第四羽 この濡れた羽は重すぎて
タイガーとマーブルの闘いは長くは、 かからなかった。
タイガーの繰り出す強力な打撃も腕で軽く受け流し、
その間に溝へ一発突きを食らわしてやった。
「がはぁ。 くそが。 んな戦力差があってたまるか。 俺は騎士団の隊長だ!
てめぇらより強ぇんだよー!! 」
吐血しながらタイガーは叫ぶ。
そして自身を全身硬化してマーブル目掛けて突っ込んでいく。
周囲の風が轟音となってタイガーの周りに吹き荒れる。
周囲の石はかすっただけで砕け散る。
普通の一般人なら少し当たっただけで
体の肉という肉が引き裂かれるだろう。
しかしマーブルはあえて正面から受け止めることにした。
「それが貴方の全力というやつですかー。 流石にあれは当たりたくないなー。
それならこちらも少しばかり出すとするかなー本気を 」
タイガーの暴風を纏った突進に対してマーブルが取ったのは、
まさかの真っ向からの勝負だった。
「マーブルめ諦めたか! だったらとっとと楽になりやがれ! 」
やれやれという風にマーブルは構えた。
「それがあの隊長様の言うことですかー。 全く 」
マーブルは左足を軸にして右足を前にだした。そして両手を後ろから思い切り前へ突き出した。右手と左手、正拳突きを出すように素早く前へと繰り出す。
タイガーとまだ距離があるため、受けた本人すら失敗と読んだ。
「馬鹿め! 頭がおかしくなったか! それとも死ぬ瞬間の思い出作りか! 」
タイガーの言葉を無視しつつすかさず長剣を構えとる。
「うん。 これでよし。 さようなら。 元隊長さん・・・
【
一瞬だった。 マーブルが自身の剣を
衝撃波として放ったその攻撃は斬撃となって
タイガーの胸元を赤く染めた。
「グハァ。 何でんなちんけな技で、この俺の硬化が破られる・・・! 」
タイガーは少しばかりの時間で理解したようで、
そこへ斬撃を食らわしたマーブルが歩み寄ってきた。
「流石はタイガー元隊長。 分かった見たいですね。 私の最初に放ったあの正拳突き私の魔法も少し加えていたんですよー。 名称は
【
「だが、 俺の硬化を破る程の威力でも無かったはずだ! 」
「破られてないと錯覚したのなら? 」
そこまで聞いてタイガーは納得した。
食らう瞬間までは確かに硬化は発動していた。 しかしあの正拳突きによって暴風及び硬化を消しただけでなく、 魔法により
それを破られてないと錯覚させた。
「てめぇ。 一体何者だ。
騎士団にそこまでのやつがいたなら総隊長クラスあるいは・・・ 」
「貴方は知らなくていいことです。
堕天使側についた貴方を最早救う手はないのでー 」
いつものようにのんびり口調で語りながら
マーブルはタイガーの首を跳ねた。
「さてと、 あの二人は大丈夫かなー? 少し様子でも見ていこうかなー 」
マーブルは空を舞う一羽の鴉を見ながら、その場を後にした。
―――—――――――――――――――
二人は堕天使の残党を倒している最中だった。
「ちょっと!カムラ!こいつらを私の所に寄越さないでよ! ただでさえ防御呪文しかないんだから! 」
「そんなこと言ったって、 コイツら数が多すぎる! 」
二人は明らかに劣勢に立たされていた。 いくら低級の堕天使といっても、
一般の軍人10人がかりでやっと倒せる程の相手なのだ。 それをほとんど
知識だけで戦闘経験の浅いカムラと
防御呪文しか使えないミーシャが相手にしているのだ。
それでもカムラは敵の隙をついては一体一体確実に撃破していってる。
カムラが背後を狙われても、 ミーシャの防御壁でカバーされる。
戦禍の中で二人は着実に戦い慣れしてきていた。
「ウラァァアア! 」
気がつけば周りは赤く染まり、
倒れた堕天使が、 そこらかしこに存在した。
「カムラ! 後ろ! 」
ミーシャの掛け声と共にカムラは後ろを振り向く、 と同時に堕天使を切りつける。
激しい血飛沫を出しながら、 カムラの足元へと倒れた。
「ハァハァ。 後どのくらいいるんだよこれ 」
周りを見回すが堕天使共は、 まだ数十以上。
