハァ。 それはやってみないとわからないだろ 」

「いーやわかるさ。 俺とあんたじゃ雲泥の差だ。 悪魔機関としてもとしても中途半端なあんたじゃ俺には敵わねーな 」

「おい、 アリス今の話はどういうことだ 」

「言った通りさ! そいつは悪魔機関の怪物でありながら同時に人間でもある。

ある意味俺よりも化け物かもな!! 」

「アリス、 今の話は本当なのか 」


 彼女のほうを見るとアリエスタは小さく震えながら無言で肯定した。

恐らく今回初めて見せる動揺。 その震えはカムラがやっと気づける程度の小さな小さなものだったがカムラが理解するのには十分だった。

と同時に彼女のほうに向いたカムラの視線を、 フラウレスは見逃さなかった。

フラウレスは先ほど同様地面を蹴って一気にカムラの懐へ入り込む。

最短で確実に目の前の男を殺すために。

タイミングとしては悪くなかった。

フラウレスは右手でカムラの胴体を突き貫こうとした。

しかしカムラはそれを待っていたかのように、その腕に剣を振りあげた。


 一瞬の斬撃。


 カムラがアリエスタの方を見たのは決して彼女が心配だったからじゃなかった。

それもあっただろうが、それよりもフラウレスにどう戦うか、

答えを導き出した結果だった。

あえて背後を見せ隙を誘い殺しに来たところを叩く。

それも懐へ入られたのでは剣を振りかざしたのでは対応が間に合わない。

だから剣を


「グォオオオアアア 」


 苦痛の唸りとともに右腕が宙を舞う。

赤い飛沫しぶきが辺りを染める。


「悪魔機関でも赤い血は流れてるんだな 」

「・・・やってくれたなぁ!! クソガキィ! 」


 右腕を飛ばしたのにも関わらずフラウレスは地面に膝をつかない。

それどころか殺気がどんどん増していってる気さえ感じた。


「ハァハァ。 アー! 久々にいい感じだぜおい。俺にまともに攻撃与えられる奴がまさか人間の中いたとはなぁ! 殺しはこうでなきゃいけねぇ!!

このスリルは殺しの中でしか味わえねぇ!! 」

「今ので倒れないのか。 悪いが急いでるんだ。あんたと遊んでる時間は無い 」


 そうは言ったもののカムラ自身も限界だった。

既に体は悲鳴をあげていたのだ。

無理もなかった、 相手の殺気に耐えながら近づく気配を感じ

一度も失敗を許されることのない攻撃を仕掛けたのだ。

並大抵の精神力じゃ殺気をまともに体に受けることすら出来ない。

それを、最近まで街の中を警備してた者が行っているのだ。

体力、精神面の消費は予想よりも多く、

息も自然と上がってきていた。


 ――どうする・・・ こっちとしては相手が隙をみせれば勝ちと思っていたが、

隙を出すどころか、 殺気が増大してる気さえする・・・ まずいな

先ほどの奇襲はもう使えない。 まともにりあえば確実に死ぬ。


 考えるより先、フラウレスが動いた。


「さてと、 んじゃあいくぜクソガキ!血染めの突手アイゼラブラッダー

 

 鋭く早く確実に敵を仕留めようとするその突き手はまるで

鋭利な槍のようだった。


 ――っ早い!! どうする受けるか、 いや駄目だ!

 この腕に摑まったら間違いなく死ぬ!


「おいおいおいおい! どうしたよ!

かわしてるだけじゃあ俺には勝てねぇぞ!!」


 カムラは相手のその技をかわすので精一杯だった。

片手でしか攻撃出来ないのに、殺気だけでない。

攻撃のスピード、 質、 連携どれを見ても明らかにさっきより速くて鋭い。

まだこんなにも動けるのかと絶え絶えになりつつある息を整えながら思っていた。


「ハハハハ!! 死ね死ね死ね死ね!!! 」


 ――コイツっ! 攻撃が止まることを知らないみたいだ。


 しかしここで事態は動いた。 油断してたわけじゃないが

身体がついていかなかったのだ。

カムラは地に膝がつきそうになった、 しかしそれも一瞬。

すぐに態勢を立て直そうとした。

それを見逃さずフラウレスはカムラの膝を払いながらカムラの右腕を突いた。


「!? 」


 声にならない叫びと共に激痛がカムラを襲う。


「痛いか?? 痛いだろうなぁ!! 当たり前だ! お前の腕の骨を折ってやったんだ からよぉ!!! 」

「くそっ! 」

「てめぇは俺の右腕を斬り飛ばしてくれたからなぁ! 苦しみながら死ね! 」


 フラウレスの左腕がカムラを貫く瞬間、

今度は上空からの攻撃でフラウレスの左腕が地に堕ちた。


「グァァァアアアア!!! 」


 流石のカムラも事態を呑み込めていなかった。

上空から攻撃されフラウレスの左腕が落ちた。

それはわかる。 けどそえれしか分からなかった。

今のが攻撃なのかも怪しいが分かることは、 上空からの

が確実に相手の腕を落としたということだった。


「はぁはぁ。 殺気を消しながらの呪文詠唱は予想以上に精神を

持っていかれる 」


 後ろを見るとアリエスタが呪文を唱えた様子だった。

アリエスタはカムラの方を見ると、 目で話しかけてきた

カムラには深く理解できなかったが、

お礼はいいからと言っているようにも見えた。

警戒しながらフラウレスの方を見ると地面に仰向けになっていた。


「ワハハハハハ! これだから殺しはやめられねぇんだ!!

楽しくてウズウズしやがる! 」

「最後の最後までブレないなあんたは。 噛みついてくるのかと思ったけど 」

「はっ。 両腕落とされた時点で負けは決まってたからな。

流石に魔力の損失が大きすぎた 」

「そうか 。最後に言い残すことはあるか 」

「くたばれ。 クソガキ 」


カムラは左腕でフラウレスを斬り殺した。


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