第9話 夜警

ぱちぱちと音を立ててはぜる焚火を見ながら、今日の事を振り返っている。


どうせ無理な成績を求められて、異世界に飛ばされる直前、せめてもの抵抗として全力で能力を使ったこと。

良く判らない魔力にあふれた白い空間で、今までに無いぐらいの魔力を注ぎ込んで、底を抜いたこと。

落ちたと思ったら、また引き上げられて、administratorを名乗る美女に自分のしでかしたことを罵倒され、始末をつけるように言われたこと。

そして、運よく三人組の冒険者のパーティーに拾われて、今に至ったこと。


いやー、平凡な男子高校生にとっては、怒涛過ぎる一日だった。


そんな一日は、まだ終わっていない。ホビットの洞窟と言われる小さな穴倉の外で、モンスターが来ないか見張っていなければならない。

とは言え、実のところそんなに難しくない。

ピディーさんの魔法で、半径1㎞以内に敵対的な意思を持つ生物が近づいたときは、置いてあるベルが鳴ることになっている。

このベルは魔道具らしい。なんにせよ知らないことが多すぎる。administratorは剣と魔法の世界と言っていた。実際に魔法で通じない言葉が通じた。きっとこのベルも必要な時には鳴るのだろう。


基礎能力は、たぶん上がっているのだろう。少なくとも体力というか、持久力は馬車について小走りに走って、それなりに疲れたけれど、なんとかついていくことができた。三人は交代で変わろうと言ってくれたけれど、お邪魔しているのに走らせるのは申し訳ないと断った。

洞窟に着いたときは、日も暮れていて、三人がてきぱきと焚火を起こし、夕食を作るのをぼんやりとみていたら、夕食ができたら起こしてあげるから、先に寝なさいと言われた。

断ったら、「順番だから、気にすること無い」と言われて洞窟に潜り込んでみたが、床が結構凸凹していて、寝にくいったりゃあらしない。

ここはようやく出番だと、唯一できる3センチの能力を使って、床を平らにならしておいた。これで寝やすくなったぞ。

起こしに来たフィリスさんがビックリした顔してたな。


何気にこの世界で初めて能力を使った気がするけど、心なしか使いやすかった。あの白い世界ほどでないけれど、魔力が満ちているのか、自分自身の魔力が上がっているのか良く判らないけれど、一度に動かせる範囲が広がっていて、しかもあまり疲れなかった。


みんなは夕飯を食べ終わっていて、ピディーさんは俺に翻訳の魔術をかけると、リュリュさんと一緒に警報アラームの魔術をかけに森の中に消えていった。

フィリスさんと二人でご飯を食べながら他愛ない話をしていると、二人は戻ってきて、寝るから後はよろしくと魔道具のベルを置かれて、洞窟の奥に消えていった。

しばらくぼそぼそと話している声が聞こえていたが、やがて寝息が聞こえ始めたから、寝たのだろう。


「フィリスさんの鎧についているそのマークは、何なんですか?」

「これ?これは豊穣の女神さまの紋章よ~。見たこと無い~」

「あー、無学なもので。豊穣の女神さまってどんな神様なんですか?」

「素晴らしいお方よ~。我々の大地に恵みを与えて下さっているの~」

「フィリスさんも、魔法が使えるんですか?」

「私のは~魔法というより~、神様にお祈りをささげて~、かなえてもらうって感じかな~」

「魔法にもいろいろあるんですね」

「ピディーは~普通の魔術と~、他にも精霊魔術も~使えるのよ~。すごいでしょ~」

「精霊魔術って言うのもあるんですね。それはどんなのですか?」

「ん~私たちの神聖魔法にちょっと似てるけど、お願いをするのが神様じゃなくって精霊なの~。精霊は~仲良くなると~いろいろ手助けしてくれるけど~結構気まぐれだって~ピディーは言ってたわ~」


フィリスさんの言葉の伸びが、ますます伸びている。結構眠いんだろうな。俺は先に一回寝させてもらっているから、まだ大丈夫だけれど。


「そろそろ交代の時間なんじゃないですか?」

「ん~?もうそんな時間かな~?」

「そうですよ。リュリュさんがあの太い薪が燃え尽きるぐらいが交代の時間だって言ってたじゃないですか」

「そ~ね~。たしかに~そ~言ってたかもね~。じゃあ、ちょっと交代してくるから~、おやすみ~なさい~」


そういって、フィリスさんは洞窟の奥へと消えていった。変わって眠そうに出てきたのは、ピディーさんだ。


「ピディーさん、おはようございます」

「ふわぁ~、おはよう」

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