数はまだいるがそれでも次第に堕天使共は引き返しを始めていた。
「ミーシャもう少し踏ん張れ! あと少しの辛抱だ! 」
「後少しってどのくらい! てか人間のくせに私に命令するな! 」
そんだけ言い返せる元気があれば大丈夫だろう。
まったく自分よりも幼いのに自分よりも遥かに強く、
それだけの精神力を兼ね備えてる。
こうなってくると自分も負けてはいられないという気にさえなってきて、
さっきまで震えてたのに今は一秒でも早く敵を倒さなきゃいけない気持ちになってくるから不思議でならなかった。
「よしこのまま一気に殲滅するぞ! 」
後ろでミーシャがこくんと頷いたのを確認、
それから前の敵へと斬りかかる。
一体また一体と敵を確実に殺していく。
――・・・ハァハァ。 後何体倒せば・・・
少しのほんのわずかな瞬間、 奴らから視線が外れた。 下級堕天使共はそれを見逃さずに束になって襲ってくる。
「....なっ!? 」
――ミーシャに防御壁を頼むか!?駄目だ、距離があるし多分間に合わない。
・・・まだ何もしてない。 まだ誰一人助けてない。
何一つ成し遂げてないのに、 こんなところで死んでたまるかよ!
堕天使は叫びを上げながらカムラの肩に、
その長く尖った爪を右肩目掛けて突き刺した。
「うぐぁ。 のやろー 」
甲高い雄叫びをあげながら次々にカムラに押し寄せる。
しかしカムラは冷静に目の前の敵に対処していた。
「おい堕天使。 その爪抜くなよ。 でなきゃちゃんと斬れないからな。 」
カムラは右に持っていた剣を左手に持ち替え堕天使の首を切り落とした。
それから素早く堕天使の突き刺した腕を身体から離した。
そこへミーシャが駆けつけてくる。
「ちょっとー! 無事なの!? って! なにその出血量! 尋常じゃないよ! 」
「そんなことは分かってるさ。 それより敵は後どのくらい残ってる? 」
「多分後10体は少なくても 」
「後少し.....」
「ちょ、 その腕じゃ無理だよ! 」
「他に誰が殺るっていうんだよ!
あいつらと戦えるのが近くにいるっていうのかよ!」
「後は私に任せなさいー。 面倒いけど 」
のんびりした口調で後ろから一人歩いてきた
聞いたことある声だった。
それはさっきまでタイガーと戦闘を繰り広げていたマーブルの声だった。
「何でマーブルがここに… 」
「何でってそりゃあ残りの低級堕天使を殲滅するために仕方なく
手伝いにきたんだけどー 」
「違くて! そうじゃなくて! 」
――じゃあタイガーは負けたのか? あの隊長を倒した?
「ほらほらそういった面倒い話は後にして、 先にやることがあるんじゃない? 」
――そうだ。 今はそんなこと考えてる場合じゃない。
一刻も早く敵を倒さなければ。
「まぁその傷じゃあ足手まといだから、カムラはせいぜいそこの獣人の女の子に 守られてると良いよ 」
「何を!? 大丈夫だ。 まだいける 」
「初陣にしちゃあ良くやったと思うよ? それに今はアドレナリンが過剰に
分泌されてるせいで痛みは感じないけど実際はそれ結構やばい量だよ」
「だけど! 」
「大丈夫だから。 そこの獣人、 カムラを暫く頼むねー 」
それだけを言い残しマーブルは地上を舞った。
時間は、 それほどかからなかった。
マーブルは確実に敵を仕留めにいった。
的確に急所を突き刺し、風魔法による攻撃で相手を薙ぎ倒す。
それには思わず、 カムラも見とれていた。
「これで、 最後! 」
最後の敵も見事と言う他なかった。
全く無駄のない動き。 それでいて洗練されていて隙が全くない。
一体どれ程の鍛練… いやそんなもんじゃあ身に付かない、
実際に戦闘経験のある動きだった。
――今の俺にあんな動きは到底出来ない。
「さてと終わったことだし、 とりあえずそこらの空き家にでも入るかー 」
戦闘を終えたマーブルは二人を引き連れて
近くの空き家へと移動を開始した。
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