第十羽 その羽の灯火
次の日の朝二人は静かにリリアの家を出た。
まだ寝てるであろうリリアを起こさまいと
気を使ったのだ。しかしその心配は無用だった。
リリアは先回りして二人を見送りにきてた。
「二人の考えなんてお見通しなんだからー 」
「リリア。 ちょっと空気読んでよね。 せっかく早起きして来たのに 」
「ごめんてカムラ君。 でも私の目を盗もうなんて死んでも早い! 」
「死んでも!? 死ぬのに早いも遅いもないから!! いや死んだら終わりだし! 」
「カムラ少しは落ち着こうよ。 寝不足なのは分かるけど 」
「何?カムカム寝不足なの? 」
「いや、 十分に寝たはずなんだけど... カムカムって誰!? 」
「アハハ。 ちょっとした冗談だよ! 」
――この人はスイッチの、 オンオフが激しい気がする。 まぁいいか。
この人らしいと言えばこの人らしいし。
「じゃあリリア。 僕達は行くから 」
「うん。 二人共気を付けてね? 」
「任せなさいよ。 私がいるんだから 」
それは死亡フラグじゃないかと思いつつ
そんな事を思いつつ二人はリリアに別れを
告げて軍事城塞都市【セルデリア】へと
向かった。
セルデリアまでは徒歩で約3時間。
道中堕天使に襲われることを想定もしていたが思っていたよりすんなりと目的地まで歩けていた。あそこがセルデリア・・・もうすでに目視できるほどの距離にまで
二人は足を進めていた。
「待てお前ら。 この先に何のようだ 」
正直に答えても良かったが、 変に話が
カムラは、 その場を適当に切り抜けようと考えた。
「この街には観光にきました 」
「観光だと? 今はそんなことしてる状況じゃないことを分かっているのか? 」
「状況といいますと? 」
「堕天使と悪魔のことだ。 あいつらが手を組んで無差別に人を襲っているという情報が入ってる。 先日アルテークという都市も被害にあったそうだ。だからここも今は警備が厳重になっている 」
「なるほど・・・ そのようなことが 」
「お前ら本当に何も知らないんだな 」
「すみません。 かなり田舎のほうからきたものですから 」
本当は全て知っている、 二人とも知った上で知らないフリをし続けた。
下手に何か言って情報を与えるより何も知らない上で情報を得た方が
得策だと感じたからである。
「で、そっちのチビっこいのは何だ。 見たところ人間ではないな 」
「そうなんですよ! 彼女は獣人なんですよ! 」
(カムラのアホー!! 何さらっと
私が獣人だってことをばらしてんのよ!!)
ミーシャは心の中でそう叫びながらカムラを睨んだが、
カムラは続けてこう言った。
「確かに獣人なんですが 、 危険性は皆無だと思います 」
「ほぉー? その獣人が安全である証拠は?? 」
「俺が生きているのが証拠です 」
「プフッ。 ハッハッハッハ! そーか、そーかそれが証拠か。 なるほどな
予想を裏切る答えだ。 確かに証拠になるに十分かもな 」
ミーシャには何が何だか分からなかった。
頭の中が軽く混乱もしかけてきたりもた。
その様子を隣で見ててカムラは軽く
可笑しくなった。 それからミーシャに小声で後で説明するからと耳打ちをした。
「よし、 歓迎しよう。軍事城塞都市【セルデリア】へ。 と言っても今は警備も手厚い。 あまり楽しめないと思うが。 もし宿へ泊まるんであれば私の名を出せばいい。 これがこの街の通行許可証だ、私の名前もいれてある」
許可証には、 ナデア=イスティと書かれていた。
二人はナデアに礼を言ってセルデリアの中へと入っていった。
二人は中に入るなり驚いた。
確かに警備は厳重なのだが、 その上三人一組という徹底ぶりだ。
これは、 そう簡単に堕天使も攻めいってこれないなと思いつつ二人は宿へと向かったのだった。
宿はあっさりと泊まれた。 許可証を見せたらほんとにすんなりいったのだ。
そして部屋に着くなりミーシャから質問された。
「カムラ! さっきのこと説明してよね!
カムラが生きてるのが証拠ってわけを!」
「あー、それね。 前にも言ったか分からないんだけど獣人って
普通の人達にとっては恐れられたり害ある存在みたく思われてんだよ。
そのために獣人は人々から嫌われたりしてるんだよ。
獣人もまた
だから両方の殺しあいなんて珍しくはなかったんだ」
「そんなの初めて聞いた… けど、
中には争いを好まない獣人だっているはずだよ!」
「少なからず俺はそう思ってる。 けど世間の目はそんなに優しいものじゃない。誰が最初に起こしたのか。 獣人に人間が殺され人間は即座にその獣人を殺した。
その積み重ねが今を作ってるんだよ 」
「そんな... でも殺し合ったって結局は。 人間と話し合うことってできないの? 」
「そうだね。 何も変わらない。 けどミーシャも心当たりあるだろ?
攻撃された時そいつは聞く耳を持とうとしたか 」
ミーシャは静かに下を向いた。
確かに攻撃された時、
凄い殺意のようなものを感じたのをミーシャは記憶していたのだ。
「しかしまぁ、 ミーシャの口から人間と話し合いなんて言葉が飛び出すとは。
最初はあんなに人間を毛嫌いしていたというのに 」
「なっ!? 今だって十分嫌いだ! 余計なことを言うなー! 」
「アハハハハ。 まぁ良い方向に変わっていってるってことでいいじゃん。
それと・・・さっきの話しにはもうひとつだけ真実があるんだ 」
「人間が獣人に殺されたっていう話? 」
「そう。半分はそう思ってるな。けれど世間のもう半分は獣人が人間に殺されたという認識になっている」
「え、 それってどういう 」
「どうもこうも分からないんだ。 どちらも確固たる証拠がない、
けれど信憑性が妙にある」
「待って。 それって無理じゃない?
どちらかが先に手を出したことは確実なのに意見が割れるなんて」
「そうだから俺は第三の可能性もみてる 」
「・・・堕天使? 」
「そう。 奴等ならきっと... って話が脱線しすぎたな。 ともかく俺がミーシャに
襲われない限りこの獣人は安全ですっていう保証がつくわけよ。 」
「むー。 何だか人間の思い通りですって言わんばかりの所が気にくわないけど
仕方ないから今はそれに乗っかってやる 」
二人は束の間の休息を取っていた。
しかしそれは一発の銃声音によって
即座に現実に引き戻された。
鈍い音が二人の部屋に響くのだった。
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