第11話 交換条件

「他にもいろいろ聞きたいことはあるんだけど、まず確認したいんだけど、あなたは私たちに害意はないのよね?」

「はい。色々助けてもらって感謝してます」

「それが前提として、取引をしない?」

「取引?」

「あなたは実際の所、このあたりで通じそうな言葉は何一つ喋れない?そうでしょ?」

「えーっと、どうしてそう思われたんですか」

「最初に会った時に、皆で口々に西方語、東方語、南方語、妖精語と色々試して話しかけたけど、どれも分からなかったからよ」

「あー、なるほど。多分そうです。分かりません」

「だから、とりあえず、意思疎通の魔法を教えてあげるっていうのが、こちらから出せる条件」

「願ってもないですが、取引というからには、こっちから何を出せば?」

「その空間魔法を教えてと言いたいところだけれど、無理よね?」

「うーん、教えられるものなら教えたいのですが、なにぶん分からないもので」

「じゃあ、町に戻ったら、スクロールに写し取ることはできる?」

「スクロール?」

「魔法は一定のやり方で、スクロールに書ければ、発動せずに写し取ることができるの。スクロールを読めば、魔力を消費せずに魔法を使う事ができるし、素養があればスキルとして身につく事もあるわ。それならどう?」

「えっと、意思疎通の魔法もそれで覚えるってことですか?」

「違うわよ。あなた魔法言語が読めるわけじゃないでしょう?たぶん」

「んー、たぶん読めないです」

「でも、たぶん、あなたには素養があると思うのよね」

「何でですか?」

「意思疎通の魔法の持続時間が、かけるたびに長くなっていっているからよ。多分私がかけた魔法を、かけられたあなたの方でも下支えしているんだろうし、それって素養があるってことなのよね」

「そう言われれば、今気が付いたけれど、長いこと喋れてますね」

「それに、あなたが意思疎通の魔法を覚えて使えるようになれば、自分で分からない空間魔法についても、理解して教えられるようになるかもしれないし」

うんうん、とうなずきながら納得している。

「分かりました。ぜひお願いします。ちなみに魔法を覚えるのって、簡単なんですか?」

「まさか!?言葉を覚えるよりも、よっぽど難しいわよ。でもあなた、魔術師に向いているのよ。さっき使っているの観察してて思ったんだけど、持ってる魔力がかなり多いんでしょ?」

どうなんだろう?元の世界にいた時から多かったけれど、こっちの世界で比べたこともないし。

「どうでしょう?誰かと比べたこともないですし、測ったこともないですね」

「測ったことがない?鑑定をしてもらったことがないって言うの?」

「ないです。鑑定があるなら、是非やってもらいたいものです。鑑定も魔法なんですか?」

「そうよ。識別系の魔法で、私は素養がないから使えないけれど。鑑定の魔道具はそれなりにポピュラーで、どこの冒険者ギルドにでも置いてるわ。もう、本当に何にも知らないのねムツキ君。ムツキ君はどこから来たの?」

ピディーさんが見つめてくる。これは、異世界から来たってことを言うべきなんだろうか?うーん、悪い取引じゃなさそうだし、悪い人たちじゃなさそうなんだけど、判断がつかないから、保留で。

「魔法と同じで申し訳ないんですけど、説明が難しいんですよ。かなり遠くの方からです、たぶん」

「まあ、いいわ。とりあえず私もあれこれ整理して考えたいし、魔法もさわりぐらいは教えなきゃだし、詮索はこれぐらいにしておきましょう。じゃあ、いったん意思疎通を解除するから、それまでにあれこれ説明しておくね」

「何で解除するんですか?」

「この魔法はマジックワードの中身も翻訳しちゃうの。例えばさっきの光の精霊魔法はなんて言ってた風に聞こえた?」

「えーっと、確か、『光よ共にあれ』だったような?」

「意味はそれであってるのよ。それを精霊語で正確に発音し、適正な魔力を注ぎ込んで、はじめて魔法が発動するわけ。でも、翻訳されちゃうと発音が分からないでしょ?」

「なるほど、それは確かに」

「例えば意思疎通の魔法も、意味としてはこんな感じよ」

そういって、ピディーさんは背中に持たれていた樹木に向かって呪文を唱えた。「そこ元との疎通を可能たらしめるに足る、魔力の介在による意思の交換をここに宣言する」


おお、こんなことを言っていたのか。前聞いたときは早口でシュルシュル言ってたように聞こえてたけれど。


「分かったかな?だいたい」

「今のところ、判ったような気がします」

「じゃあ、意思疎通を解くから、それでもう一度聞いてみて、できればその発音と魔力量とを観察しててね。それが終われば、今日の授業はおしまい。洞窟に戻ってリュリュを起こして、ムツキ君は寝なさい」

「分かりました」



じゃあもう一度やって見せるわよ、という身振りで木の方を振り返って、再び呪文を唱えた。

「પર્યાપ્ત છે કે તે નીચે સ્ત્રોત, જાદુ હસ્તક્ષેપ અહીં દ્વારા ઈરાદો વિનિમય વચ્ચે વાતચીત કરવા શક્ય બનાવવા જાહેર」

呪文と同時に魔力が収束して樹木に流れ込むのが分かる。こ、これは、なかなか覚えるのは、骨が折れそうだ。

ピディーさんはにっこり笑って、洞窟の方を指さす。

そんなわけで、洞窟に戻った俺は、リュリュさんと交代し、眠りにつくのであった。

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