第十二羽 羽の多重奏
それから宿の主人は話し始めた。
「さてどこから話したものか。 とりあえずこの街のことから話すとしようか。
とりあえず貴方達は、 この街に来てどういう印象をもった? 」
「印象? そうだな堕天使が攻め込んできているのであれば、かなり厳重な
警備体制がとれているなと感じはしたが。 ミーシャはどう思った? 」
「 余所者が来たにしても感じが悪かったっていうか、 うまくいえないんだけど
悪意は無いのに悪い感じがする。そんな感じだったような 」
カムラもミーシャの言い分には同意だった。
街の人には悪意は無い。 だがそれとは別に殺気立ってる何かを感じられたのだ。
—―気のせいだと思っていたけどミーシャも感じていたのなら
本当なんだろうな。
それにしてもこれだけ警備が厳重なのに少しおかしい。
こちらが何を言いたいのかわかっていたようで
主人が再び口を開いた。
「そう貴方の察しの通り、 この街に堕天使は攻めてきていません。
それどころか平和なくらいです 」
「まさか既に街の中に潜伏してるというとでも 」
「潜伏・・・ そうでうね。 今はまだこの表現のほうが正しいのかもしれない 」
「今はまだ?? どういうことだ? 」
「それは・・・」
「おい! ヴェル!! もういいだろ! 」
主人の話を少女が遮った。
この男の人はヴェルというのか。
「このまま話続ければあんたが死んでしまう! 」
「おい待て。 死ぬってどういうことだ 」
「そのままの意味だ。 この街の奴らはそういう術をかけられてる。
裏切ればそのまま死に繋がる 」
「そんな術なんて存在するのか 」
俄かに信じがたかったが、 多分その少女の言ってることは本当のことだろう。
カムラ自身、死体を操る術をこの目で見ていなかったら、 間違いなく疑っていた。
「待て、 お前は大丈夫なのか。 その話をすること自体も裏切り行為に
含まれるんじゃないのか 」
「私のことは大丈夫。 そういうのが効かないから 」
「それもまたおかしな話だが、 なら何故最初からあんたが話さなかった? 」
「私は一度失敗に終わってしまったけど二人を殺そうとした。
その私が話したところで信じないだろ? 」
「それはそうだが、 最初から話していれば問題なかったんじゃないのか? 」
「それは無理な話だよ 」
「どういうことだ?? 」
「少しでもおかしな行動を見せれば、 あいつはすぐに人質を殺す。
だから少しでも警戒の少ないこの時間を狙い、 二人に接触した」
ここで話を聞いていたミーシャが口を挟んできた。
「待って!? 私たちを殺す気で来たんじゃないの!? 」
「もちろんそのつもりできた。 実際殺す気で行かないと、
いくら警戒が少ないこの時間だろうと怪しまれる 」
「なるほど。 警戒に警戒を重ねた結果ってわけか 」
「そういうことだ 」
「というよりそろそろ教えてくれる?? 人質って誰なわけ?? 」
ミーシャの問いかけに今度はヴェルが口を開く。
「それはこの国の女王、 アリエスタ女王だ 」
「アリエスタ・・・ 聞かない名前だ 」
「それはそのはず。 彼女が即位してからまだそんなに日は立ってないからな 」
「でもさ、 いくら即位してから浅いって言っても、
こうも簡単にここを占領されちゃうわけ?? 厳重な警備されてたんでしょ?? 」
「そうだな。 だが全員が全員味方な考えがあるのだとしたらそれは間違いだ 」
「... なるほど。 そういうことか 」
「ちょっとカムラ何一人で納得しちゃってんのさ! ちゃんと説明してよね! 」
「あ、 うん。 多分だけどアリエスタ女王を良く思ってない人が少なからず、 いたんじゃないかな?それでその何かのいざこざの最中に堕天使に侵入されたってところ?」
ミーシャに説明した後に合ってるかどうか、 ヴェルの顔を見直した。
「そうだな、 60点てところだ。 確かに女王をよく思ってない連中はいた。けど女王も決して弱いというわけでは無い。むしろ下級の堕天使なら一人でも
相手できる。だからそういう奴らがいてもどうにか出来ると思っていたんだ 」
ヴェルの話を引き継ぐように今度は少女が話し始めた。
「そう、出来ると思ってた。 しかしタイミングが悪いことにあいつがきてしまったんだ。そして反女王派は堕天使と結託してしまった。 堕天使はそいつらの心の隙を突いて上手くコントロールしたのさ。 そして出来たのが今のこの現状。 いくらここが安全と言われても中身は既に奴らに堕ちている 」
カムラが思ったよりも事態は複雑だった。 ただ堕天使が攻めてきたのであれば、
力を貸してそれに対処すればいい。
しかし反女王派と呼ばれる勢力が堕天使と結託しているとなると
下手に手を出すことはできず、
いくら堕天使を倒した所で根本的な解決にはならないからだ。
—―それに敵に回るかもしれない騎士の数も分からない。
しかもその堕天使は人の心の隙間に訴えかけてくるという。
死人ではなく、生きてる人を操ることが出来るのであれば
人間に対してこれほど相性の悪い相手はいないだろう。
堕天使だけを倒しても女王派と反女王派がいずれ争いを起こす可能性がある。
かといって堕天使を倒すついでに結託した人たちも倒せるのか?
色んな考えがカムラの脳裏を巡っていた。
「全く笑えてくるよな。 何が軍事城塞都市だ。
中身から崩されてりゃ世話ないよ」
少女はポツリと呟いていたが、 微かに目元の辺りを涙が伝った。
彼女のその涙は注意して見ないとわからない程度だったが
カムラにはしっかり伝わっていた。
時計をみると午前三時を回っており
少しでも休んだほうが良いとヴェルからの提案があった。
こんな状況で寝ていられないと少女は訴えていたが、
暫くして疲れていたのか眠りについた。
ヴェルも下の階で休むといって一階へと降りて行った。
そして俺ら二人も少しでも体力を回復させるために床へとついた。
―――――――――——―――――――――
軍事城塞都市周辺の森。
「人間の分際でこちら側に歯向かうなど笑止千万 」
「そぉかな? 僕としては結構楽しめそうな気がするけど? 」
「そう言って貴様この前ほとんど何もしてなかったよなぁ? 」
「だって僕の出る幕じゃないでしょ。 あの場は 」
二人は木の葉舞う暗闇の中誰にも気づかれることがないまま
しばらく会話をしていたが、 やがて会話を終え再び二つの影は暗闇へと消えていった。
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