第10話 鋭いメス

眠たげなフィリスさんも可愛らしかったけど、寝ぼけ眼のピディーさんも何というか、色っぽいな。

そんなことを思いながら、見ていたのが気に障ったのか、「何ジロジロ見てるのよ!」と怒られてしまった。


「すいません。まだ眠いのかなーと思って。そう言えば、フィリスさんに聞いたんですが、普通の魔法と、精霊魔法が使えるんですってね」

「そうよ」

「精霊魔法って、どんなのですか?」

そう尋ねると、ピディーさんは思案深げな顔をした。


「ピディーさん?」

「あ、ああ、そうね。精霊魔法ね。例えばこんな感じよ」


そういって、指先を俺の目の前に掲げ「光よ共にあれ」と唱えると、ふわっと明るい光が集まりだした。


「この子たちはウィプス。光の精霊たちよ。寂しがり屋で集まるのが好きなの」

「へー。すごいなあ。魔法が使えるなんて」

「そういうあなたは、どうなの?ムツキ君?」

やけに真剣な顔をして、ピディーさんは詰め寄ってきた。


「最初に寝た時に、寝床を平らにならしておいてくれたでしょう?あれって、あなたん仕業よね?」

「えっと、・・・はい。そうですね。ちょっと凸凹してたんで、寝にくかったんで」

「別にそれを怒っているわけじゃないのよ?ただちょっと変だなって思って」

「何がですか?」

「私も例えば、土の精霊にお願いして、似たようなことはできると思うわ。でもあなたのやったことは、それとは違うんでしょう?だって精霊魔法を今初めて見たんだろうし」

やばい。何か知らないけど、ピディーさんの眼が真剣だ。

「は、はあ、まあ、そうですね」

「念のために土の精霊にも聞いてみたけれど、あの子たちも『知らない、呼ばれてない』って言ってたわ。もちろん大地の神に祈ったら、フィリスが気付くだろうし、普通の魔術なら、その残滓で私も分かる。でも、そのどれでもない。あなたはいったい、どうやって寝床をならしたの?」

これは、何というか、詰め将棋みたいに来てるな。

「どうやってと言うか・・・、なんて言いますか・・・」

「他にもあれこれ聞きたいことはあるんだけど、まずは寝床の事から説明して頂戴」

うーん、困った。説明のしようがない。やって見せるしかないか。

「えーっと、じゃあ見ててください。こうやりました」

手のひらを地面に押し当てて、能力を使う。地面が手の形にくぼんだ。

「こんな感じです」

「!?今のはなに!?呪文も真言も精霊語も一切使ってないわよね」

「そうですね、地面を凹ますだけですから」

「そういう問題じゃないでしょう?あなたはどうやって・・・、その、どうやって魔力にアクセスしているの?」

「うーん、なんて言いますか、元々できたことなので、どうやってするのかが説明できないというか。逆にピディーさんから見て、変なことをしているように見えますかね?」

「見えるわよ!しかも、これ、土を平らにしているんじゃないのね?むしろ、そこにあった土を消してるのね?ほら、小石がこんな風にえぐれているなんて、精霊魔法じゃないことは確かよ!どうやったの?」

だんだん興奮してきたのか、ピディーさんの声が大きくなっている。

「うーん、何というか、生まれた時からできたので、何とも理屈が分からないんです。ただできるとしか」

しかし、なんとなくadministratorが言ってたことを思い出しながら、付け加えた。

「昔、詳しい人にがどうとか言われたことがあります」

「空間魔法!ロストマジックじゃないの!あなたがどうしてそれを・・・って、聞いても無駄なんだっけ?」

「はい・・・、残念ながら」

うーん、とうなり声をあげて、ピディーさんは地面についた手形と俺の顔を交互に観ながら、何か考え事をしている。

そうか。なんというか、この3センチは役に立つかどうかはさておき、珍しい事なんだな。

しばらく沈黙したのち、ピディーさんは口火を切った。


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