第十三羽 苦悩する羽

 目が覚めたのは、外の騒々しさからだった。

眠りについてからまだ2時間ほどしか立っていない。

まだ日もそれほど昇ってはいなかったが、何事かと思って体を動かすと同時に

ヴェルが慌てた様子で入ってきた。


「お前ら! 今すぐここを離れろ! 」


 三人は何が起きたのか分からないままヴェルに言われるがまま

外へと出る準備を整えた。

一体どうしたんだとヴェルに問うと外を見るように視線を誘導させてきた。

そしてそこで初めて事の緊急性が見えてきた。

いや、 見えた時には既に遅かったのかもしれない。

外は既に堕天使、 この国の騎士団が周囲を包囲していた。

完全に後手に回ってしまったと考えるよりも先にヴェルが言う。


「俺があそこらの敵を相手するお前らはその隙に城へと向かえ 」

「ちょっと待ってよ。 ヴェル一人置いて私たちだけで突入なんて

出来るわけないでしょ!? 」

「落ち着け。 もちろん俺だって死ぬつもりはない。隙を見て城へと向かうさ 」

「いや、 でも! 」

「俺のことが信じられないか? 」

「そういうわけじゃないけど・・・ 」

 「ヴェル、 流石にこっちとしても

一人で歯向かわせるわけにはいかないんだが 」

「悪いが決定事項だ。 もう少し時間があれば作戦でも練れたんだろうが、

あっちの対応があまりにも早すぎる 」

「それは俺も思ったが、対応があまりにも早すぎる。 これじゃあまるで・・・」

「こっちの話が漏れてたとしか思えないよね 」


 先ほどまで話を聞いていたミーシャが言ってきた。


「いや、 それはない。 だが何かあるのは間違いないだろうな。

だからそのためにも三人には極力戦いを避けてもらいたいんだ。

この先何があるか分からないからな 」

「ヴェル... 本当に後から来るんだよね 」

「何回も言わせるな。 後から必ず追いつく 」


 カムラは、 ちょっと不思議な感じがした。

二人の会話がまるで長年共に戦ってきた戦友のような、

そんな会話のやりとりに聞こえたからだ。


 —―この二人は一体・・・いや今は目の前のことに集中しとかないとな。


「俺は正面入り口からあいつらと交戦する。 その先に三人は裏から城へと

向かってくれ。 少し遠回りになると思うが我慢してくれ」

「分かった。 ヴェル、 本当に大丈夫なんだよな 」


 カムラもミーシャも改めてヴェルのほうを見る。


「まさか二人にも、 こいつの心配性がうつったのか? 大丈夫だ心配はいらん 」

「その言葉信じるからな。いくよ二人とも 」


 カムラはヴェルにその場を託し三人は裏口から城へと向かった。


「・・・ 行ったか。 さてと、俺も最後の一仕事してきますか 」


 ヴェルは正面の入り口から勢いよく飛び出した。


―――――――――――――――――――――――――――


 三人は裏口から城へと向かうが流石に敵も全くいないというわけでは無かった。


「やっぱ、 戦わなきゃいけないか。そういえばあんたの名前聞いてなかったな 」

「私のことはアリスでいい 」

「了解した。 ミーシャ、 アリス、 堕天使を優先撃破しつつ城へと向かう。

騎士団兵は殺さないように」

「また無茶な注文を。 いくら敵が少ないからって、 カムラはお人好し過ぎる! 」

「二人とも話してる余裕ないよ。 敵が来る! 」

「っもう! やればいいんでしょ! 風のエストリカ


 ミーシャは兵士を障害物まで吹き飛ばし気絶させる。

カムラも襲い来る堕天使を一体、 又一体と倒していく。

一気に突破しようとしていた矢先に一人の男が現れた。


「いやー。 全くここまで来られるなんて大したものだよ。 素直に感心するね 」

「え、 待って。 何であんたがここにいるのさ! 」

「俺もびっくりしたな。 まさかあんたがここにいるなんてな。

ナデア=イスティ。まさか観光案内てわけでもないだろ?」

