第八羽 その羽はもがき続ける
さてどこから話したらいいかと、
リリアはそんなことをぶつくさと言いながら考えてた。
「二人とも堕天使についてはどこまで知っているかな 」
「世界を滅ぼす。 天使の敵であり悪魔の味方 」
「他の人達を自分の仲間にしようとしたりするよね 」
「その通り。 堕天使は自分達の仲間にするために耐性の無い人間達を捕まえては
強力な兵士に育て上げる。 特に女は新しい兵士を産むための道具として、
その身が壊れるまで堕天使に飼われるのさ 」
「じゃあ、 アルテークから連れてかれた人達は 」
「大半はそういうことになるね 」
「じゃあ今すぐ助けに行かないと! 」
「落ち着きなって! カムラ! 」
「ミーシャ? 何でそんな落ち着いてられるのさ!?
こうしてる間にも死人がでるかもしれないんだよ!? 」
「大丈夫だって! 私が言ってるんだ! 」
――そうだ、 ミーシャだって実験されてたんだ。
獣人なのにその身には堕天の力も流れてる。
ミーシャに諭されるように冷静さを取り戻して再び椅子に座り直した。
「すみません取り乱しました 」
「ふむ。 なーるほど 」
リリアは何かを察したかのように
またまた考え初めた。
「ね、 ミーシャちゃん 」
「な、 何よ 」
「ミーシャちゃんてどっちの味方? 」
「急に何よ!? 私は堕天使の敵だって言ってるでしょ!? 」
「そうだよね。 うんうん。 その言葉が聞けて良かったよ 」
――いったい今の質問は何だったんだ。
「じゃあ話の続きを話そうか。 さっきの話だけどね一つ誤りがある 」
――誤り? さっきの言葉に?
「うーん。 誤りというか訂正というか、 カムラ君の言葉なんだけどね」
「俺の言葉?? 」
「そ。 悪魔と堕天使の協力のところ。 元々は天使、 悪魔、 堕天使三人の
勢力バランスは拮抗し、 不戦協定が結ばれていたんだ 」
「そこまでは知っている。 それで堕天使と悪魔が手を結び協定を破り
天使に総攻撃。 その結果今の現状に繋がったんだよな? 」
「うん。 そうだね。 それが現在に語り継がれてる話 」
「待って。 その言い方だと真実は違うってことになるけど 」
「察しがいいねミーシャちゃん! ・・・そう真実は違う。 ある時天使は悪魔に恋を
したんだ。 とても叶ってはいけない恋。 何故だか分かる?」
「三つ巴の戦力バランスが一気に崩れる上にそれを知った
堕天使が黙ってないだろうな 」
「まさしくその通りさ。 でも事もあろうに天使と悪魔は添い遂げてしまったんだ 」
「添い遂げた?! 待て! もしそうだとしたらおかしいぞ 」
「カムラおかしいって何が? 」
「考えても見ろ! 不戦協定が結ばれてたとはいえ、お互いが睨み合ってた状態だぞ!? 悪魔が戦略的に添い遂げるのは可能性として無くはないが、 問題は天使側だ!添い遂げる前に他の天使が止めるだろ! 」
「・・・ 確かに。 でも当時の悪魔が優しい人とかだったら? 」
「悪魔が優しい!? それこそ可能性として無いだろ 」
「いや残念ながらミーシャちゃんが当たってるよ 」
「おい、 リリア本気で言ってるのか!? 」
「本気で言ってるんだよ。 この話に関して冗談で話せないからね 」
「えーと、 じゃあ添い遂げた二人が団結するとヤバくなりそうだったから
堕天使が攻めたってこと? 」
――いやミーシャの考えだと悪魔と堕天使が協力してる事の説明がつかない。
多分まだ何かあるはずだ。
「今度はカムラ君、察しが良いね。 そうなんだ、それだと堕天使と悪魔が手を取った説明がつかない。 事態はもうちょっと複雑なんだよ 」
「複雑? 」
ミーシャが首を傾げて質問を投げ返す。
「当時の戦力バランスとしては、平和維持のために
—―悪魔だと??
「 悪魔は平和維持を主として尊重していた穏健派と堕天使と同じように戦力増強を目的とし自らも戦場へと出て領土を拡大してきた過激派の二種類がいたのさ 」
「待て、 話が見えてきたぞ。 要するにその天使は穏健派と添い遂げたんだな」
「全くその通りだよ。 けどそれが逆に過激派を刺激したんだろうね。 その一年後悪魔内で
穏健派は戦わなかったのかという質問に、リリアは少し俯きがちに答えた。
「戦ったんだと思う。 けど考えてもみなよ。 穏健派と言われてる人達が実際に
殺しの最前線にでてる過激派に勝てると思う? 」
の言葉に今度はリリア以外の二人が俯いたがここでミーシャは
彼女に気になる質問をぶつけた。
「天使は!? 天使だっていたんだよね?! 」
「堕天使は用意周到だったんだ。 先に穏健派を片付けてから天使に宣戦布告した。もちろん天使だって総力戦だったさ。でも数が違い過ぎる。過激派と堕天使、両軍が一度力を使えば天使なんてあっという間さ 」
「そんな・・・」
「 それでも一人まだ戦ってたんだ。
その天使は最後の最後に特大の攻撃を放った 」
「じゃあ! それで堕天使を! 」
「ミーシャちゃん。もしそうなら堕天使がここまで
攻めてくることなんてないんだよ」
「・・・負けたのか。 その天使も 」
「そう。 最大の呪文すら堕天使の攻撃の前では意味をなさなかった。
そして穏健派同様その天使も幽閉された 」
「ねぇその天使と悪魔?の名前まだ聞いてなかったんだけど」
ミーシャがリリアに最もな疑問をぶつけた。
「悪魔の名前はブルーグ=ゼムラ。当時の最高責任者。そして天使の名前は確か
ネーシア=アルカ。彼女もまた当時の最高責任者だったんだよ。確か彼女赤ん坊が産まれてたって噂だったけど 」
「赤ちゃん!? 今何してるんだろ 」
――なるほど。最高責任者同士か。そりゃあ反乱も起きるわけだ。
それにミーシャには申し訳ないが多分死んでいるか。 そうでなくても堕天使に捕まってると思う。最悪女性なら道具行き男なら運が良くて兵士行きか。
「そうだ。 堕天使のトップの名前まだ聞いてない 」
「それは君たちも聞いたことあるんじゃないかな? 堕天使アグニス。
今も昔も堕天使最凶と言われてる 」
「アグニスか・・・ まるで戦場にいたかの様な言葉の数々だったわけだが
リリアお前は一体 」
「隠しても仕方ないし。 君たちとは敵でいたくないから話すね・・・ 実は私も戦場にいたんだ 」
二人は驚いて顔を見合わせた。
「改めて自己紹介するね。 私はリリア=ルベット。 穏健派の悪魔です 」
—―え? 今何て?
今度は二人同時にリリアを凝視した。
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