「あはは。 まぁそうだね。 ここに来たのは、そこの女の子の処刑 」


 ――処刑てアリスの事か? だが何でアリスを・・・


「まさか、 君ら彼女のこと何も知らないの? 彼女はね、

僕らにとっても君らにとっても邪魔な存在なのさ 」

 「・・・ どういうことだ? 」

「いやね? 彼女・・・おっとこんな無駄話をしてる場合じゃないな。

君らも彼女の味方になるというのなら容赦はしないよ? 」

「ねぇ。 カムラどうするの? アリスが私たちにとっても敵って意味が

分からない。 それにナデアが何者なのかも。 何を信じればいいのさ!?」

「落ち着いてミーシャ。アリス一つ聞きたいんだが」

「聞きたいことって何? 」

? 」

「それは違う! そんなことは絶対ない! 」

「それだけ聞ければいい 」

「悪いなナデア。 そういうわけだから彼女を殺させるわけにはいかないんだ。 」

「そういうわけってどういうことだよ。まぁいい、

だったらここであんたら全員殺していくだけだからなぁ! 」

「どういう訳かは知らないが黒幕はあんただったようだな。

ナデア=イスティ。 二人とも戦闘準備を! 」


 ナデアは徐々に人外の姿へと変貌していった。

その姿は例えようが無いほど禍々しく狂気に満ちていた。

それでもあえて例えをだすのなら虎。一体何人の人々を喰ってきたのだろうと

思わせるほどの強大な爪牙そうが


「本来の姿になるなんていつぶりだ? 少しは楽しませてくれるんだよなぁ!? 」

 

 威嚇にもとれる咆哮にも類似したその言葉は戦う前から

相手の心を折ってしまう勢いだった。


「そういえば自己紹介がまだだったよなぁ!? 俺の名前はフラウレス。 ことわりは狂気。狂気によって絶望を与え絶望によって狂気を生み出す。あんたらはどういった絶望を感じさせてくれるのか楽しみだなぁ!?」


 ヴァッサーゴにも似た威圧感。 いや威圧感だけならこいつのほうが上かもしれない。 二人に目を配ったがさっきまで臨戦態勢をとっていたミーシャがすくんで動けずにいた。

フラウレスはミーシャのを見逃さずに一気に間合いに詰め寄る。

駄目だ。 動きたいのに足が本能的に動くことを拒んでる。

フラウレスはミーシャの頭を鷲掴みにし、 思い切り地面に叩きつけた。


「げほっ…… 」


 ミーシャはかろうじて意識を失ってなかったが、

状態が良くないのは一目で分かる。


「おっとまだ死ぬんじゃねーぞ? 楽しいのはここからなんだからなぁ! 」

ミーシャの額からは分かりやすいほどに血が流れていた。


「待って! 」


 カムラは驚いた。 さっきの威嚇に自分は動けなくなっていたというのに

少女はその場所を平気で歩いていた。


「その子を解放しなさい。 あなたが用があるのは私でしょう 」

「そうだな。 一番の最優先事項は貴様だ。 だから・・・ コイツで遊んだ後で

お前の相手をしてやるよ! 」

「この害獣が 」

「おいおい、 それはお互い様だろう?害悪のアリエスタ女王様よぉ 」


 —―え?あいつ今なんて言った?アリスがアリエスタ女王だと?

 

「おいおい! お前さんのその顔!本当にこいつが何者か知らないで一緒に

いたのかよ!? 教えてやるよ! こいつは正真正銘アリエスタ女王様だよ! 」

「なっ! そんなわけ! そしたら今までの話は一体!? 」

「あんたらが何を話していたかは興味ないがな、

ついでにもう一つ教えてやるよ!こいつのもう一つの顔を! 」

 

 その言葉を聞いてアリスはフラウレス斬りかかった。

しかしフラウレスは身軽にその攻撃をかわし言葉を続けた。


「こいつのもう一つの顔はな! 」

「やめろっ! 」

「こいつの正体は俺らと同じ悪魔機関だ―― 」

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